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―――そう思っていた。
だが物事はそう簡単には進まないということを、この日僕は知ることになる___
「(ああ、ここからはもう思い出したくもない……)」
僕はここで回想をストップした。
燎のことを思い出すと、いつも吐き気がする。
力の差がすぎたのだ。
それは今もなお続いていて、偶然角でばったり会ってしまった時などは
絶望感に見舞われる。
全て彼の気分次第ではあるが
到底僕の勝てる相手ではないのだ。
燎も燎で、弱いものいじめをさぞ楽しんでいることだろう。
………だけど、そんな燎がなんでここに?
どうやら花溪さんと親しいようだったが
それは何故?
僕は疑問に思いつつ、燎が話し出すのを待った。
しばらく沈黙が続いた後、彼は言った。
「…………やっぱなんでもない」
「??」
そして燎は踵を返した。
彼は一体、何をしに来たのだろう?
もしかして、僕が邪魔してしまったのだろうか。
まあそれくらいよかろう……
―――だけど。
どうして、花溪さんと仲がいいんだ?
燎は、中学の頃も 決して女子とは話さない主義だったのに。
すると、僕の心の声に応答する声が耳に入る。
「笠間くん」
「彼について、知りたい?」
「花溪さん………」
「知りたい、です――……」
すると、彼女はにっこりと笑みを浮かべ
彼について語りだした―――
「………実は彼、私のことを助けてくれた恩人なの」
「へ?」
僕の声は思わず裏返ってしまった。
思わぬ返答だった。
鮫島燎が……
あの鮫島燎が、花溪さんにとっての恩人?
僕の頭は整理がつかない。
だが話は進んでいく。
「私がこの学校に初めて登校した日」
「最初、いじめに遭っていたの」
「えっ……」
「(今では男女問わず人気者の花溪さんが、いじめに……?)」
「それで悩んでた時に、鮫島くんが助けてくれたの」
「アイツが……」
「ええ」
「本当なのよ」
「そんな……」
燎って、そんなに良い奴だったっけ?
僕は中学校生活をもう一度振り返る。
―――いや、彼に関していい思い出など一つも残っていない。
一体彼はどんな思考回路をしているんだろう。
段々気になってきた。
「ふふっ」
「ぶっきらぼうだけど、意外と優しい一面もあるのよ」
「へえ――…………」
気づけば興味津々な僕。
そりゃあそうだ。
鮫島燎の裏話なんて聞こえてきたら、誰でも耳を傾けるだろう。
「だから、今もずっと関係が続いているってことよ」
「………」
だけど、頭の隅では
どこか虚しさを覚えていた。
何故なんだ?
嫌な感じがする。
―――そうだ。
燎もきっと、花溪さんを好きに違いない。
そうだ。
絶対にそうだ。
僕はそう気づいてしまった途端、思わず肩を落とした。
まさかのライバルが誕生したのだ。
しかも、だいぶ手強い―――
でも僕の恋心には、一層火がついたような気がした。