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目黒くんとご飯を食べに行った日から、早いもので、もう二週間が経とうとしていた。
目黒くんは、毎日いろんな連絡をくれる。
例えば、「阿部ちゃん、四つ葉みつけた。」というメッセージと共に四つの葉がついたシロツメクサの写真を送ってくれたり、「今日ロケでザリガニ釣った!」と嬉しそうに釣れたザリガニを、顔の前に掲げた目黒くんの写真が送られてきたり、毎日一つ以上の報告をくれる。
俺はこれを密かに【目黒くんニュース】と呼んでいる。それとは別に、毎日「おはよう」「おやすみ」も送ってくれる。
いつだって目黒くんは、こうやって俺と繋がっていてくれるから、会えない時間も寂しくない。
心が温かくなるこのささやかなやり取りが、俺はとっても好きだ。
でもやっぱり、最後に会ったのが二週間前だと、流石に恋しさが募る。
目黒くんはとっても忙しいと思うから、あんまりわがままを言うのは良くないよなぁ、と少し遠慮してしまう。疲れてるだろうし、遅い時間までやり取りが続くのも迷惑かなぁ、と思うと返事をしたい気持ちを鎮めて眠りにつくこともあった。
たまに、強い眠気が襲ってきて、そんなことを考える間もなく本気で寝落ちてしまうこともあるけど…。
今なにをしているのか、それがわからないなら電話をかけるのも良くないよなぁ、とも思う。
つまるところ俺は、流石に目黒くんの人肌が恋しくなってきてしまったので、目黒くんとせめて電波を介してもっと繋りたいのだけれど、迷惑になることが怖いのだ。メッセージを送ることも電話をかけることもできなくなってしまっているのだ。
こういう時、世の皆さんはどうしているんだろう。
「恋人 なかなか会えない 対処法」とかで検索してみたら、なにかヒントをもらえたりするのかなぁ、なんてぼんやりと考えながら、会社の食堂でお昼ご飯を食べていた。
今日の【目黒くんニュース】は、
「おいしいハンバーグもらった。冷凍していつでも食べられるようにって、パックみたいなやつに入ったのもらったから、今度一緒に食べよう?」とのことだった。
「パックみたいなやつ」というのは、きっとパウチのことを言ってるのかな?
ハンバーグなんて、しばらく食べてないなぁ、一緒に食べられるの楽しみだなぁ。
今ご飯を食べている最中なのに、なんだかお腹が空いたような気がした。
「よかったね!俺もいただいていいの? うれしい、楽しみにしてるね」と返信して、食べ終えた定食のトレーを持って立ち上がった。
今日は比較的早めに帰ることが出来た。
20時に帰宅できるなんて奇跡に近い。なにかやり忘れたことがあるような気がしてそわそわしてしまう。自分の中で、仕事ができないと思い当たる節はそこまでないはずだけれど、誰かに仕事を頼まれてしまうと断りづらくて、結局全部引き受けてしまう。
おそらく毎日遅い時間まで仕事をしているのはこのせいなんだろうな、とは思うけれど、特に仕事以外にしたいこともないので、この調子でずっとここまで来てしまった。
早めにお風呂を済ませて、ご飯を食べる。
早く帰ることは出来たけれど、急にゆとりのある時間ができてしまうと、なにをしたら良いのかわからなくなってしまうものだ。何の気なしにテレビをつけてみる。
ニュース、スポーツ番組、ドラマ、映画、色々なものが放送されていたけれど、バラエティ番組にチャンネルを切り替えた瞬間に、ボタンを押す指を咄嗟に止めた。
目黒くんが映っている。
テレビ越しに目黒くんを見るのは初めてだった。
なぜか緊張する。お仕事をしている目黒くんの姿は、なんだかすごくキラキラしていた。なんだろう、王子様?みたいな?
