――私は綾子さんに嫉妬している。
――何だかんだ言って、私は綾子さんが魅力的な人だと分かっているから、脅威に思っていて、いつ尊さんをとられるかビクビクしている。
――だから恵がちょっと馬鹿にしたように言うのを聞いて、少しいい気分になってるんだ。
――綾子さんには〝嫌な人〟でいてほしいから。
(……情けない)
〝分かって〟しまった私は、飲み会のさなかだというのに、ズン……と落ち込んでしまった。
「ごめんなさい、ちょっとお手洗い行ってきます。お酒美味しいから、調子に乗って飲み過ぎちゃったみたい」
私は気持ちを切り替えるため、一度席を立つ事にした。
「いってら」
恵はヒラヒラと手を振り、私はバッグを持ってトイレに向かった。
フロアを出る時にチラッと尊さんを見ると、彼は周囲の人と話して微笑しながら、私に視線を走らせたところだった。
「あー、もう、速水部長好きだわー! 結婚してくれ!」
酔っぱらった男性社員の声がし、皆がドッと笑う。
つられて笑った私は、溜め息をついてから階段に向かった。
「はー」
用事を終えて鏡を見ると、顔が赤い。でもまだ飲める。
(分かってはいたけど、同じ職場にいるのに尊さんと気軽に話せないってストレスだな)
仕事中はそう思わないけれど、飲み会になると『私の尊さんなのに……』と嫉妬してしまう自分がいるのに気づく。
男性社員や、彼に恋愛感情を抱かない人、年上の人にまで嫉妬する必要はない。
なのに私は尊さんと同じ場所にいるのに、彼の隣にいられない事に疎外感を得ていた。
(駄目だな、子供っぽい。尊さんに呆れられる)
私は溜め息をついたあと、トイレに誰もいないのを確認してから、「あっかるーいあっかるーい朱里ちゃんっ!」と歌いながら踊り、パンッと頬を叩いた。
「よっしゃ」
気合いを入れてトイレから出た時――。
「よう」
係長が目の前に立っていて、驚きのあまり悲鳴を上げそうになった。
トイレの前で待たないで!
「な、なんですか。女子トイレの前にいないでください。気持ち悪いですよ」
「キモいなんて言うなよ~。上村が立ったのをたまたま見たから、俺もついでに用足しして、ちょっと話そうと思っただけじゃないか」
……へぇ。たまたま……。
私は心の中で、にがーい顔をする。
「上村、酔ってるんじゃないか? 顔赤いぞ」
「や、そりゃ飲んだら顔赤くなりますよ。まだそんな酔ってないので、お気にせず」
私は顔の前でパタパタと手を振って二階に戻ろうとするけれど、係長に腕を掴まれる。
「ちょっと外付き合ってくれよ。俺、ちょっと涼みたくて」
「冬ですが。コート着てないのに外に出ろと?」
私はひんやりと冬らしい対応をする。
「ちょっとだけ!」
……なんだろう。このだだ漏れるダメ男感……。
「雪でも降ってたら、係長に雪玉ぶつけて頭冷やして差し上げられるんですけどね」
「上村ってクールだよなぁ……。そういうところがいいんだけど」
ああ、もう……。
「まだ料理全部出てないですし、戻って続きを楽しみましょうよ」
ぶっちゃけ、係長よりご飯のほうが大事だ。
「じゃあ、上村の隣で飲んでいいか?」
「ええー」
私は思いっきり嫌な顔をする。
「女子で楽しく会話してたんですから、男子同士で仲良くしてくださいよ」
「男子をハブにするなよ~」
まったく、ああ言えばこう言う……。
イライラしていた時、トントン……と階段を誰かが下りてきて、ヒョコッと尊さんが顔を出した。
「あ、時沢やっぱりトイレだったか。神が『いない』って言ってたけど」
はー、やっぱり尊さん、気にしてくれてた。良かった……。助かった……。
係長は肩の力を抜いた私をチラッと見て、尊さんに少し不満そうな顔を向ける。
「せっかく上村を口説いてたのに」
冗談混じりの言葉を聞き、尊さんはニッコリ笑う。
……が、その目は一ミリたりとも笑っていない。怖い。
コメント
3件
ꉂ 🤭アカリンの本当に嫌そうなのが、手に取るようにわかるわ。🤣 こんなにハッキリしてる子いないのに解らんかね?(笑)😅
さすが尊さん!👍 アカリンのピンチにご登場! きっとアカリンセンサーが付いている....⁉😂 トッキー残念でした~
時沢さーんぶちょーの目ヂカラで刺されてヤラレちゃうよ〜! 神くんほんとにいないって言ってたのかな?フフフ😏