あなたに呼ばれる事で。
「さよちゃん」
「さよ」
「谷餅」
「いかれ厳格」
呼ばれる人、呼ばれ方
その人にとって自分の名前をどう感じるか
又その状況、感情によって
ひとりひとり感じ方は違う。
嗚呼。こんなのはじめて
夜空を映す大きな水面に再びぽつぽつと雨が降り始めた
かれこれ二時間は降っては止んでを繰り返していると思う。
私はその時間、一瞬で変化する水面の紋様をぼうっと目で追い時間を過ごした
抱えた膝の中にうずめていた顔をあげ四月の静かな夜空を見上げた時、
ふとしたことに気付く。
雨も星も「降る」って言うなぁなんてつまんないこと。ただそれだけ
降りしきる雨の中、公園のベンチの片隅で息を殺すように佇む私は
誰がどう解釈しようと世界一寂しい少女だ
その寂しさを紛らわせる為にある想像をする
もしもこの降りしきる雨が全部星だったら
なんて笑
周りに話したらきっと笑われるだろう。
だけど思い描くのは勝手
私は瞳を静かに閉じて想像した
きらきらと絶え間なく星が降り注ぎ私の顔にぱたぱたっと降って消える
はぁ。
星なんかより食べ物がいい
「お腹空いた…」
私のつぶやきと共にお腹の小さな虫がなり始めた
気付いてはいるが認識してしまうと更に腹の虫が鳴り止まなくなる
だからぽらぽらと降りしきる雨をよそにひとり黙りこくる事を心に決めた
最後に何かを口にしたのは朝。コンビニに売っている菓子パンを3口ほどかじったきり。
背中に震えが走る。
北海道のまだ冬の気配が薄く残る4月の中盤に降る雨は身体中凍ってしまいそうな程冷たかった
こんな時にふと思い出した
家族仲良く、温かい食事を取り囲むいかにも幸せですよ感満載のCM。
今更、虚しく感じた。私には酷く無縁な世界
冷えきって凍える指先で制服のブラウス一枚の肩をさすった
こんな薄着で春のおとずれを全く感じられない夜の街に繰り出した過去の自分を恨む
学校から帰り、スクバを置いたと同時に1階から聞こえたお皿の割れる高らかな音。
この音で私は母の不機嫌な様子を悟った
慌てて上着なんか着ず、家から飛び出して
今ここで長い時間が過ぎている。
雨が遊具に当たり弾ける音、土にできた滲みを踏みしめるとなる心地悪い感触、風でゆらゆら揺れるブランコ。
様々な音が私を静寂から包む。
人間が出したと思われる音は私の指先を温める為の掠れた息のみだった。
私はいつまでここにいるんだろうね。と他人行儀に考える
あの家には私の部屋も私の名前も私の席もあるのに
私の望む本当の居場所はどこにもない。
更には雨が少し優しくなったら帰ろう。
なんて思ってたけど雨は次第に強くなるばかり。
天気は私の味方なのかもしれない。
だけど濡れきった髪の先や制服のスカートの先からはぽた、ぽた、と水滴が落ちてきた
そろそろ本当に帰らなければいけない
そんなことはわかっているんだ けど足が動かない
少なくともこの身体に打ち付ける強い雨が止んでくれたら。震えもとまるだろうに
自分の震えを憎みはじめた時、
不意に全身に打ち付ける雨が止まった
急に雨雲が遠ざかったのかとも思ったが
ぱたぱたっ、!とはじける雨音でそうでは無いことが確信した。
雨が当たらなくなったこの空間は私と同じ
人間が作り出した空間だと。
「えッ、ぁッ…」
普段人と会話なんてしない自分の性格が現れる様な掠れた声。
怖くてその人物の顔も直視出来ない。
静かな沈黙が流れる。次に口を開いたのは
あっちだった
「なにしてたの?」
「ぇッ、…?」
驚いて彼の顔を見た。
予想とは裏腹な顔つき。声的にか弱い中性的な見た目の人だと思ったけど
すらっと身長が高くて
半袖短パンに部活バックを肩にかけたよくわかんない男の人。
彼の顔をじっ、と眺めていたら
「寒くない?」
「どこから来たの?」
「今、生徒指導の先生巡回してるよ」
「震えてるけど大丈夫?」
と質問に質問を重ね前かがみに聞いてくる
「寒くないですッ!!家から来ました、!震
えてないですッ、!!ぜんっぜんッ、!! 」
耐えられなくて初めてこんな大きな声で返答した。
たちまち彼は大きく目を見開いて
「あははッww」
と凄い大きな声で目に涙を貯めて笑いだした
「なんですか、」
と睨みつけながら後ずさりすると彼は
「んーんwなんでも。こんな暗い中ひとりで出歩いたら危ないよ?」
なんて言って部活バックからタオルを出し髪の毛をぐしゃぐしゃと豪快に拭いてきた
「ちょちょッ、!!え!?おまッ、嘘だろ」
と喋りかける間にも彼は黙って私の髪の毛を乱した
どのくらい拭かれていただろうか
「よし…」
と彼の一声が聞こえたのは私がうとうとし始めた頃だった
「おい?おい!おーいっ!」
と肩をゆすられて目が覚めた頃には
私の背中に彼のジャージ。
頭には傘代わりのタオルがフル装備されていて
「うし。いくぞ!」
と背中を向ける彼が。
びっくりした私は
「いいッ!!」
と叫び水溜まりの水飛沫をあげながら走り去った。
「いい加減起きろって!」
朝からとんでもない痛みのデコピンがとんできた
「いったぁッ、!!!??」
眠気が一気に怒りに変わる。
私の隣にいるのは目つきの悪い性悪悪魔の
澤田 優来|《さわだゆら》
「これから隣でうとうとしてたら校長の胸の中に顔面押し込むからな」
と彼は私の足を少し蹴っ飛ばして脅してくる。
大体は沈黙で学校に着くまでの時間が過ぎるがたまーに会話の話題があがる。
「てかお前の鞄からバスケ部のジャージ見えてるけど誰の?」
と優来が私のスクバを指差した
そうだ。すっかり忘れてた。けど
「あぁ、なんでもない」
と濁した。何となく彼に言ったらからかわれそうな気がしたから。
「ふーん。」
と一言かけられて会話は終わった
この高校に来てからもう2週間くらいがたった
周りは皆グループが出来ていて普通に焦る。
でもそれより私はもっと焦っている事がある。
「昨日の彼のクラスが分からないということ」
でも確か優来はバスケ部って言ってたはず
記憶を頼りにバスケ部のいる隣のクラスに足を運んだ
またやらかした
バスケ部ってどなたなのかわかんない
「ぁー、どーしよ…」
と教室のドア付近をうろうろしていると
「は?」
ドスの聞いた声が私の耳に届いた
コメント
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じんわり暖かくなる文章過ぎてほんとにその場に居るみたい!!!ひとつひとつの言葉選びに愛がありすぎてもうそれは好き(???)
まって。この人小説家じゃないの?ってレベルですごすぎる え、ほんとに本出版できるって😭 ぽらぽら振る っていう表現珍しくてめっちゃ好き!!! 文才ありすぎるなほんとに、、 さすがにりぴ確定(?