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恵
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事件の翌朝。主人公が家を出ると、街の様子がいつもと違っていた。
電線にカラスがいない。
ゴミ置き場にも、街路樹にもいない。
昨日まであれほど多かったカラスが、一羽も見当たらなかった。
最初は偶然だと思った。
だが、翌日も、その次の日も、カラスは姿を現さなかった。
主人公はSNSに投稿する。
「事件のあとから全然見ないんだけど」
調べてみると、ほかの地域でも同じような投稿が見つかった。
カラスが急にいなくなったという報告が、各地から上がっていた。
その夜、主人公は夕食を終えたあと、父親に尋ねた。
そういえば、あの子供の事件って、父さんも関わったの?」
父親は少し手を止めた。
「……ああ。司法解剖を担当した」
主人公は声を落とす。
「どんな感じだったの?」
父親はすぐには答えなかった。
「詳しいことは話せない。ただ、ひとつ気になったことはある」
「何?」
「遺体の損傷が、かなりひどかったんだ」
主人公は黙って父親を見る。
「カラスに襲われたんだろ? だったら、そういうこともあるんじゃないの?」
「そう思うだろ」
父親は静かに続けた。
「でもな、肉を食べたような痕跡が見当たらなかったんだ」
「……え?」
「普通の捕食行動とは違うように感じた。ひたすら傷つけられ、荒らされたような状態だった」
食卓に沈黙が落ちる。
主人公は、ニュースで見た現場の映像を思い出した。
四羽のカラス。
逃げないカラス。
そして、子供が死亡した事件。
「じゃあ、カラスは食べるために襲ったんじゃないってこと?」
「そこまでは分からない。動物の行動を、人間の感覚だけで決めつけるわけにもいかないからな」
父親はそれ以上、詳しい話をしなかった。
主人公も、それ以上は聞かなかった。
だが、頭から離れなかった。
食べるためでもなく、巣を守るためでもないとしたら、なぜカラスは子供をあそこまで傷つけたのか。
そして、その事件の直後から、街のカラスは一斉に姿を消している。
主人公は自室に戻ると、スマートフォンで事件について調べ直した。
新しい情報は何もない。
ただ、カラスの目撃情報だけが、日に日に減っていた。
翌朝も、街にカラスはいなかった。
主人公は窓の外を見つめる。
「……どこ行ったんだよ」
カラスのいない街は、いつもと変わらないはずなのに、どこか不自然だった。
主人公は、カラスが山へ移動したのではないかと考える。
自分の目で確かめるため、山へ行くことにした。
コメント
1件
あ、これ……すごく不気味だね。 「食べた痕跡がない」ってところ、ゾッとしたよ。 カラスが消えた街の静けさと、あの事件の傷み方がリンクしてて、心臓の奥が冷たくなった。 主人公が山へ向かうラストも、この先どうなるのか気になる。 観察者さんの空気感のある描写、好きだな……。