コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第2章 西の暁と暗転の空 上
回想
前回の話を進める前に、僕とユーラの出会いをまず話さなければならない。
僕の幼馴染であるユーラは、着物を着用し、凛とした顔立ちでいつも薙刀を持ち歩いている腕っ節の強い女の子だ。
僕は周りの子たちからよくいじめられていたが、なぜかユーラも避けられていた。僕が周りから嫌われているのは十中八九、自分がこんな性格だろうと言うことは分かっていた。
でもユーラに関しては、何故かみんなから避けられている(いや、怖がられいる、の方が正しいかも)か分からなかった。
男顔負けで強いことは認めるけれど、周りに暴力を振るう子ではなのだから、どうしてユーラが周りから怖がられているのか僕には分からなかった。けれど、理解し始めたのは「王位継承選挙」の一件からだ。
――――――――――――――
少女ユーラ(由良)
「……そんなところに居られると邪魔なんだけど、どいてくれない?」
淡々と言い放った少女は、床に落ちたポッド(幼馴染)を見つめていた。
ユーラとポッドの1日はそうして始まる。
(――数分前)
ユーラは、自分の進む方向に、幼馴染のポッドが縄で宙ぶらりんにされているのを見つけた。数秒考えた後、自分の持っていた薙刀で、幼馴染がつながれている縄を容赦なく切断したのだ――ポッドに了承の有無を聞かずにだ!※良い子はマネしないでね!
ドサッ!
「っ!いっっってぇぇえぁあぇぇえええ!?」
ジンジンと痛みが広がってきた。
ポッドは頭から地面に体を強打した。誰かが縄を切ってくれたのだが、やり方が雑すぎた。さっきの惨めさからくる涙ではなく、物理的な痛みによって出される涙が、今度は流れてくる。
「うゔ〜いったぃぃ!てか、このやり方!ユーラだな?!」
「……ねぇ、――」
そうこうしているうちに、冒頭の発言をユーラが言ったのだ。
*
「僕の幼馴染は、冷酷な人間なんだと痛感したよっ!」
痛めたところをさすりながら、未だ絡まっている最後の縄をほぐすポッド。
ポッドは、自分の隣で筋トレに励んでいるユーラを横目で睨んだ。その視線を感じたユーラは、ポッドの方に無言で顔を向け一瞥した。
「(じぃ――――――)……」
ポッドを見つめるユーラ。その視線に、ビクッとするポッド。彼女は、ポッドの顔を凝視した後、再び正面に顔を戻して、今度はアキレス腱を伸ばし始めている。
ユーラから真顔で目を向けられたポッドは、彼女の一連の動作に、なぜか冷や汗が流れた。
そして、ユーラは少し間を空けて口をひらいた。
「そう……。私はこれでも感謝してほしいくらいだけど」
彼女の発言を機に、ポッドの中で何かがキレた。ぶちり、と。
「感謝しろだって?!僕は怪我してるんだけど?!満身創痍なやつを前に君は落として、『そんなところに居られると邪魔なんだけど、どいてくれない?』って言うのか?!それで感謝しろ、だなんて全く非情な世の中だね!」
喚くポッドにユーラはため息をついた。
「はぁ、まぁそれで許されるなら世の中非情よね。 ……でもねポッド、貴方……毎回、毎回、同じように怪我して転がってるじゃない。それも私が通る道端にいる。それで私は第一発見者になる。怪我してる人物は知ってる幼馴染。事情を聞けばいつものメンツで『殴られて完敗した』と言う。
結局1人で立てなくて私が、仕方なく貴方を介抱する。それも週に10回以上の頻度。
…… ねぇ、わざとやってるの?毎回そんな場面に出くわすんだから誰だって慣れるわ。むしろそんな貴方をみていて私は呆れかえってるの。そんなにやられっぱなしなら、逃げるべきよ。勝ち目がないなら尚更ね。毎回世話するこっちの身にもなって欲しいわ。それとも私が成敗すればいいのかしら。でも貴方、私がやろうとしたら、『これは僕の戦いだ』って言ってやらせてくれないじゃない。私にも我慢の限界というものがあるの」
