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#女主人公
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「先生……私、もう限界…昨日の夜、夢を見たの。あんたのお母さんが、私の首を絞めに来るのよ……」
美月はやつれ果て、独房の隅で震えていた。
かつての輝くような傲慢さは微塵もない。
今の彼女は、ただの「壊れかけた人形」だ。
「あら、それはお母様からの『ご挨拶』じゃないかしら。死刑確定から10年、ずっと暗い檻の中であなたたちのことを考えていたんだもの」
私は彼女の隣に腰を下ろし、冷たいコンクリートの上で、慈しむように彼女の髪を撫でた。
「でも、安心なさい。今回の幼稚園の事件……検察側から、衝撃的な証拠が提出されることになったわ」
「証拠……? 私が、やってないっていう証拠……?」
美月の目に、最後の希望の光が灯る。
私はそれを見て、胸の内で冷たく笑った。
「ええ。事件現場となった幼稚園の倉庫から、あなたの指紋が付着した『毒の小瓶』が見つかったの」
「……でもね、その小瓶、10年前の事件で使われたものと、製造番号が完全に一致したわ」
美月の顔が、一瞬で凍りついた。
「な、なんで……?10年前のなんて、私が持ってるわけ……っ!」
「そう。おかしいわよね。10年前の証拠品は、すべて警察が押収しているはずだもの。……誰かが、その『毒』をずっと持っていて、今回わざわざそれを使った。あなたに罪を着せるために」
「お母様よ……! お母様が、私を陥れるために……!」
「いいえ。恵子さんは、そんなリスクは冒さない。彼女なら、もっと新しい、足のつかない毒を使うはず」
「……美月、気づかない? この世でたった一人、10年前の事件の『本物の毒』を、証拠品保管庫から持ち出せる人間がいることに」
私は美月の耳元で、甘く、恐ろしい名前を告げた。
「……今回の事件の『真犯人』。それは、如月凛……いいえ、渡邉結衣。この、私よ」
美月の呼吸が止まる。彼女は弾かれたように私を見つめ、声を上げようとした。
だが、私は彼女の喉元に、鋭い万年筆の先を突き立てた。
「叫んでも無駄よ。ここは防犯カメラの死角。それに、誰も信じないわ」
「復讐に燃える哀れな遺族が弁護士になって、自ら毒を盛るなんて、あまりにドラマの見すぎだってね」
「あんた……、狂ってる……! 子供たちを…罪のない子供たちを、自分の復讐のために……!」
「罪のない? ……あの幼稚園、あなたを『聖母』と呼んで慕っていた親たちが、10年前、私の母に石を投げた連中よ」
「……一族郎党、連帯責任。毒婦の娘に相応しい、最高の地獄でしょう?」
美月の瞳から、光が完全に消えた。
私が10年間、毎日欠かさず飲み続けてきた毒。
それを今、彼女にすべて飲み干させる。
「さあ、次の公判で、あなたは真実を叫べばいい。弁護士の如月が犯人だ、ってね。……でも、その時、あなたの実家から『10年前の真犯人』を示す、恵子さんの自白遺書が見つかる手はずになっているの」
「遺書……? お母様は、まだ生きて…」
「ええ、今はね。……でも、今日の夜には、絶望した彼女が自ら命を絶つ予定よ。私がそう、筋書きを書いたから」
私は立ち上がり、埃を払うように服を整えた。
美月はもはや声も出せず、ただ涙を流して崩れ落ちる。
親を殺し、娘を壊す。
復讐の歯車は、もはや私自身の意志すら超えて、美しい破滅の旋律を奏で始めていた。
「美月。明日の法廷で、あなたの人生の『終幕』を飾りましょう」
私は一度も振り返らず、鉄格子の外へと歩み出した。
背後で、美月の獣のような慟哭が、静かな廊下に響き渡った。
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