「はぁはぁ……はぁ……
やっと……やっと着いた……」
大怪我をしたエスト様を背負った私は、
ドラゴンの居る広間に到着した。
エスト様を広間の端にそっと寝かせ、
広間の中心に向かって歩く。
エスト様の寝息が静かな広間に響く。
ふと、かすかな声が漏れる。
「……お姉ちゃん……」
振り返る私。
「ちょっと待っててね。
お姉ちゃんは、今から……
大きなトカゲを片付けて、
怪我の治し方を聞いてくるからさ?」
震える手を握り、拳を固めた。
怖い。でも、止まれない。
拳を握った手が、まだ少し震えている。
でも──この震えごと、“力”に変えてやる。
そして。
すぅ──
大きく息を吸い込み。
「ドラゴンッ! ドラゴンッ!
聞こえる? ドラゴンッ!」
精一杯の声を張り上げて叫んだ。
静寂。
どこかで、風が石をなでた。
遠くから声が聞こえる。
「……また貴様か! 鬼の娘ーッ!
またしても命乞いをする事になるぞーーーーーッ!」
ドラゴンが叫びながら飛んできた。
ズシンッ………!!
ドラゴンが私の目の前に着地した。
地面が激しく揺れる。
「くっ………」
私は揺れる地面に手をついた。
「……エスト様が! 魔王様が……!
大怪我をしてしまった!
助ける方法を教えて!!」
すがるような声でドラゴンに助けを求めた。
声が震えているのは、怖いからではなく、
エスト様を失うのが怖いからだと自分に言い聞かせる。
「うん? ……ふはははははッ!
鬼の娘よ! なぜ我がお前達の手助けをするのだ?」
ドラゴンは失笑した。当然だ。
それでも私は話しを続ける。
「勝手なことを言っているのは分かってる!
でも! でも! 私にはこの子が全てなの!
どんなことをしてでも治し方を教えてもらう!」
「……ふはは!
我も長い間のこの生活に飽いていたところだ!
ちょうど刺激が欲しかったところよ!
よかろう! 鬼の娘よ! 教えてやろう!」
沈黙。
「……我を倒したらなーーーーーッ!」
ドラゴンが大きな翼を広げると、凄まじい殺気が私を襲った。
「ッ……!!」
私は覚悟を決め、キッとドラゴンを睨みつける。
「やはりそうなるのね……でもね……?」
「……今回はエスト様が見ていない……
私も本気を出すよ? いきなり光魔法! フラッシュ!」
ピカッ!!!!!
不意をついた攻撃!
手のひらから眩い光が放射された。
「ぐぁ!?」
激しい閃光がドラゴンの視界を奪う。
広間全体が一瞬にして真っ白に包まれる。
「な!? 光魔法?
バ! バカな! ゆ、勇者か!?」
ドラゴンは両目を覆い、首を激しく振る。
その巨大な体が不安定に揺れている。
「奇襲大好き☆ 先手必勝の目くらましよ!」
フラッシュの余韻で、
私の周りがキラキラと輝いているように見える。
「しまった! 油断した……!」
ドラゴンは完全に不意を突かれ、慌てている。
「ふははー! ……からのー!!!
ライトアロー連打!!!」
光魔法での追撃!!
指先から無数の光の矢が放たれる。
それぞれの矢は、まるで意志を持っているかのように、
ドラゴンに向かって飛んでいく。
スドドドドド!!!!!
無数の光の矢がドラゴンに襲いかかった!
ドラゴンの鱗に当たるたびに、小さな爆発を起こす。
「ぐッくっ……!やはり勇者か!!
だが、それがいい。
力に飢え、誇りを忘れぬ者よ、
我を退屈から解放してみせろ!」
ドラゴンは怯んでいる。
その巨体が後ずさりし、壁に背中をぶつける。
その瞬間を私は見逃さなかった!
「ぶぁーかぁーめええええーーーーー!
怯みおったなあああああwww
いくぜぇえええええええ!!!!!」
超笑顔でダッシュ! 間合いを詰め──そして!
【スキル:《怪力──アイスのフタ舐め我慢したモード》発動】
ピキィィィッ……!
あの時──
アイスのフタに残った白いバニラの宝石を舐めたかった。
でも、視線を感じた。
……今やったら終わる──社会に殺される。
その一瞬で、私は人生最大級の我慢をした。
世界が静まり返っていた。
スプーンだけが、私を見ていた。
……だから今はその分、暴れる。
「私に”我慢”を強いた代償……
たっぷり払ってもらうからな?」
全身の筋肉が膨れ、気合が空を揺らす。
ズズズッ……
ドオォォォン!!
拳が地を砕く!