普段は無口な少女が、ここぞと言うときは怒涛の正論。且つ、巻き返しにポッドは涙目になり、次第に背を丸めて座り、やがて何も言い返さなくなった……。
「!そういえば、何でユーラがここにいるんだ?」
ふとポッドは、ユーラが自分を「見つけた」と言ってきた事を思い出した。
――この怪力女がわざわざ僕を探すような事はしないよな――と思いながら。
ユーラは、やっとかと呆れた目でポッドをみた。
「リーダーが貴方を探してたのよ。近々行われる王位継承選挙、その事に関して『装飾士』に仕事があるみたい。で、それを貴方に伝えたいけど、全然見つからなかったから、私に白羽の矢がたったの。」
「あぁなるほど……(リーダー気を利かせたんだな、僕がいじめっ子達に勝てないと思って……だからユーラを向かわせたのかな)」
「それじゃ、要件は伝えたから」
そう言って彼女は背を向けて走り去っていった。
「……うん、了解」
その場に、僕がいつも見慣れている絆創膏と軟膏を置いていって――。
僕は、飾り付けの仕事を行なっていた。町に飾りをつけたり、意匠をこらしたりする仕事で「装飾士」とも言われる。割のよい仕事で、大変だがこの僕でも続けてこれた。近々、王位継承選挙が行われるらしく、そのため町や宮殿に飾り付けをする必要があるらしい。装飾士のリーダーが皆を集めて、誰がどこの地区を飾りつけるか決めるらしかった。
僕の担当はなんと、宮殿内の装飾するグループに配属されたのだ!「ポッド、失敗するなよな」と笑わせてくるリーダーに対し、僕は気が気じゃなかった。
(ラグーン宮殿にて)
当日。
宮殿内は、見事な作りであった。豪華絢爛と言えばそうだが、その中にも風情のある作りが感じられた。
チラホラ周りを見ると、向こうの廊下に、ここに住んでるであろう人達が見えた。その人達を見ると、僕ら市民と少し違う雰囲気があった。なんて言うだろうか……格が違う?雲の上の人?みたいな感じだ。
ラグーン宮殿の敷地は、一般人が入ることを許されていない。
「(きっとこんなものを見られるのは最初で最後なんだろうなぁ……今のうちにじっくり見とこ)」と、ポッドは思っていた。
宮殿の管轄である闘技場、王立図書館やその他も入ることはできない。その為、こういった機会でないと一生ご縁がない場所なのだ。けれど、ゆっくり見ている余裕は無かった。
「そこの飾り付けが終わったら、そこの角やれ!そこのお前!何もたもたしてる!早く運べ!そこのお前、もっと丁寧に!壊すなよ!お前はあっちだ!頼むから丁寧に・早く・効率よくだ!」
各所、宮殿の人から指示を受け、皆がテキパキ動く。
この時、僕の運は既に尽きていたのかもしれない――。
――宮殿内の廊下を一人で装飾していた最中だった。
パッリーン!
近くにあった花瓶が割れた。
「(なっ!何で?割れたんだ?!この花瓶?僕触ってないのに!?)どうしよう!」
――はやく、隠さないと……でも僕がやったわけじゃないんだ!
――隠せ!
――誰か呼ばないと!
――隠せ!
――正直に話さないと!
――隠せ!
ふと、直感的に浮かんだ考えをポッドは何度も打ち消した。
でもこのままだと僕のせいにされてしまう!もしかして、始めから割れてたのか?
ポッドは吸い込まれるように、割れた花瓶の欠片を持ち上げていた。
その時、向こうの曲がり角から人がやってきた。宮殿の、人だった。
「!」
「?……貴様、それは何だ?」
ドスの効いた低い声で、床に落ちている花瓶とその欠片を持っているポッドをみた。
無造作に投げ出された百合の花が、床から僕を見上げて、せせら笑っていた。
「っ、これは……(あぁ、最悪だ!)」