星降る日・何でも許せる方向け
・作者の妄想と捏造の世界です
・誤字脱字あり
・途中までの掲載
・ネーム感覚の投稿のため、書き直し、再投稿、削除は常にあり
・無断転載等NG
拙い文章ですが、どうかあたたかい目で見守ってください…。
一応、ファンタジー系
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第1章 星降る日
草木もねむる丑3つ時、星の発する微小の光が、夜空を覆っていた。
キラリ、スゥー。
上空に一筋の光が見え、やがてそれは綺麗な放物線を描き地上に落下してくる。
ズドォォォ――――ン!ぐらり、ぐらぐら。
辺りは凄まじい衝撃音と地響きが鳴り響いた。
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森に落ちてきたのは黒い卵形の円盤、大きさは2メートルほどで、落下地点を中心に地面は大きく抉れていた。円盤には小さな窓があり、中の様子が窺えた。
ギロリ!
窓の向こう側、円盤の中に何かがいるようだ!
「ソレ」は、黄色い眼球があり鋭く辺りを見回している。周りにいた動物達は、機体の中から見えた「ソレ」を一瞥し確認すると、その場から逃げ去っていった。
鉄臭く、焼け焦げた匂いが周囲を満たしていた。
バキッ、ギギィィ、キイィー。
円盤の扉を「ソレ」が破壊し、ニョキゆらり、と黒く長い爪がそっと手を添えて中から這い出てきた。周囲が暗くて「ソレ」が何なのかはっきり見えないが、星々の微かな光から「ソレ」の姿を捉えることができた。
這い出てきたのは、酷く歪なものだ――。
ズズ……ずるずる……。
ビチャ、ポタポタ――びちゃり。
「ッグルルルヴヴグルル……」
「ソレ」は、辺りの暗闇に溶け込むように表皮は黒く硬かった、鱗なのだろう。爪は獲物を仕留める為にあるのか、長く鋭い。
「ソレ」の口元には鋭利な牙がある、獲物を一撃で仕留めるためであろう、大きく発達していた。
途方もなく歩き出した生命体
「ガオオォぉぉぉぉ!!!!!!」
次第に周囲が明るくなった。それは太陽を背に、空に向かって哭き叫ぶように咆哮する。
その日、星が降った日――「ソレ」は、血腥い香りを纏いながら、静かに森の中へ歩き始めた。
地上では新しい1日が始まろうとしている。
X X歴3045年――。
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数週間後、星が降ったことを知らない「パルベニオン帝国」の西区にあるラグーン宮殿では、次の王を決めるため、着々と準備が進んでいた。
王位継承の3ヶ月前の宮殿内にて――。
ラグーン宮殿は、岩と木が一体化してできている建築様式だ。その人気のない廊下を軽やかに、けれども力強く進む1人の少年がいた。黒髪癖っ毛の長い髪を、頭の後ろ下で軽く結んでいる見た目麗しい美少年だ。その名もハルト・ルネギルス。
カツン、カツン、ギシ、カツン。
地面を踏み鳴らす足音が、少年が急いでいる事を知らせる。少年の眼はギラついていて、表情もどこか怖いほど真顔だ。
カツン、カツン、ギシィ、カツン!
ダンッ!
すると少年の前に、突如、1人の少女が立ちはだかってきた!
