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目黒の顔から、さっと血の気が引いた。康二の沈黙が、重く、冷たい拒絶の言葉となって突き刺さる。もう、何を言ってもダメなのかもしれない。絶望が心を支配し、目黒は握っていた手から力を抜いた。
「…ごめん。…やっぱ、なんでもない。忘れて」
力なくそう言って立ち上がろうとした、その時だった。
「待って…!」
今まで黙っていた康二が、はっとしたように声を上げた。そして、離れかけていた目黒の手を、今度は康二の方から掴み直す。
「なんで…なんで、めめが謝るん…?」
その瞳は、もう困惑してはいなかった。ただ、純粋な疑問と痛みをたたえている。
「俺が、康二を傷つけたから」
「でも…!俺やって、最初から酷いこと言ってめめを傷つけて…!めめが謝ることなんて、ないやろ?」
目黒は、かぶりを振った。
「康二は、自分ばっか追い込みすぎだよ…。そもそも、ミスしたのは俺だったのに」
「でも…!体調悪いって、俺が最初から言っておけば…。めめに、こんな顔させちゃったのは、俺やろ…?」
違う、と目黒は康二の目をまっすぐに見つめ返した。
「違うよ、康二。それは違う。俺は…お前が体調悪いのに、朝から気づいてた。気づいてたのに…声をかけなかったんだ。全部、俺のせいだ」
その告白に、康二は息を呑んだ。そして、掴んでいた手に、ぽたり、と涙が落ちる。
「…ごめんなさい…。ちゃんと、伝えとけば…よかった…」
「うん…」
目黒は、空いている方の手で、康二の涙を優しく拭った。
「じゃあ次からは、お互いちゃんと教え合おう?しんどい時も、辛い時も。それで、解決しよう?」
その優しい提案に、康二は涙で濡れた瞳のまま、こく、こくと何度も頷いた。
「うん…言うように、する…。ちゃんと言うからさ…」
そして、最後の一滴の不安を振り払うように、康二は懇願する。
「…許して、くれへん…?」
その言葉に、目黒は、ようやく心の底から微笑むことができた。
「許すもなにも…。俺の方こそ、本当に、ごめんね」
その笑顔と言葉に、康二の心を覆っていた分厚い氷が、ようやく完全に溶けていくのがわかった。張り詰めていたものが全て消え、安堵感から、ふっと息が漏れる。
「ううん…。ありがとう、めめ。なんか…めっちゃ、軽くなった」
康二も、泣き顔のまま、へにゃりと笑った。
それは、まだ少し痛々しいけれど、確かな絆を取り戻した二人の、新しい始まりの笑顔だった。
リビングで固唾を飲んで見守っていた深澤が、その様子にそっと胸を撫で下ろしたことには、まだ誰も気づいていない。アンファインダーの向こう側では見えない、不器用で、どうしようもなく愛おしい、彼らの日常はこうして続いていく。