ところがその両立はそう簡単には両立できなかった。私は音楽大学で声楽を専攻していた。
4年生にもなってくると課題は難しくなる一方で、音を取るのに時間がかかり、そこに歌詞を付けるのも苦労する。その上共通科目ともなると頭が爆発しそうだ。それでも私は声優の勉強を優先してしまった。今やるべき音楽や共通のの勉強を放り出して。
「夢奈! 何この点数!? 今は大学の勉強を優先させるんでしょ!? こんなんじゃ単位落として卒業できないわよ!」共通科目のドイツ語の小テストが10点中1点だった。理由は分かっている。小テストの前日に勉強を始めたからだ。そんな1日で頭に入る訳がない。ドイツ語は小テストの積み重ねで、その点数と平常点で点数が付くというのに。腹式呼吸や早口言葉・母音練習・文章を読む練習ばかりしていて、ドイツ語の教科書を開こうともしなかった。その結果こうなったという訳だ。
「私ってバカだ……まずこっちが優先ってのに……」自分の部屋で落ち込んでいると。
ガチャ。部屋の扉が開いた。
「ドイツ語のテストボロボロだったんだって?
夢奈、声優に本気なのは分かるけど、テストがあるって分かってるのなら、せめて1週間前はその勉強しないと、テストや試験前じゃなかったら、課題やった後に声優の勉強しても構わないから、な? 頑張ろうぜ」圭兄ちゃんが部屋へ入ってきた。
「うん……そうだよね……」私は肩を落とした。
「まぁこんな時もある! 変われるチャンスだ!」圭兄ちゃんは私の背中を強く叩いた。
「そ、そうだよね!」私は圭兄ちゃんのお陰で前を向くことができた。