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最高の旦那様

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最高の旦那様

6 - 第6話 旦那様は時々頼まれ講師。2

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2024年01月10日

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「しかし……素敵なデザインのネックレスですねぇ」


ほぅ、と紗枝が溜め息を吐く。


「料理教室につけていく物ではないと言ったんですけれど……」


つけて行かないと駄目ですよ? と重ねて言われ、ネックレスも指輪もわざわざ夫がつけてくれた。


「旦那様がつけておくれとおっしゃったんですね? と、言うか、もしかしてつけてくださったんじゃないんですか」


私、わかってますよ! ときらきらとした眼差しで、亜美が首を傾げる。


「はい。そうなんです」


否定するのも仕方ないので肯定しておく。

三人三様の嬉しそうな悲鳴があがった。


私は改めて自分の格好を頭の中でなぞらえる。

紺のシンプルなAラインワンピースは足首まであるロング丈。

襟、袖、裾に手縫いの綿レースが幅広く縫い付けられていた。


スクエアカットに開いた胸元には、日本の老舗が限定品として出したサファイアのネックレスが輝いている。

メインはハート型にカッティングされた三十カラットのサファイア。

ネックレス部分はダイヤで花柄をモチーフにして繋がっている。

本音で言わせてもらえるなら……重い。

このネックレスを外したあとは、必ず夫に念入りなマッサージをしてもらっているほどだ。


左手の薬指には、十カラットのハート型サファイアをダイヤが囲んでいるデザインの指輪が嵌まっている。

料理をするのに指輪は! しかもこのデザインは無理すぎます! と強く拒否したが、対で買ったのだから駄目です! 許せません! と頑なに却下されてしまったのだ。

指輪をするくらいなら、イヤリングの方が良いとも訴えたのだが、そちらの意見もどうしてだか拒否された。


「人にもよると思いますけどねぇ。麻莉彩さんがされていると、むしろ体の一部かというくらいにしっくりしていますわ」


「あら? でも佐瀬奈≪させな≫の御老体は麻莉彩さんに御執心だった気が……」


「……そういえば、確か息子さんも、ですよね?」


「そもそもハートデザインを始めた切っ掛けが麻莉彩さんだったはずですよ。御老体が推し進めたらしくて、息子さんが驚きながらも大賛成したとか」


「はい?」


何か恐ろしい話を聞いた気がする。


「あら、御存じない?」


「ふふふ。麻莉彩さんらしいですね」


「お噂通りの方で……本当、お近づきになれて嬉しいです!」


好意的なものであるのは大変有り難いのだが、どんな噂が回っているのかは、気になるところだ。


「そういえば、エプロンはどんなものをお持ちになりましたの?」


「はい、これになります。亜美さんでしたら着こなせそうですが、私には愛らしすぎるかと」


綿レース仕様なのは好ましいのだが、ポケットと胸部分がハート型なのだ。

アクセサリーがハート型の分、エプロンのデザインは大人しくしてほしかった。

白一色なのが、せめてもの救いかもしれない。


「私だと、丈があわないわ。でも麻莉彩とお揃いで着るんだったらいいかも!」


「ああ、お揃いのエプロンというのも良いですね。ベタな友人らしくて」


「色違いのモチーフ違いとか如何ですか 次回には間に合わせますよ」


着々とお揃いエプロン計画が進んでいる。

優貴のセンスなら問題はないはずだ。

夫も喜んでくれる気もする。

料理教室が始まる前にと夫が用意してくれた場は、想像以上に穏やかに嬉しく、少々面映ゆくもあるものだった。


全員揃って教室内に入って行く。


三人は常連らしく、あちらこちらから声がかかる中、場違いすぎる醜い罵声は、残念ながら自分へ向けられたようだった。


「ちょっと! なんであんたがここにいるのよ!」


「え! 嘘! 御薬袋≪おみない≫なの?」