「あの!」
「!」
ハルトは目を見開き、その人物をみた。突然の出来事に驚きを隠せなかったが、自分の進む進行方向から現れた見知らぬ少女(おそらく宮殿に遣えているものなのだ。服が同じだった。)をまじまじと見た。
「……」
「あ、あの………………好きです!ハルト様アァァァァ!」
「!」
キィーンと、周りに誰もいない廊下に少女渾身の声は辺りによく響き渡った。彼女はそのまま、ペコリと腰を曲げて綺麗な90度の礼をした。ラブレターなるものを、ハルトに両手で渡している。(‥本人がいる前で渡すものなのだろうか?ましてや直接言うなら必要ないんじゃないかとも思ったが、そこは置いといて‥)その心意気は潔し。
顔を赤らめた1人の女の子。これは、正真正銘の告白現場だ――。
「私っ、ずっと、お側でハルト様を見ておりました!叶わないと分かっていても、どうしてもこの思いをっ!辞める前に伝えたくて……それで、」
「すまないが……」っ」
話し途中に、少年は淡々と切り出した。
「君の思いには答えられない。――法でそう決まっている」
そう言って、少女の横をハルトは何事もなかったかのように通り過ぎた。
少女は顔を下に向けたまま一瞬、悲しい顔をした。何も言わず姿勢を戻すと、ただ横を通り過ぎていく少年の背を眺めていた。
――――――――――――
カツン、カツン、クイ。
廊下を曲がる前に、ハルトは素早く自身の表情を人当たりが良さそうな表情へと作り変えた。
「……おぉ、ハルト様!おはよう御座います」
「おはようございます。〇〇殿」
1人がハルトの存在に気づくと、その声をきっかけに周囲の人だかりは、次から次に挨拶をしだす。
「今日もご苦労。すまないが、手短に要件を話してくれ」
「はい、実は先日の例の外交に関して、お話しておきたいことが……――」
そして、話はこの国の中心の内容へと移り変わるのがいつもの日課だ。
――――――――――
ハルトは、パルベニオン帝国の次の王候補の1人であった。3ヶ月後には「王位継承の儀」が執り行われ、この国の王が1人決まる。
王位継承候補の中でもハルトは、優良株だった。そのため周囲の人間は、少年が王となった暁に、自分の地位も上げてもらおうと企む輩が大勢いた。
「〜!、ルト様〜――ハルト様!」
「――して、ここはこのように。では後を頼む」
ハルトは別の男と話し終えると、また歩き出した。少年の周りには人だかりができているため、背後から声をかけている男の声に気づかず先へ歩き始めた。
ハルトの名を呼ぶ男は諦めず、ズカズカとハルトを見送った集団を掻き分けるながら近寄っていった。一方、少年はまた別の男と別件で話し始めた。
ドスン、ドスン、ガシィ!
「ハルト様!」
「!?――」
ついにその男は、ハルトの肩を思いっきり掴んだ!
その力でハルトは、ようやく背後の人間を確認したのだ。
その男は、猫背の肥満体型の中年男性で、位の高そうな服を着ていた。唯一印象に残るのはその頭部で、禿げていた。……いや、ヅラが滑り落ちそうになっていたのだ。
ハルトは、その事に気づかないフリをした。何と大人だろうか。
「!……あぁ、ツルツル殿ではないですか、おはよ――」
「なぜ、振り向いて下さらない?!」
キーンと男の声がつんざく。うるうると、その男は目に涙をためていた。
「(今日で二度目だ、耳を痛めるのは……)すみません。別件で考え事を――」
少年は顔に出さないでいたが、自分に声をかけてきたツルツル頭の男に心では嫌悪した。
それと――コイツ坊主にするか、桂にするかどっちかにしないのか――と、言いたい衝動に駆られた。
その男(ツルツル殿は以下、ハゲ男と略す)が、さっきの泣きはどうした?と言うほど、別の話題にはやくも切り替わった。
「まぁ、いいです!いやはや!今日も天気がいいですなハルト様!ペラペラ〜(略)して、〜――、――」
皆が少年に話しかけている事を男は見えていなかったのだろうか、人目も気にせず自己主張が激しかった。なんだなんだ、とその男に全員が振り返ってハルトとそのハゲ男を眺めたが、顔を見るとすぐ道をあけ、黙り始めた。
少年とハゲ男は談笑する。――それはとても有意義な時間だっただろうと鼻で笑えるほどに。
――――――――――
少年とハゲ男の様子を見て、周りにいた人間は小声で話し始めた。
「やっておるやっておる。あぁやってハルト様に取り入ろうとしてるぞ。自分が王族と繋がりがあるからと言って……何ともこざかしい……」
「だが無碍にできぬのも事実だしのう……やはり、次の王はハルト様だったりしてな。今のうちに我々も売り込んでおくか?」
