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「殿下に申し上げます!」
翌朝。朝の支度を済ませ、部屋で朝食を摂っていた私の元へと騎士が飛び込んできました。
「勇者が犯行を認めましたっ!」
それだけ告げると騎士は下がりました。
私は…いま、一体…どんな顔をしているのでしょう…か。
「姫様!お気を確かにっ!」
「だ、大丈夫です。う、うらを…そうです!確かめに行きますっ!」
恐らく私の顔は真っ青だったのでしょう。慌てた侍女が近寄りますが、それをなんとか手で制し、気を取り戻しました。
「確かめなくては…何故…何故嘘の自供を…」
タクマ様は、決してあの様な意味もない、大それた事をする人ではありません。
あの方は優しさの塊です。裏を返せば気の弱い方です。
震える足で魔王討伐に向かわれたのも、私達を守る為。
そんな優しいあの人だから…私は……
「タクマ様っ!声を!声を聞かせてくださいっ!」
いつも面会をしている場所。
尖塔の入り口。私達はいつもこの場所で、時間の許す限りお喋りに花を咲かせていました。
鉄格子と結界の魔導具越しではありますが、ちゃんと顔を見て話すことが出来るので、贅沢は言えません。
そんな些細な贅沢すら、今は……
「殿下。勇者…いえ、タクマは気分が悪いのでしょう。この様な場所に王族である殿下が長居してはいけません。どうか、お引き取りを」
尖塔の前、鉄格子の横に控える騎士が私に告げます。
昨夜まで敬称が無くとも勇者と呼んでいたのに……命を救われたのに、そんな事で……
いえ。この人に当たっても仕方ありません。
「わかりました。もし、体調が戻り、話ができる様になれば、必ず教えてください」
「はっ!」バッ
敬礼に儀礼で応えた後、私はそこを離れました。
勇者であるタクマ様が体調を崩すはずがありません。
加護とはそういうものです。
もし、実際にタクマ様が訳あって犯行に及んだとしたら……ここで私の面会を今更断る理由がない。
であれば、やはり何か理由が……
何か掴めそうで、掴めません。
もどかしい気持ちを胸に、私は父の…陛下の所へと、足を向けました。
「殿下。今は会議の最中です。ご入室は…」
大きな両開きの扉の前。玉座の間に続く扉の横で控える騎士に、私の足は止められてしまいます。
「その会議に用があるのです。開けてください」
「なりません。今、ご入室の許可を取りに向かわせます」
今にでも扉を開けて勝手に入りそうな私を毅然と制した騎士は、横に控える部下を使い、中にお伺いを立てに行かせました。
一刻も早く……私の焦りは続きます。
「ナナリー。実は呼ぼうとしていたのだ。よく来た」
陛下の御前へとやって来た私に、父の顔をした陛下が優しく言葉を掛けられます。
その顔を見て、私は既に手遅れである事に気付きましたが、諦める訳にはいきません。
「陛下。御沙汰の程はお待ちください」
「…聡い子よ。しかし、話し合いは終わった。聞いておろう?タクマは自供したのだ。
最早、ナナリーにできる事はないのだ…」
「あります!タクマ様はどんな困難に遭っても、諦めず、私達のために魔王という人類の敵と戦って来たのです!
それなのに…私達が…いえ!私が諦める訳にはいかないのです!」
私は無力です。未だ犯人の手掛かりすら掴めていません。
そんな私にできる事は一つだけ。諦めないこと。
タクマ様が…いえ。勇者パーティの皆様が『諦めないことの大切さ』を教えてくれたのです。
「気持ちはわかる…しかし、罪を認めた者を罰しないわけにはいかんのだ。
この者達の顔を見てみろ。
安堵しておるだろう?
皆、弱いのだ。
責任を負いたくない、罪を着せられたくない。
余は王として、この弱き者達を支えていかねばならん」
宰相以外の貴族達は皆、顔を伏せています。
なんと情けないことか。
「保身の為に…恩人に鞭を振るうのを許せと?」
「誰かが背負わねばならぬ」
確かに神器がなくなれば、この国は国を維持できなくなります。
だからといって、誰もその犯行を信じていない者に罪を……
「タクマ様が神器を盗んだとするのならば、何故?」
「動機など一つの要素に過ぎん。家族の元に帰れなくなったことにより、ヤケを起こしたのかも知れぬ。そこを追及するつもりはない」
「では!私が!」
背負う。
「ならぬ!!それはあってはならぬ!!
事が大きくなり過ぎてしまった。恐らく他国にもこの情報は流れておるだろう。
許せとは言わぬ。諦めてくれ」
「そ、そんな…」
私は人前にも関わらず、膝から崩れ落ちました。