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少し昔
数十年前
王国は闇に支配されていた。
民は闇に蝕まれ、王国はやがて静かになった。
そんな時、空から子供が降って来た。
使命を抱え、光で満たされた、小さいながらも強かな子供。
我らはそれを星の子と呼んだ。
国中の民を闇から解放し、天へ還した。
子供は暴風域のその奥、原罪へと向かい、使命を果たした。
しかし闇はなくならなかった。
蝕む闇をいくら潰せど、次から次へと生えてくる。
それに呼応するように、星の子も次から次へと空から降ってくる。
このままいたちごっこが続くものだと誰もが思っていた。
しかし、全ての民が解放されたある時、それは覆された。
数名の星の子が原罪へ向かうと、原罪そのものを完膚なきまでにぶちのめした。
彼らは群を抜いて強かった。
暗黒竜の奇襲さえものともせず、むしろ返り討ちにするほどの実力を持ち合わせていた。
体や仲間の一部を犠牲に、彼らはこの世界のほとんど全ての闇を焼き払った。
彼らの功績のおかげで王国に平和が戻った。
元の日常が戻って来た。
もう星の子は使命を果たす必要はない。
それでも、星の子の到来は止まらなかった。
時々、気づいたら、また新しい子供たちがこの地に降り立つ。
王国は、精霊だけでなく星の子も暮らすようになった。
書庫の大精霊は本を閉じると、彼の周りで眠る星の子たちを一瞥すると、彼らを起こさないよう立ち上がって部屋を出た。
精霊も星の子も寝静まった深夜、神殿に佇むのは大精霊ただ一人。蝋燭の火を見下ろし、天井に広がる星空を見上げる。背後からの小さな足音に気を留めることはなかった。
突然、甲高い鳴き声が彼の耳に飛び込んできた。
大精霊が振り返ると、そこには雀のままの小さな星の子が立っていた。
「…おや…」
先ほど本を読み聞かせていた子供達はみな、衣装やら装飾やら髪型やら、何か一つでも雀とは異なっていたが、目の前でこちらを見上げる子は正真正銘雀のままだった。故に、新しくやって来た子である、と彼は確信した。
こちらに来るよう手招きをし、近くに来ると優しく抱き上げる。
「…星の子よ、まずは、降り立ってくれてありがとう。」
星の子は再び甲高い鳴き声を上げた。
一方で大精霊は途方に暮れていた。彼が世話をしているだけでも数人はいるのだ。これ以上増えるのは、年齢的にも仕事柄的にもきつい。
そこで彼はふと何かを思い出して、星の子を抱えたまま下の階へ向かった。
書庫の二階は静かだった。もっとも、書庫はどこでも大抵は静かなのだが。
元々四人の星の子が協力して開けるはずだった扉の前に大精霊は立っていた。星の子をそっと下ろし、扉を叩く。
「念動力、私です。開けなさい。」
近くの人と話すぐらいの声量であった。しかし部屋の主に扉を開けさせるには十分な声量であった。
扉は上にスライドして開き、大精霊は星の子の手を引いて中に入っていった。
「夜分遅くにすみません…まだ、起きていたのですね。」
「…何のご用でしょうか、大精霊様。」
大精霊は子供の手を引きながら、ゆっくり彼に向かって歩いていく。
「単刀直入に言わせてもらいます。この子の世話を貴方に任せたい。」
そう言われた瞬間、記録物を眺める髪の長い精霊が振り向いた。
「…何かの冗談でしょう?」
「いいえ、本当のお願いです。この子の世話を任せたいのです。」
念動力の使い手は不満で満ちた大きなため息をつき、そこでようやく大精霊の方に体を向ける。
「嫌です。」
「そこをなんとか。貴方が子供をあまり好いていないことは承知の上で…」
「承知なら何故私に任せるのですか。」
「貴方は以前、『そんなに大変なら他の者に任せればいい』と、言いましたよね。」
「…いくら貴方様のご要望といえども、私は…」
「では、命令します。」
「…」
彼は黙った。かと思うと聞こえよがしに舌打ちし、持っていた記録物をふわりと浮かせ、棚に戻した。
「ずるい方だ。」
念動力の使い手は悪態をつくと、大精霊の元へ来て星の子の腕を掴んだ。
「ああ、そうそう、乱暴はしないでください。まだ子供なんですから。」
大精霊はそう警告して、微笑んだ。星の子が見上げると、念動力の使い手が明らかに苛立っているのが見てとれた。腕を掴んでいた手が渋々離され、今度はちゃんと手を握った。
部屋に二人きりになると、念動力の使い手は手を離し、中断していた作業に戻った。
星の子が鳴くまで彼は星の子を放置していた。
何をしているの、と言うようにプエと何度か鳴くと、念動力はうるさいと一蹴した。それが気に入らず、星の子は彼の後をピッタリついて回り、気を引こうとプエプエ鳴いた。
ストレスが限界に達すると、彼は星の子を浮かせ、棚の一番上に乗せると、再び作業に戻った。
非常に高いところに突然一人残され、下で自分のことなど気にせず作業する念動力を見下ろすと、怖いやら寂しいやらで星の子はプエプエ泣いた。
作業が終わっても念動力はそのまま星の子を放置しようとしたが、あまりにもうるさく鳴き叫ぶのでしかたなく下ろしてやった。すると星の子は再び彼にぴったりくっついて離れようとしなかった。
「ひっつくな、クソガキ」
苛立ちを隠そうともせず威嚇するようにそう言っても、星の子は離れなかった。
これ以上鳴かれても迷惑なので、彼は仕方なく星の子を寝かせることにした。
普段あまり使わないベッドの埃を払い、無造作に星の子を寝かせてブランケットをかけてやると、おやすみの一言もなしに離れようとしたことを糾弾するように星の子は鳴き喚く。
「なんだよ…」
疲労を顔に浮かべ、また星の子の元へ戻ると、星の子は彼の手を握って鳴いた。
「…寝るまで一緒にいてほしいってか。」
星の子はプエと鳴いた。
「…チッ」
渋々ベッドに腰を下ろし、目を閉じた星の子が寝付くまで見守ってやった。