「いやいや!先王の弟、ペラルギア様が次の王となるのが普通だろう。……むしろ先王は、なぜ『王位継承選挙』をするのか分からん!異例なのだ。唯一の弟がいるならなおさら王位を譲るのが普通だろうに……」
「吾輩もそう思いましたよ。まぁそれが当然の成り行きでしょう。……一番年の若いカラン様は、若く、王になりうる人間ではない。ペラルギア様の次に名が挙がっている鉄の女は、怖いと耳にしますよ」
「そうなると選挙は、ペラルギア様優勢のみつ巴になるかもなぁ……そういえば、血筋に関してハルト様は例の事があるよな」
「……あれだろ『王家の裏切り者』と裏で言われてる。……確か、父親が市民出身で行方不明に――」
「シッ!お前声が大きいぞっ!――ああ、ハルト様は王位継承候補の中で一番血の繋がりは薄いが、それを踏まえても優秀なお方だ。父親がそんなふざけたやつで可哀そうなくらいさ。でもまあ、ペラルギア殿の一人勝ちで終わりかもな」
すると、小声で話していた3人の後ろから、年老いた老婆がはっきりと話し始めた。
「血の繋がりが濃い薄いからと言って決めつけるのは早計ですわ。それに若かろうと、老いていようと。彼らが皆『王の血筋』である事に間違はないのです。混血だろうと、1%としかその血が入っていなくとも、関係ありません。『王の血を引いている』それさえ守っていればいいのです。さらに彼らは、王の血を持たざるものを含めて王家となる事……つまり、同じ家族であると受け入れた。……過去の決定に周りがとやかく言う必要はありませんわ」
「だが、実際気になる奴らはいるのだろう。事実『王家の血』は特別とされている。だからこそ、王家とそれ以外の結婚は認められていない。近親相姦による弱体化を防ぐ為に、他国の王族と交わる事が義務なのだからな……」
そう言って、皆この国の成り立ちと歴史を遡っていた。
周りの人間が、各々考えを巡らせるのも無理はない。
なぜなら、パルベニオン帝国の歴史において「王」は絶対の存在であるとされているからだ。
「王の命令」は絶対であり、「王無くして、歴史は創れぬ」と昔から謳われている。
帝国法
第一項:王の下す最終命令は、いかなる者でも従わなければならない。
第ニ項:王は、代々その血を引いている王族の者が継ぐ事とする。
第三項:婚姻は、他国の王族との結婚を原則とし、傍系血族同士の場合4親等以降とする。
これは誰もが知っているルールであった。つまり、先程挙げたハルト以外の3名の人間は確実に他国の王家、または、パルベニオン帝国の王家の血をひくものであった。
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ハゲ男の話を聞き流しながら少年ハルトは、別のことに思考を費やしていた。それは街で最近流行っている「帰らずの門の噂」に対してだ。要するに、男の話を聞いていなかった。いや、聞いてはいるが音が右から左へ、流れてしまうのだ。故意にやっているのではないのでそこは勘違いしないで欲しい。
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人間には2種類の人間がいる。
自分の思い通りに制御(コントロール)できる人間と、できない人間がいる事だとハルトは思った。
目の前で、得意顔で喋っている無能な男は、先程述べた前者(コントロールできる)に区分される人間だ。つまり、少年にとって扱いやすい人間だった。男は媚を売るために、ひたすら年わずが13、4歳の少年へ、己がいかに優秀であるのか自画自賛の話を繰り返していることは誰が見ても明白だった。よくそこまで長々と話せるものだと逆に感心するほどである。
周りの人間は、微笑みを浮かべながらその男の話を聞いているハルトに内心敬意を表した。
けれども、ハルトの心中を推し量れる物はここには誰もいなかった。少年の胸の内は、苛立ちを孕んではち切れそうな状態であることに気づいていない。
「(よくもまぁ、ここまで口がまわるものだ。こう言う輩は例え出世したとしても強者によって、身を引き裂かれる使われ方しかしない。こいつをわざと側近にさせて、地獄の道に陥れさせることは造作もない。さて、どんな苦しみを与えてやろうか……)」
少年が笑顔で取り繕っているその顔の下では、目の前の男の口を塞ぎたい思いでいっぱいだった。微笑みを浮かべながら聞き流している見た目麗しい少年には、似つかわしくないほどの内心である。