俺がいつも見ている目黒くんは、もうちょっと、なんか、こう、わんちゃん?みたいな感じだから、こんな一面もあるんだなぁ、と見惚れてしまった。
目黒くんがゲストとして出演していて、周りには女性の方がたくさんいる。
その女性の方々はみんなで目黒くんのことを褒めていた。
その映像になんだか勝手に俺まで嬉しくなった。かっこいい、完璧、素敵、そんな言葉が飛び交う中、俺は目黒くんが褒められていることが自分のことのように嬉しくて、幸せな気持ちで満たされた。
たくさんの人が目黒くんを認めてくれていることが嬉しかった。
一方で、それだけの期待と称賛に溢れた場所で、たった一人ずっと戦い続けることは、確かに本当に怖いことだろうなとも思う。失敗も失態も許されなくて、たった一つの選択を誤るだけで見放されてしまう。
そんな環境に目黒くんはいるんだなと思うと、少し切なくなった。無理だけはしないで欲しい。
番組の内容はどうやら、恋愛の話題なようだ。テーマは愛情表現について。
司会の方が、目黒くんに質問する。
「目黒くんは、好きな子にどんな愛情表現するの?」
「僕は、結構ストレートに言いますね。可愛いとか、好きとか、思ったら言いたいというか、つい出ちゃう感じですね。」
テレビからは歓声が上がっているが、途端に俺はそれどころじゃなくなってしまった。
いつも好きって言ってくれる、目黒くんのあの声がフラッシュバックして、繰り返し何度も何度も頭の中に響き渡る。大切なものを包み込むように優しく見つめてくれる、あの瞳が蘇ってきて俺に微笑んでくれる。
むず痒いような、浮かれているような、気恥ずかしいような、ふわふわした不思議な感覚に襲われる。
いつものあれは出ちゃってたのか…。どうしよう。今、すっごく嬉しい…。
「あぁ…会いたいなぁ…。」
誰もいない部屋で、ぽつりと噛み締めるように呟いた。
目黒くんが出ていた番組が終わったので、今日はもう寝ようと、テレビの電源を切った。今日は俺が先に「おやすみ」を言える日みたいだ。その四文字を打ち、月のスタンプもつけて送信し、歯を磨くために洗面所へ向かった。
ベッドに入り、スマホに充電器のプラグを差し込むと液晶が明るくなって、通知が来ていたことに気付く。
開いてみると、それは目黒くんだった。
今日のおやすみに返事してくれたのかな、今日2つ目のニュースかな、なんて予想しながらトーク画面を開くと、そこには、
「来週の土曜日の夜、早く帰れることになったよ!もし阿部ちゃんの予定が空いてたら、前一緒に行こうって言ってくれたカフェ行こう!」
と表示されていた。
誰かがさっきこっそり呟いた俺の言葉を聞いて、目黒くんと会わせようとしてくれているみたいで、何かに感謝したい気持ちで溢れた。
目黒くんに会える、嬉しい。
ベッドの上で正座して、どう返事するか考える。
「うーーん…あんまり元気すぎるのもおかしいかな…かと言って、そっけない感じなのも変だし…難しい…。」
悩みに悩んだ末、
「うん空いてるよ、会えるの楽しみにしてるね!でも無理はしないでね。」
とだけ送った。
打っては消してを繰り返し、悩みすぎて、結果全ての言語がゲシュタルト崩壊した。なにが良くてなにが良くないのか、よく分からなくなってしまった。
そっけなかったか、充分だったか…。これで大丈夫かな…。
そんな心配をよそに、目黒くんからまた、「向かう時、連絡するね!今のところ20時前くらいになりそう!」と、返信が来た。元気な様子がその文面からは読み取れたので、おそらく大丈夫だったのだろうと安心して、太陽のマークに「OK」と書かれたスタンプを目黒くんに送った。
それから、続けてオーナーへも「こんばんは。来週の土曜日、この間話していた子とお邪魔したいのですが、お忙しいですか?」と送った。すぐにオーナーから「いいよ!阿部にもその子にも会えるの楽しみしてるね。」と返ってきたので、お礼を伝えてから、スマホを閉じた。
目黒くんと会える、その一心で毎日を過ごし、その日はとうとう明日というところまで迫った。前回の失敗を活かし、事前にオーナーにー、ファッションチェックなるものをしていただいた。
目黒くんと一緒に行くと連絡をした次の日に、そう頼むと、オーナーは家行こうか?と言ってくれたのだ。ご厚意に甘えてお店が終わる頃、オーナーをお迎えに行った。
ストライプのシャツに、深緑色の厚手のカーディガン、黒いスキニーを選んでくれた。「これ着けてもいいかもね」とオーナーは、側にあった丸い眼鏡を差し出した。
かけてみると、なんだか利発そうでもあるし、柔らかい雰囲気になったようにも見えた。自分ではこんな組み合わせをしたことがなかったので、ちょっとドキドキした。
オーナーにお礼を言うと、
「いえいえ。可愛いね、恋してる子は。」と楽しそうに笑うので、なんだか照れてしまった。
目黒くんから、お仕事が終わったとメッセージが来た。俺の方も準備は終わったので、「お疲れ様!気をつけてね!」と返した。
