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「天音(あまね)ーっ」
「………って、は?」
「なんでお前が……」
燎は、大きな声で花溪さんの名前を呼んでから
僕の方を振り返った。
―――そうだ。
思い出せば、花溪さんの下の名前って『天音』だったっけ。
苗字でしか呼んだことがなかったから、久しくその名を聞いた。
「(……僕が口に出せない彼女の名前を、燎は当たり前みたいに言えるんだ―――)」
僕の心は、何故か少しズキズキと傷んだ。
「おい」
「あっ……」
燎はもう一度大声で僕を呼んだ。
眉をひそめ、鋭いその目で僕を睨んでいる。
だがそこで気になるのが、何故彼が、こんなにも僕のことを敵対視しているのか?
ということだろう。
そのきっかけとは、中学生の頃の出来事だった―――
小学校を卒業した僕は、燎と同じ公立中学校に進学した。
彼は別の地域の小学校からやって来た生徒であり、初めて顔を見たのも同時期だ。
そして僕達は、同じ1年B組になった。
当時の僕も 今と変わらず、休み時間は自分の席でひっそりと読書をするような、
そんな生活を送っていた。
そこに乱入してきたのが、今まで目も合わせたことがなかった《鮫島燎》。
彼は僕と同じ班で、席もそこまで遠くはなかった。
―――そしてある日の休み時間
僕がいつものように読書をしていると、突然燎が 僕の机の真正面に立った。
その頃から僕は、彼に完全に見下されているという感覚を覚えていた。
「お前さぁ」
「確か名前は《笠間迅人》だったよな?」
「そ、そうだけど……」
真っ直ぐと僕を睨めつける彼からは、恐ろしいオーラを感じていた。
『彼に逆らってはいけない』
本能がそう言っていた。
そんな僕の感情を知る由もなく、燎は続けた。
「お前がいると、この班の士気が下がるんだよ」
「え…っ?」
「とぼけてんじゃねぇよ」
「俺はお前が邪魔だって言ってんの」
「―――なんか気に入んねぇ」
「お前みたいなクズは、このクラスから出ていけ!!」
「え………」
会った途端からクズ呼ばわりされるのは、これが初めてだった。
だけど同時に思った。
___彼とは関わってはいけないと。
それから僕は、彼から地味な嫌がらせを受けるようになった。
まあ後にその事がバレ、担任の先生にこっぴどく怒られたことは言うまでもないが。
そしてそのことからいじめらしき嫌がらせは終わり、
僕と彼との距離は遠のいていった。
今では、何もかも滞り無く進んでいる。
―――そう思っていた。