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次期王候補の一人である少年のハルト・ルネギルスには、「王になる」という単純明快な目的がある。
その為には、3ヶ月後に執り行われる「王位継承の儀」までに、王位継承選挙で候補者を薙ぎ倒し、勝ち取る必要があるのだ。どんな手を使ってでも王になるつもりでいる。そのための努力は惜しまないでいた。――だからこそ、
「(こんなクソみたいな奴の自慢話でも僕は聞くさ……けど)」
これしきのこと、ハルトには何の問題もなく、何も害はない。――いや、この男のせいで自分の時間を無駄にしているという点では、害は既にあるのだが、その話は置いておこう。
「そうそう!この前彗星が見えたらしいんですよ!ねぇ!すごいと思いませんか?!〜ペラペラ(略)」
「へぇー、一度見てみたいものです。(まだ続くのか。……今まさに貴方の頭が光って彗星みたいだとは、口が裂けても言えない。そもそもコイツ、そんなのを見てはしゃぐような柄じゃないだろう、見た目的に。はぁ……今日は最悪な1日だ)」
未だ喋り続ける男の声をBGMに、だんだんとハルトの目からハイライトが消えていった。
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(同刻、街の路地裏――パルベニオン帝国の西区)
吊るされている少年、ポッド!
(いじめっ子達の罠に嵌ってしまったよノ巻!)
パチパチ――。
少年はゆっくりと両目を開いた。
「(あぁ……世界が逆さまになってる……)」
もはや現実逃避であった。
人気のない路地裏で1人の少年が、地面と頭が50センチほど離れている状態で、空中に逆さ吊りされている。どうしてそうなっているのか、と問いたいほど綺麗に吊るされていた。縄で逆さ吊りにされている少年ポッドの視界は、最初こそ地上が逆さまに見えていたが、その景色にだんだんと靄がかかり、それが涙となって溢れ出てきた。
ポロポロ、ポロリ、ポロ、ポロ。
「ヒック、うゔー誰か……ここからおろしてくれ!」
少年の呼びかけに、返答するものは周りに誰もいなかった。
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ふと、少年ポッドは、足に絡まる縄をほぐす手は止めずに、今までの人生を思い返していた。
自分は臆病者だし、これといった才能もない。ある時、自分は何かしら皆んなと違い、特別なんだと思った時があった。
けれど、神は不平等に何も与えてはくれないのだと、周りの環境と自分の置かれている環境で年僅か8歳で理解し始めていた。
――世界は自分中心に回ってなどいない、と認識しだしたのはその時だ。
それらの事実に嘆き悲しんだ夜を何度も繰り返した。
――僕が特別でない事は僕自身、よく分かっていた。だから――
「くそ〜!とれない!(こんな状況を自分の力だけで、脱出できないのはわかってるさ!)てか、アイツらどんだけ硬く縛ったんだ?!」
暴れれば、暴れるほど縄は絡まっていった。
「自分は特別なんだ」とのたまっているやつ。思っているやつは周りが見えていないし、井の中の蛙だと、それか本当にそう信じてる頭がお花畑なやつなんだ――と僕は思う。
――僕のことは僕がよく知っている、分かってる。そりゃそうだ、自分だから。知らない、分からない、なんて言ってるやつは自分を知ろうとしない怠け者か、それかさっき自分が思った通りに(頭お花畑)属するやつだけだ!
「(でも周りから見えている僕と、僕が思っている姿は、違う事は確かにある。そう……絶対あるはずだ!)」
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ポッドは周りの同い年くらいの少年少女から「泣き虫ポッド」と異名を付けられていた。けれど大声で訂正せず、小声で「泣き虫じゃないもん僕」と縮こまりながら否定していた。
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そんな回想をしながら、空中で吊るされている間、カツン、カツンと、ポッド背後から、人が向かってきた。
「……見つけた」
「?……え」
誰だ?と後ろを確認したかったが、生憎、吊るされている状態であるため確認できない。
――この時、僕はまだ知らなかった世界の残酷さに。いや知ったつもりでいたんだ。
事の発端は王位継承選挙。
僕という人間が、如何に哀れで情けないと痛感させられていた真っ最中の時だった――。