服もバッチリ、忘れ物も、戸締りも全部済ませて、家を出る。
足取りが自然と軽くなる。やっと目黒くんに会える。嬉しい。楽しみ。
5分ほど歩いて、お店の前に着いた。あらかじめ位置情報を送っておいた目黒くんに、先に入っているねと連絡してからドアを開けた。
「こんばんは」と言いながら中に入ると、お店の中ではラウールくんがモップで床を磨いていた。
「あ!阿部ちゃん!待ってたよー!こんばんは!!」
「こんな時間にお邪魔しちゃってごめんね、ありがとう」
「全然だよ!僕も楽しみにしてたんだ!阿部ちゃんの好きな人に会えるの!」
「あ、あはは…恥ずかしいな、、」
「もうすぐ来るの?」
「うん、そのはずだよ。今日は20時前くらいに会えるって言ってたから」
「あとちょっとだね!早く来ないかなぁ」
なんて、話していたら、背後でカランコロンとドアが開く音がした。
目黒くんが到着したのかなと思い振り返ると、そこには知らない人がいた。
それはその人も同じなようで、ポカンと俺を見つめていたが、不意に口を開いて、
「あんた誰?」
と、ただそれだけ俺に聞いた。
また背後から声がして、ラウールくんがその人に
「あ、しょっぴーおかえりー!」と言った。
「ん。ただいま。 んで、あんた誰?うちの涼太になんか用?」
「ぇあ…すみません、こんな遅い時間にお邪魔してしまって…阿部と申します。」
「阿部さん? もう閉店の時間だけどなんの用なの?まさか、涼太のこと狙ってて告白でもしに来たわけじゃないよね?」
「えっと…」
「なに?マジでそうなわけ?」
…すごい剣幕だ……。すごい睨まれてる…。どうして怒られているのかわからない…。
怖い…。誤解を解かないと…。でも、次に何か喋ったら刺されそうな気がする。どうしようと考えあぐねていると、「翔太!」と声がしてオーナーがこちらに駆け寄ってくる。
「翔太やめて、この子はそんなんじゃないから。」
「ほんとに?」
「うん、ほんとだよ。」
「そうなの?阿部さん」とその人は、まだ少し疑うような目でじっと見つめてくる。
慌てて、「はい!本当です!今日はご厚意をいただいて、特別に開けていただいたんです」と答えた。
すると、その人は「ふーん…」と釈然としないような雰囲気で、オーナーを後ろから抱き締め、
「涼太は俺のだから、手出さないでね」と、こちらを睨みつけながら言った。
オーナーを抱き締めるその人の左手の薬指には指輪が嵌っていて、オーナーの首にかかるネックレスにも指輪がついている。それはその人のものと同じデザインをしていた。
なるほど、オーナーの大切な恋人さんだ!
綺麗な人だなぁ……肌がツヤツヤでツルツルしてる。オーナーも美人さんだから、二人で並ぶと、なんだか後ろにお花がたくさん見えるような気がする。
もう一度ちゃんとご挨拶しようと、オーナーの恋人さんの方へ向き直る。
「あの、改めてですが、阿部亮平と言います。オーナーにはいつもたくさんお世話になっています。よろしくお願いします。」
「ん。よろしく。俺、渡辺翔太。」
「渡辺さん!よろしくお願いします!」
「はいはい、もういいよ。涼太のこと狙ってないならそれでいい。…ごめんね、疑って。」
「いえいえ!勝手にお邪魔してしまってすみません」
「ごめんね、阿部。」
「いえいえ!」
「翔太もあんまりうちの大事なお客さんいじめないの。でも、ごめんねできて偉いね」
「ん…」
渡辺さんはそっぽを向いていたが、どこか嬉しそうだった。
「ここって…」
やっとスケジュールにゆとりができて、阿部ちゃんに会える日になった。
この日をずっと楽しみにしていた。嬉しい。早く会いたい。
毎日、メッセージのやり取りをしていても、会いたい気持ちは募るばかりだった。
阿部ちゃんから送ってもらった位置情報を頼りに、ナビに従い、走って向かっていると、到着のアナウンスが入った。ナビを終了させてお店の外観を見ると、そこは前に一度だけ来たことがある場所だった。
阿部ちゃんを探してこのあたりを彷徨っていた時に偶然見つけた、あの憩いの場所だった。
阿部ちゃんもここによく来ていたんだなと少し驚いたが、待たせてしまっているのだからそんなことに耽っている場合ではない。まだ息を切らせたまま、お店のドアを勢いよく開けた。
「阿部ちゃんっ、ごめん!!!遅くなって…っ!」
「ぁ、めぐろくん…!」
「は?目黒??!」
「え、しょっぴー!?」
「「なにしてんのここで」」
「見事にハモったね、キャハハ!」
この間ここで会ったラウールの笑い声が、店内に響く。
長い沈黙が流れる。
その静寂を破るように、オーナーが口を開いた。
「…よかったら、これからみんな、うちでご飯食べていかない?お互いに話したいことたくさんあるだろうし。」
To Be Continued………………
コメント
5件
やっぱりゆり組カップル🤭❤️💙 みんなが集まったぞー!!笑
ついに皆が、集合しましたね~😆😆 指輪の相手や、色々なことが繋がってきて❤️❤️❤️❤️