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・【09 後日】
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真澄の元に、とある連絡が届いた。
それはリカポンこと梨花さんから『僕らと会いたい』という知らせだった。
そこで真澄から僕へ連絡が入り、僕も了承し、僕と真澄の二人で手土産を持って、梨花さんと純太さんが待つ公園へ行った。
「おっ、来たじゃんか」
手を挙げて挨拶をした純太さんに僕は会釈して、真澄は、
「へい!」
と言った。
いや威勢だけの寿司屋の大将じゃぁないんだよ。
まあいいや、
「そちらの女性が梨花さんですね」
「はい、私が梨花です。純太から聞きました。いろいろありがとうございます」
いや何の口調も無いのかよ、と思ってしまった。普通は無いんだけどもさ。
四人でテーブル付きのベンチに移動し、僕は早速手土産を開けた。
「これ、パプリカとミニトマトの寒天ゼリーです。一足早い夏の香りということで。あっ、手料理大丈夫ですよね」
「ボクはあの二人に合わせていただけじゃんか」
「私は手料理いくらでも食べられます。というかありがとうございますっ」
真澄が柏手一発叩いてから、
「まっ! 食べながら話をしますか!」
いや真澄が仕切るなよ。
正月料理だけを食べに来る、たいしてお年玉もくれない親戚のオジサンじゃぁないんだよ。
さて、それより料理だ。僕はパプリカとミニトマトの寒天ゼリーが入った包みを広げた。
寒天ゼリーは、パプリカもミニトマトも甘く似ているんだけども、ミニトマトは薄皮を剝いている。
まずオーブンで焼き、割れ目ができたところで冷水に浸しながら剥くと、割と綺麗に剥ける。
やっぱり皮が無いほうが食味がいい。パプリカはそのまま煮ればとろとろになるので大丈夫だ。
ゼラチンを使う方法もあるが、ゼラチンは常温で溶けだす上に、カロリーも高いので僕はあまり使わないようにしている。
寒天のほうがやや液の色が濁りやすいんだけども、赤色と黄色のパプリカ・ミニトマトのおかげでカラフルな印象を与えていると思う。
特に野菜を使うこだわりも無いんだけども、この七月上旬の時期はフレッシュな野菜も徐々に手に入りやすくなってくるので、パプリカとミニトマトにした。
梨花さんは寒天ゼリーを口に含むなり、口角を上げて、こう言った。
「美味しいです……野菜の優しい甘さに、パプリカを煮詰めた時のとろとろさ、あっ、歯ごたえを残した薄いパプリカも面白いです!」
純太さんも笑顔で、
「ミニトマトも皮が剥かれていて食べやすいじゃんか、本当果物みたいにとろとろじゃんか。色鮮やかで楽しいじゃんか。もう夏じゃんか」
僕は一応説明を、と思い、
「寒天はゼラチンと違ってカロリーがほぼゼロで、食物繊維なので腸内に良いんですよ」
「爽やかじゃんか」
と言った真澄。
いや分かりづらいこと言うなよ。
食べることも一段落ついたところで、梨花さんが、
「少しご相談があるのですが、もし謝罪を受け入れてもいいかなと思ったら、私はどうしたらいいんですか?」
「僕のオススメはまず手紙で話し合いをすることですね。直接会うとどうしても圧がありますから。まあ純太さんも一緒でしょうけども、向こうが二人いるとなると、やっぱり圧があるでしょうから」
「なるほど、そうかもしれませんね」
純太さんも頷きながら、
「まああの二人は特に圧が強いじゃんか、それは回避したほうがいいじゃんか」
「それにですね。書面で、文章で質問文を書けば、有耶無耶にできないので、気になったことに対して、ちゃんとした返答が返ってきますよ。直接喋ると故意でも故意じゃなくても、こっちが聞きたい質問に答えてくれない時がありますので」
梨花さんは熱心にメモし、純太さんは真面目に頷いていた。
真澄はそんな時も寒天ゼリーをバクバク食べていた。邪魔しなくて良かったです。
「最終的に会うことも良いとは思いますが、あくまで全部スッキリしてからですね。別に会わなくてもいいかなと思ったくらいで会ったほうがいいと思います」
「分かりました。ありがとうございます」
アフターケアもしっかりできたし、寒天ゼリーも好評だったみたいだし、まあこれでいいだろう。
ただ真澄のSNSアカウント見ると、まだまだ依頼がありそうなんだよなぁ。
まあこれからも続けていくしかないか。
料理を他人に食べてもらえることは嬉しいんだけどな……そう、こうやって俺の隣でバクバク食う真澄から良い感想が出てくるとは、とても思えないから。
家路に着く時、俺は思い切って真澄に聞いてみることにした。そう、
「何で俺に探偵と料理を同時にさせたいんだ?」
すると真澄はてへへっと笑ってから、
「秘密! またはシメジ!」
と言って走り出した。
いや、
「秘密とシメジは全然語感が似ていないんだよ、韻ぐらい踏めよ」
真澄は振り返らず、どんどん走っていった。
俺は追いかけず、ゆっくり歩いた。
あんまり歩道を走りたくないし。
ある程度経ってから、真澄は振り返り、
「走り出せ! 青春! 始まれば得る!」
と言ってこっちへ向かって手を振ってきた。
その姿が何か恥ずかしかったので、一応早歩きで近付くことにした。
何だよ、熱血教師かよ、平成初期のドラマの雰囲気じゃぁないんだよ。
結局というか案の定というか、何で探偵と料理をさせたいのか答えは出なかった。
というか、きっとなんとなくなんだろうな、なんとなくそれが楽しいだけなんだろうな、きっとただ食べたいだけなんだろうな。
そんなことを思いながら、真澄に近付いていくと、急に真澄が違う方向へ手を振り始めたので、俺は隣に来た時に、
「何に手を振ってるんだよ」
と聞いてみたら、
「電車! 電車走ってたら手ぇ振っちゃうよな!」
いや初めて電車見て興奮している小学生じゃぁないんだよ。