「信じらんない! あんたみたいな屑が来ていい場所じゃなんだよ? ここはさぁ!」


偽セレブですね? と心の中で突っ込みを入れながら、さて誰だったろうか、と記憶を探る。


中学高校辺りの同級生だったような気もするが、自分をいじめる人間に興味の持ちようがなかったので覚えていない。


「……どちら様かしら」


麻莉彩を庇うように移動した優貴がふわりとどこからか取り出した羽扇子をはためかせて、にっこりと首を傾げる。

亜美はぎゅっと麻莉彩の腕に縋り付き、紗枝はさりげなく手首を絡ませてきた。


「そういうあんたこそ、誰よ! 私たちの名前が聞きたかったら、名乗りなさいよ!」


「……ちょ! るりるり! この人っ! あれっ!」


人を指差してはいけないと、幼稚園の頃に教わりそうなものだが、彼女たちは習ってこなかったのだろうか。


「ごめんなさいね? まさか、このお教室で私の名前を知らない方がいらっしゃるとは思わなかったものですから。穂河優貴と申しますわ」


「げ! 化け穂河《ほのかわ》!」


周囲の気温が一度下がった気がした。

日本御三家の一つとされている名家に、大なり小なりかかわりのあるセレブは多い。

彼女は非常識的過ぎる暴言で、周囲を一気に敵に回した現実に気が付いているのだろうか。


「ばけほのかわ、ですか? それは、どういう意味なのでしょうか?」


「す、すみません! 美しすぎて人間ではないみたいというお話を聞いておりまして! お噂通りのいえ、想像以上の美しさに驚きの余り失礼な表現を使ってしまいました! 私は武志摩美望≪たけし まみむ≫と申します」


三人の中では、彼女が一番まともなのだろうか。

微妙にフォローになっていない気もするが。


「申し訳ありません! ただ、ただ! 貴女様の背後にずうずうしくも隠れている女が、どうしようもない屑で、私たちは散々な目にあったものですから、つい! 我を忘れてしまいましたわ! 有栖姫凜≪ありすひめり≫と申しますわっ!」


まだ暴言を吐いた彼女は謝罪すらできていない。

屑と信じて疑わない存在が名家の貴人に庇われている現状が把握しきれていないのだ。


「屑、とは?」


「優貴様のっ!」


「貴女に! そう呼んでもいいと。許可を出した覚えはありませんよ?」


「っ! 失礼いたしました。ですがっ! 屑が穂河様のそばにいるのが許せないのです! 御薬袋麻莉彩! 私たちに嫉妬して散々貶めた挙げ句、逃げ去った恥知らずですわっ!」


そう言われて、思い出した。

夫がここならと選んだ有名女子高校。

やんごとなき血筋の御令嬢ばかりが集まっているから安心だろうと入学すれば、当日から難癖をつけてきたのが彼女たちだった。


罵声を浴びせられるのも、虫や小動物の死骸を仕込まれるのも慣れた自分には、微塵の痛痒も感じなかったが、夫がせっかく誂えてくれた小物を盗まれるのは腹立たしかった。

壊されたり捨てられたりするのなら、まだマシだ。

夫が厳選した物を私の代わりに使われるのが耐え難かったのだ。


心配させたくはなかったが、小物を三点盗まれた段階で夫に報告した。

やっと報告ですか……と肩を落とされたときの表情は、嬉しそうにも切なそうにも見えた。

もっと早く言えば良かったのかと問えば、当たり前ですよ、と鼻の頭を極々軽くデコピンをされたのは悪くない思い出だろう。


私が心地良く過ごせるようにと、信じられない額の寄附金を積んだこともあって、入学して僅か一ヶ月で退学しても、卒業証書をもらえたのには笑えた。


彼女たちへの制裁は、やったいじめの数々を考えれば可愛らしいものだったと思う。

全校集会で私が、彼女たちからのいじめで退学すると告げただけなのだから。


その際に、彼女たちが他の生徒たちから綺麗に無視され、入ってきた後輩たちにまで徹底した申し送りがされたのは、彼女たち自身の意思と夫との関係を考えた親たちの判断だろう。


三人の両親が土下座して多額の慰謝料を払ったので、仕事では辛うじて繋がりを持つ慈悲を許されたが、プライベートでは一切かかわりを持たないようにと通達されているのを、三人は知らないはずもないのだが。

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