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sn視点
恐怖と解放されたという安心感から気絶をしていたトラゾーさんは目を覚ました途端、また真っ青な顔をしてあのことを思い出して震えていた。
小さく体を丸める自分よりも大きな体。
拠点に戻って保っていたものが崩れ、気絶するように眠ってしまったトラゾーさんに謝り、一度その場を離れた。
拠点内部に入られないように施しをして。
目が覚める前には戻って来れたようで眠るトラゾーさんの手を握っていた。
そして、目を覚まし震える彼をクロノアさんのパーカー越しに背中を撫で、落ち着くまで何も言わずにいた。
「…、…ご、めん…」
やっと言葉を発したトラゾーさんの声の弱々しさ。
普段とはかけ離れたその声にこっちも泣きそうになる。
「トラゾーさんは何一つ悪くないじゃないですか」
「ぃや、な…もの、みせた…きもちわる、かった…でしょ…?」
ぎゅっとパーカーを握りしめるその手も震えていた。
「僕たち裸なんて見飽きるくらい見てるじゃないですか。それに僕は、僕たちはトラゾーさんのこと気持ち悪いなんて一度も思ったことないです」
「しにがみ、さん…」
「それに、抵抗しなかったのも理由があったんでしょ?」
この人が抵抗できなかったわけがない。
だから、優しいトラゾーさんをそうできないようにしたに決まってる。
そう思って尋ねるとびくっと肩が跳ねた。
「……もしかして、僕たちを引き合いに出されましたか」
「……」
頑なに口を閉じて首を横に振る。
「トラゾーさん」
優しく声をかけ、諭す。
「…………おれが、あいつをきょひしたら、…みんなを…お、なじめに…あわせてやる…って…」
「っ、…やっぱり…」
あの男は優しいこの人の思いを踏み躙るようにして、逆らえないようにした。
僕たちに手が及ばないようにする為に、自分が我慢さえすればいいと諦めさせた。
「…僕たちがそんなヤワな人間じゃないこと分かってるのに優しすぎますよ。トラゾーさんが苦しくて痛い思いをしてまで、自分を差し出すことなんてなかったのに…」
「けど、…それでも…ぺいんとやしにがみさん、くろのあさんには…こんな、おもいを…して、ほしくなかった…から、」
目元を真っ赤に腫らして、尚もボロボロと涙を流すこの人はとんでもないお人好しだ。
僕たちはそんな守られるような立場の人間ではないのに。
「(あの男みたいに、あなたを組み伏せて啼かせてやりたいってみんな思ってる。けど、この関係を壊したくない。手放したくないから、誰も動けない。ぺいんとさんも、クロノアさんも、僕も)」
「僕たち、トラゾーさんが思うほど綺麗な人間じゃないですよ」
「ぇ…?」
「……」
泣きながらきょとんとするトラゾーさんの意外と柔らかいほっぺを包む。
「…あの男を殺してやりたいって思うくらいですからね」
「こ、ころすって…ぺいんとたちがこんなことで、てをよごす…ことなんて…」
あの男が可哀想なのではなくて、僕たちが手を汚すことに対して抵抗があるようだった。
優しいけど、少しだけズレてるこの人らしい。
「だって、大好きな人を泣かせたんですよ?命をもって償ってもらわないと」
びっくりして目を見開くトラゾーさんに笑いかける。
「大丈夫。僕たちは絶対にあなたから離れたりなんかしない。何があっても離れてやるもんか、粘着してやる」
この人は優しくてお人好しで僕たちを見捨てることはない。
それこそ、僕たちがどんなに手を汚そうとも。
頭の回転が速いあなたはいろんな理由を考えて、どうしてそんなことになったのかをその頭の中で完結させる。
そうして、僕たちの選択したことにそっか、と言って笑って許してくれるのだ。
「…っふ、俺がやだって言ったらどーすんの」
「っっ、…やっと笑ってくれた」
至近距離で無防備に幼く笑うトラゾーさん。
ってか、やだって。
「…あんた、やっぱりたまに幼女みたいですよ」
「え、1番見た目近い人が1番かけ離れた俺に言う?」
「概念ですよ、概念。トラゾーさん簡単に騙されて誘拐とかされそうですもん」
「えぇ…そういうのってクロノアさん枠じゃね…?」
「俺が何?」
「「ゔわぁぁぁあ゛あ⁈」」
戻ってきたクロノアさんは首を傾げている。
「しにがみくんの言う通りトラゾーの方が誘拐されそうじゃん」
「び、っくりした…」
「いや声かけたけど。2人の世界すぎて気付かんかった?」
僕の方をじっと見るクロノアさん。
「ぁ、あー!じゃあ僕も行ってきます。変えた座標教えてください」
「えーっとねぇ、……」
聞いた座標に頷く。
「じゃ、トラゾーさんのことよろしくお願いします。行ってきますね、トラゾーさん」
「へ、ぁ、いってらっしゃい…?」
手を振るトラゾーさんに元気に手を振りかえし拠点を出る。
ふと表情が剥がれ落ち無となった。
「うーん、きっと今の僕の顔はヤバいだろうなぁ」