テラーノベル
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翠は、しばらく黙っていた。
時間にしたら、ほんの数秒。
でも、誰も息をしていないみたいだった。
シーツを握る指が、白くなる。
「……俺」
声が、掠れる。
「……いじめの証拠、提出して、て」
赫は、静かに目を閉じた。
黄も、すでに動画を見ていた。
瑞は、話だけは聞いていて、
じっと翠を見ている。
翠は、一度だけ、喉を鳴らした。
「……紙とか、じゃなくて……」
そこで、言葉が詰まる。
学年主任は、口を挟まない。
促しもしない。
待つ。
翠は、震える息を吐いて、
逃げるみたいに目を伏せた。
「……動画……です」
───空気が、重く沈む。
赫は、怒りを抑え込むみたいに、
ゆっくり息を吐いた。
「……知ってる」
低い声。
「……俺ら、もう見た」
黄も、小さく頷く。
「……翠君」
声は、静かだったけど、すごく強かった。
「……無理して言わなくていいよ」
瑞も、こくんとうなずく。
翠は、びくっと肩を跳ねさせた。
学年主任が、ゆっくりと口を開く。
「……提出された証拠は」
「複数の“動画データ”でした」
複数。
その言葉が、重く落ちる。
赫は、拳をぎゅっと握った。
「……俺は」
「……止めたかっただけだから」
翠の声が、少しだけ震える。
瑞が、絞り出すように言う。
「……じゃあ……」
「……それ、誰が……」
言い終わる前に、
黄の視線が、翠に止まる。
止まって、離れなくなる。
「……翠、君」
学年主任が、静かに名前を呼ぶ。
「……どこまで、話せる」
翠は、びくっと肩を跳ねさせた。
「……俺が……」
そこで、声が崩れた。
「……俺が、撮りました」
沈黙。
茈は、すぐには何も言わなかった。
怒りを飲み込むみたいに、奥歯を噛む。
「……なんで」
短く、低い声。
「……なんでそんなことまで、一人で背負った」
桃が、一歩踏み出しかけて、止まる。
茈は、顔を上げられない。
「……撮った、って」
茈が、ゆっくり言う。
「……自分を守るため、だよな」
翠は、震えながらも、はっきり言った。
「……赫ちゃんの、いじめが……」
「……止まってから、です」
───確信。
赫の中で、全部が一本の線で繋がった。
瑞が、小さく息を吸う。
「……翠にぃ……」
声が、かすれる。
学年主任は、静かに言った。
「この“動画”がなければ」
「今回の処分は、ありませんでした」
沈黙。
翠は、最後にぽつりと零す。
「……だから……」
「……これで、よかった……」
その一言で。
桃も茈も全て理解した。
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