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抱擁したままベロベロし続けている二人から目を逸らしたレイブは、フランチェスカの足元に放置されているままだった、豪奢(ごうしゃ)なそれ専用らしい長剣に手を伸ばして拾い上げた。
持ち上げて顔に近づけて見ると、柄(つか)の拵(こしら)えに見た事も無い宝玉や金属があしらわれて居り、レイブが遠目で見て想像したよりも随分と高価そうな品である事が、幼い目にも明らかに見て取れたのであった。
更に驚いたのはその真紅の刀身である。
赤一色に見えたそれには、僅(わず)かな濃淡の違いであったが、不思議な文様が浮かび上がっていたのだ。
幾つも浮き上がっている文様は、正円の中に二つの正方形が角度をずらして重ねられており、その内側にはまたもや円が配置されている。
内側の円の中には意味不明のシンボル、文字らしい物が十数個描かれていたが、こちらは一つ一つ違っている様だ。
それらの文様が途切れる事無く、鮮やかな明滅を繰り返していたのである。
まだまだ幼く、狭い世界しか知りえなかったレイブは、その美しい煌(きらめ)に引き込まれていく。
――――なんて綺麗なんだろう! 模様の意味は判んないけど、きっとモノ凄い効果があるんじゃないかなコレ? こうして手にしているだけでもグングン体中から力が吸い取られていくのが判るし、多分コレって、た、た、ぶ、ん…………
「きゅうぅ~」 パタリ!
何故か変な声を上げて気を失うように倒れこんでしまったレイブ。
流石に師匠といった所か、ベロンベロンしていたバストロが瞬時に気が付いて幼い弟子の体を抱き上げて言う。
「れ、レイブっ! ヴノ、ペトラ、回復を頼むぅっ!」
『お、おう、『回復(ヒール)』』
『うんっ! 『微回復(プチヒール)』! 『微回復(プチヒール)』! 『微回復(プチヒール)』!』
ヴノが一度詠唱する間に、下位互換のスキルとは言え三度詠唱を果たすペトラ、冬篭り中の魔力操作訓練の成果が感じられた。
四つの回復を受けたレイブは見る見る内に、青く転じてしまっていた顔色を元々の色合いに戻して行ったのである。
レイブの口から覚醒の音が漏れる。
「う、うーん……」
バストロは腕の中でぐったりしたままの愛弟子(まなでし)を見つめて大声だ。
「れ、レイブッ! 大丈夫かぁっ! 確(しっか)り、確りするんだぁっ!」
薄っすらと目を開いたレイブは唯一全幅の信頼を置いている、自らの師匠に微笑を返しながら口にする。
「師匠…… 大丈夫…… 何か急に全身から力が抜けちゃってさぁ…… でも、皆のお蔭で治ったよ…… 心配しないでね……………… もう大丈夫だから、らら、ら、き、きゅうぅ~」 パタリ!
「れ? レイブうぅーっ! 全然大丈夫じゃないじゃないかぁっ! ば、バカヤロウっ! い、一体、ど、どうすれば良いのやらぁっ~! 殴ってみるか? 殴るしかないのかぁっ?」
さっきまで馬鹿と一緒にベロンベロンしていたくせに、落ち着き払って冷淡な声が答える。
「バストロ! 原因は多分アタシのそれ専用の剣だよ、その魔剣、『モクスラ・ベ』を握っている限り魔力、生命力が吸われ続けているんだよ…… まずそれを取り上げてから回復させなきゃ駄目なんだよ、判る?」