構えは低く、気配は殺気だけを残す。
「あのフタの裏のアイスを、
私は一生忘れねぇ……これは供養だッ!!!」
髪の毛が逆立つ。
「今の私は理性を超えた存在……そう、未練の塊ッ!!」
岩盤が裂け、広場全体に重低音の衝撃波が広がる。
「社会が私に求めたのは理性だったが──今ここでぶち壊すッ!!!」
【システムログ】
・怪力補正:異常値
・出力倍率:推定1200%
・警告:ヒロイン判定を取り消しました
・女子力:測定不能(センサー破損)
「え」
一瞬の沈黙。
「なんだ……? 世界が震えている……!?
……ヒロイン……判定……? なにを言っている……?」
なんかドラゴンも固まってた。
「……」(私)
「……」(ドラゴン)
そして──天井から小石が落ちてきた。
コン……
ドンッ!!!
小石を合図に地面を思い切り蹴り、
ドラゴンに向かって猛ダッシュする!
ドラゴンの片脚を掴んだ。
「いくぞ! トカゲぇ?
今の私は”最高に理不尽”だぜ?」
重い!
いや、この重さがいい。
この抵抗が、「挑戦」の証だ。
……ムダ様……あの日、深夜のテレビであなたの言葉を聞いてから──
『ドラゴン・スクリューってな?
倒す技じゃない。証明する技だ。
マイナンバーカードのパスワードは回転数だ。
忘れたら体で思い出せ』
私もずっと、この技で「ここにいる」って証明させて欲しい。
【システムログ】
・補足:サクラは暗証番号を「1234」に設定しています(推奨されません)
「うっさい!!」
──そして。
私は心の中で、かつての自分に問いかける。
ねぇ、教えてあげたい。東京の頃の私。
満員電車に潰されて、
上司の顔色ばっかり見てたあの頃。
“力のあるものが得をする世界”なんて、
壊れてるって思ってたよね。
……でも今なら分かる。
この世界だって壊れてる。
でも──私が本気を出せる壊れ方だ。
壊れてるからこそ、笑えるんだよ。
今の私はね?
巨大なドラゴンに、
ドラゴン・スクリューをかけようとしてるの。
息切れして、
汗だくで、
膝もガクガクで、
怖くてたまらない……
だけど──
びっくりするくらい────生きてるッ!!!!!
「……ポンコツな妹のためにさぁあああああーーーせーーーのッ!!
ドラゴンスクリュぅうううぁああああッーーー!!!」
ドラゴンの足を掴んだまま倒れ込むように回転──そのまま体ごと振り抜く!
ッぐるんッ!!!
ドガァッッッ!!!!!!!!!!
ドラゴンの巨体が地面にめり込む。
「ぐはぁッ……!」
ドラゴンスクリュー炸裂。
衝撃が広がる。
この異世界が、確かに揺れた。
私は立ち上がり、拳を振り下ろすように叫んだ。
「っは!! どうよ!!
これが私の宣戦布告だァーッ!!
待っとけよクソ世界!!
今から征服しに行くからなぁああああッ!!!」
「まさか……この我が……!?
鬼の娘よ……貴様、一体何者だ……?」
「はぁ?通りすがりのお姉ちゃんだよ!!美人のな!!」
「……な、長いこと生きてきたが……
貴様ほど暴力的で──いや、理不尽な挑戦者は初めてだ……!!」
静寂。
広間に残るのは、埃と熱気だけ。
私は周囲を見回し、拳を高々と突き上げた。
「……どやぁッ!!」
私は勝者の誇りを噛みしめた。
「本物のドラゴンにドラゴン・スクリューをキメたったわー!」
ピョンピョンしてダブルピース。
「異世界広しと言えども私が世界初なんじゃないのー!?」
倒れてるドラゴンの元に駆け寄り、
戦意を失ったドラゴンの肩に手を回してドヤ顔。
沈黙。
「……うるさい……」
エスト様の寝言が聞こえた。
(つづく)
◇◇◇
──【グレート・ムダ様語録:今週の心の支え】──
『ドラゴン・スクリューってな? 倒す技じゃない。証明する技だ。
マイナンバーカードのパスワードは回転数だ。忘れたら体で思い出せ』
解説:
ムダ様にとって「証明」とは、書類でもデータでもなく”回転”である。
彼の世界では、個人情報とは筋肉の記憶、つまり肉体が刻むIDだ。
ゆえに彼は言う──「マイナンバーカードのパスワードは回転数だ」と。
それは精神論ではない。
彼は本当に覚えていない。
暗証番号を忘れたとき、彼は肉体に頼る。
記憶装置としての脳ではなく、身体そのものを叩き起こすのだ。
結果、毎回なぜかリング上で回転している。
行政的には不正解だが、哲学的には正解。
ムダ様にとって、“思い出す”とは、文字通り「再び回ること」だからだ。
たった4桁の数字なのにな。






