「兄貴ぃ!只今戻りましたぁー!」
「えらい遅かったのぅ。利息分の回収にでもまわってたんか?」
「え…いやぁ。その…ちょこちょこっと色々ありまして…。」
「なんや?色々て。 どうせまた女にでも現抜かしとったんやろ。」
「いや!そないな事やなくて…桜子ちゃんとそのぉ…」
「桜子?やっぱり女やないか。そんな事してる暇あったら未回収の銭、一件でも多く回収してこんかい。」
「いや!桜子ちゃんはさっき事務所に来てた後輩の借金肩代わりしたクラブの女の子ですやんか!あの後、外でばったり会うたんですよ。」
「……。ほんで、残りの借金全額回収でもできたんか?」
「いや…それはなんぼなんでも……。」
「ほんだら、女に現抜かしてたのと同じやないかい。」
「あ…確かに……。」
「しっかりせんかい。しばらく目離さんとけよ。」
「兄貴………。」
「なんや?」
「本気でそないな事言うてるんですか…?」
「どういう意味や?」
「桜子ちゃんは…兄貴の同級生でっしゃろ!?兄貴もあの子がどんな子か分かっとるはずや…他人の借金わざわざ肩代わりするような子が逃げるとでも思ってはるんですか!?」
「ドアホ!2人で何話したか知らんけどな、同級生やろうが身内やろうが、親友やろうが、裏切る時は裏切るんが人間や。お前もその事、今までの追い込みでよう分かっとるはずやろ。裏切られた時の事まで考えて動くんが金融屋や。 何遍言うたら分かるんじゃい!」
「…すんまへん!でも…!」
「竜一!お前しばらく事務所に顔見せんでええぞ。」
「えぇ…!」
「ワシがやってきたこと何も分かっとらんやないか。いっぺん頭冷やせ。」
「そんな…ワシ、これからはちゃんと…!」
「こんな事で情に絆されて、借金の回収もできひん人間に金融屋の才覚なんぞあらへん。ワシらお遊びで銭貸してるんと違うんや!その事もういっぺんよう考えるこっちゃ。もう帰れ。」
「 へい…。わし頭冷やして出直してきます…。 ほんますんまへん兄貴…。」
ガチャ…
バッタン………。
「ちっ…。ほんまどうしようもないやっちゃで…。」
とほほ…。
遂に兄貴の事、本気で怒らしてもうた。
今までも同じようなことやらかしてきたもんなぁ…。
でも鬼と呼ばれてる人がワシの事これまで大目に見てくれてたんが逆に奇跡なんか…?
そうや…! ワシは兄貴に見初められた男なんや…
ここでへこたれてたあかん!
ちょっとでも大口の良い客見つけて
兄貴に認めてもらわんと!
ポジティブ!ポジティブー!
でもさっきの兄貴…
なんや妙にムキになってるように見えたなぁ。桜子ちゃんもちゃんと約束通り銭持ってきてたし、利息分も不足してる訳やあらへんし、そない信頼失うような事してるようには思えんのやけどなぁ…
兄貴があないにムキになるという事は…
兄貴もしかして…
桜子ちゃんとワシが2人きりで会った事妬いとるかぁ?
おー?
兄貴にも…ロ マ ン ス かぁ?
うひょー♪
アカンアカン…
ワシがこういうくだらん妄想ばっかりしとるからいつまで経っても成長せんのや…
そやけど、兄貴も兄貴で銭のことばっかり考えすぎなんや
口を開けば”銭やぁ、借金やぁ、追い込みやぁ”て…
もっとこう…
女の繊細な乙女心いうの分からんと兄貴も漢としての甲斐性ってもんが……
ん…?なんか今寒気したな…
もしかして兄貴に勘付かれとるか?
おーこわ!やめよやめよ…
とりあえず…。
帰って寝るか。
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