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第三章:既読、即、嫉妬。
黒瀬の家からの帰り道。朱莉は少しの仕返し心のつもりで、中学時代の別の幼馴染・晴人と偶然会って寄ったカフェの写真をSNSにアップした。
「久しぶりに晴人とカフェ! パンケーキ美味しかった〜🥞✨」
わざとツーショットではないけれど、向かい側に座る晴人の腕が少しだけ写り込むような、絶妙な構図。
投稿してわずか3分。
スマホが、壊れたんじゃないかと思うほど激しく震えだした。
【着信:黒瀬(クソガキ)】
「……もしもし?」
出た瞬間、受話器越しに聞こえてきたのは、低く、低く、地を這うような関西弁だった。
『……お前、今どこにおるん。』
「え、カフェだけど。今さっき投稿した……」
『分かっとるわボケ。……晴人? ああ、あのアホ面下げたチャラ男か。あいつと何しとんねん。』
「何って、お茶してるだけだよ? 黒瀬に関係ないでしょ、昨日あんな意地悪したくせに……」
『関係……あるに決まっとるやろが!!』
電話越しでもわかる、彼の苛立ち。ドカッ、と何かが壁にぶつかるような音が聞こえる。
『お前、昨日俺にあんな顔しといて、よぉ他の男とヘラヘラ笑えるなぁ。……おい、今すぐそこ動くなよ。』
「え、なんで?」
『……今からそこ行く。そのチャラ男の目の前で、昨日のお預け、全部チャラにしたるから。覚悟しとけよ。』
ツーツー、と無情に切れる通話。
朱莉が呆然としていると、10分もしないうちにカフェのドアが勢いよく開いた。
肩を上下させ、少し呼吸を乱した黒瀬がそこに立っていた。
サンリオのクロミのような、鋭くも美しい瞳が、向かい側に座る晴人を射殺さんばかりに睨みつける。
「……おい、朱莉。帰るぞ」
「えっ、でもまだパンケーキが……」
黒瀬は返事も待たず、朱莉の腕を強引に掴んで立ち上がらせた。そして、呆気にとられている晴人に向かって、これ以上ないほど意地悪な笑みを浮かべて言い放つ。
「わりな、こいつ。俺がおらんと、味も分からんアホやから。……二度と誘うなや。俺のモンやから、これ」
ぐいぐいと店を引きずり出されながら、朱莉は彼の背中が少し震えていることに気づく。
「……黒瀬、もしかして嫉妬した?」
「……っ、うるっさいわ! 誰がするか、ボケ! ……ただ、お前が他の男にヘラヘラしてんのが、虫唾走るだけや……」
路地裏に入った瞬間、彼は朱莉を壁に押し付けた。昨日の余裕な表情はどこへやら、そこには余裕のない、剥き出しの独占欲を瞳に宿した黒瀬がいた。
「……昨日、俺が何て言うたか覚えとるか? 『逃がさへん』って言うたやろ。……本気で言うたんやぞ、俺は」
路地裏の湿った空気の中、壁に押し付けられた朱莉の肩に、黒瀬の強い指先が食い込む。
「……何や、その顔。まだあの男のこと考えとんのか?」
黒瀬の声は、怒りと焦燥が混ざり合って、いつもよりずっと低く響いた。
昨日、あんなに余裕ぶって「お預け」なんて言った自分を、彼は今、心底呪っているようだった。
「違うよ、黒瀬が急に来るから……」
「……黙れ。お前の口から、他の男の名前が出るだけで反吐が出るわ」
彼はそう言い捨てると、朱莉の顎を昨日よりもずっと強引に、、逃げ場を塞ぐように持ち上げた。鋭い瞳が、獲物を捕らえた獣のようにギラリと光る。
「……昨日、俺を笑わせた報いや。……もう、止まらんからな」
朱莉が何かを言いかける暇もなかった。
熱い吐息が重なったかと思うと、深く、塞ぐようなキスが降ってきた。
昨日までの「からかい」なんて微塵も感じられない、独占欲の塊のような熱量。
朱莉の心臓が壊れそうなほど跳ねる。
「……んっ、……くろ、せ……」
「……はぁ、……お前、ほんまに……分かってへんやろ。俺がどれだけ我慢してたんか」
一度唇を離した彼は、額を朱莉の額にぴたりと押し当て、荒い呼吸を吐き出した。
その顔は、いつも意地悪な笑みを浮かべている時とは別人のように、必死で、余裕がない。
「……もう、幼なじみなんて便利な言葉で誤魔化すん、やめや」
彼は朱莉の首筋に顔を埋め、まるで自分の印を刻むように、低く、独占欲たっぷりに囁いた。
「……お前の全部、俺が塗りつぶしたる。……明日から、学校も放課後も、一分一秒、俺以外のこと考えんなよ。分かったな?」
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