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kr視点
だいぶ落ち着きを取り戻したのか、トラゾーの表情も柔らかい。
「怪我とかはしてない?」
「丈夫が取り柄なんで、多分大丈夫です。……未遂でしたし、ね…」
フッとまた暗い表情になる。
「それより、クロノアさんこそ血が…」
「え?」
「顔のとこ、大丈夫ですか?」
自分より他人のことばかりを優先させて。
そういう気持ちも分からなくないけど、今は自分のことだけ考えて欲しい。
「うーん…顔洗ってくるから動かず待っててね。すぐ戻るから」
「?はい、分かりました」
俺たちの言葉には素直で疑うことを知らない。
それだけの信頼を得ているということだろうけど。
「……物足りないな」
鏡には確かに顔に血のついた俺が映っている。
「気を付けてたんだけど…」
俺が怪我をするなどのヘマはしない。
こと、トラゾーに関しては。
これはあの男の返り血だ。
「最悪」
水で顔を洗い、乱暴に服で拭う。
戻ってドアからさっきの場所を覗くと手持ち無沙汰なのか俺のパーカーを着るトラゾーはフードを被って猫耳のところを触っていた。
「いや、可愛いかよ」
はっと我に返って恥ずかしくなったのかフードを外して赤くなった顔を手で扇いでいる。
「…トラゾー」
「うひゃっ!」
「びっくりさせちゃったね。ごめん」
「い、いえ…」
トラゾーの隣に再び座る。
「っ、あ…これありがとうございました」
パーカーを脱いで綺麗に畳んで渡してきた。
「しにがみさんがいてくれたのもあるんですけど、クロノアさんの匂いにも包まれてる感じがしてすごく安心しました」
「そうかい?」
「我ながら気持ちの悪いことを言ってますけど…」
受け取った自分のパーカーを広げて、苦笑しているトラゾーの肩にまたかける。
「ぅえ?」
「今日は着てていいよ」
「でも、それだとクロノアさん寒くないです?」
「俺は大丈夫。こうやってくっつけばあったかいし、トラゾーも安心するだろ?」
彼の肩を引き寄せ、自身に寄りかからせる。
「わ」
「ね?」
「……俺、こんな恵まれていいんですかね」
「いいんじゃない?だって、俺たちトラゾーのこと好きだし。好きな子の傍にはいてあげたいでしょ?」
きょとんとしていた顔が真っ赤になっていく。
「し、しにがみさんと似たようなこと…」
「俺はトラゾーのこと好きだよ?だから、あの男は殺してやりたいくらいだし」
「殺すって…」
「大丈夫。まだ、殺してないよ。しにがみくんが言ってたでしょ?僕の分残しといてって」
震えの止まった手を握る。
「俺たち、トラゾーのこと大好きだからね」
「くろのあ、さん…?」
「(俺たちがあの男と同じように暴いてやりたいって思ってるなんて頭にもないんだろうな。それだけ信用されてるってことだろうけど)」
崩したくはない。
けど、自分たちだけのモノにしたいのも事実。
どれだけ黒い感情を向けられてるかなんてトラゾーは分かってない。
その表情を崩してやりたいのも本音だ。
「トラゾーは俺たちのこと好き?」
「へ、?」
「嫌い?」
戸惑うトラゾーに詰め寄る。
「す…好きじゃなきゃ、ずっと一緒にいないですよ…」
俯いて表情を隠すトラゾーを下から覗き見る。
困ったようなそれでも嬉しそうな顔をしていた。
「、…やば…」
これはぺいんとだったら大騒ぎしてるな。
「もう、恥ずかしいこと言わせんでくださいよ…っ」
ぷんっと効果音がつきそうな怒り方だ。
「トラゾーってたまに小さい女の子みたいな怒り方するよね」
「う…またしにがみさんと同じこと言ってる…」
「あー、幼女がどうとかって…」
「あんた聞こえてんじゃん!…恥かしすぎる…」
「ふふっ、可愛いねぇ」
「可愛い担当に言われても…」
元気を取り戻してきたトラゾーと顔を合わせて笑っていたらバン!とドアが大きな音を立てて開いた。
「ただいまー!」
「ただいまです」
大きな声をして帰ってきた満足そうな顔をした2人を見てあの壮絶な風景を思い出し、それは一瞬にして頭の中から消え去っていった。