テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第五十二話 冬の約束
「約束は、会える日を待つためだけじゃない。今日を頑張る理由にもなる。」
十二月。
街は少しずつクリスマスの色に染まり始めていた。
駅前には大きなツリーが飾られ、
夕方になるとイルミネーションが街を優しく照らす。
学校の帰り道。
湊はふと足を止めた。
去年の冬も、
この場所で写真を撮ったことを思い出したからだ。
あの頃は、
ただ「きれいだ」と思ってシャッターを切っていた。
今は違う。
誰と見た景色なのか。
どんな気持ちで見上げたのか。
そんなことまで、
写真に残したいと思うようになっていた。
*
その夜。
スマートフォンに紬からメッセージが届く。
《神崎くん、お願いがあるんだけど。》
《どうした?》
少し間が空いて返信が届く。
《今年のクリスマス。》
《同じ時間に、お互い一番好きな景色を撮ろう。》
《場所は違っても、“今年のクリスマス”を一緒に残したい。》
湊は画面を見つめながら微笑んだ。
《もちろん。》
《約束。》
すぐに返事が届く。
《約束😊》
*
翌日。
写真部では
一年生たちが撮った写真を見せ合っていた。
「神崎先輩、この写真どうですか?」
陽菜が見せてくれたのは、
校庭で遊ぶ子どもたちの写真。
「いい写真だね。」
湊は優しく笑う。
「でもね。」
「もう一歩近づいて撮ってみると、もっと気持ちが伝わるかもしれない。」
「なるほど!」
陽菜は何度もうなずいた。
少し前まで教えてもらう側だった自分が、
今は誰かに伝える立場になっている。
そのことが少し不思議で、少し嬉しかった。
*
放課後。
帰り道に商店街を歩いていると、
クリスマスソングが流れていた。
プレゼントを選ぶ人。
ケーキを予約する家族。
笑い合う恋人たち。
冬の街には、たくさんの幸せがあふれている。
湊はカメラを構えた。
けれど、シャッターは押さなかった。
「今年のクリスマスは…。」
「約束の一枚を撮るまでは待ってみよう。」
そんな気持ちになった。
*
夜。
紬とビデオ通話をつなぐ。
「クリスマス、楽しみだね。」
「うん。」
「どんな写真を撮るか、もう決めてる?」
湊が聞くと、紬はいたずらっぽく笑った。
「秘密。」
「でもね。」
「神崎くんが見たら、きっと笑うと思う。」
「え?」
「当日のお楽しみ。」
二人は顔を見合わせて笑った。
画面越しでも、
その笑顔は去年よりずっと近く感じられた。
*
通話を終えたあと。
湊はカレンダーを見つめる。
12月24日。
その日に小さく丸をつける。
クリスマス。
離れていても、
同じ時間に同じ想いでシャッターを切る日。
今年一番楽しみな約束が、そこにあった。
📷 Photo.052『約束の日まで』
撮影日:12月5日
会えない時間も、
約束があれば待つことができる。
今日という一日は、
未来の笑顔へ続いている。
コメント
1件
読み終えました。冬の景色がとてもきれいに浮かんでくるエピソードでしたね。 「約束を撮るまでは別のシャッターは押さない」という湊の選択、すごく好きです。カメラマンとしてのこだわりと、紬への想いが重なって見える。 それに、後輩に教える側になった湊の成長も感じられて、ああこの物語の時間を一緒に歩いてきたんだなと思いました。 クリスマス当日、どんな写真を撮るのか、すごく気になります。
#異世界転移
花月夜れん
1,957
200
ユキ
85
47