テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「絶対零度……超だと!?」
時空障壁フィールド内にて、ユキが発顕した力を垣間見たハルが、その真意に驚愕する。
絶対零度超とはどういう意味か。そもそも、そんな温度は熱力学的に存在しない。
絶対零度とは、絶対温度における0度で0ケルビンの事。その下限が『-273.15℃』であり、熱力学での最低温度。エネルギーが最低になった状態であり、この時に決まる下限温度が絶対零度なのだ。
だからそれらを超える、それ以下の温度という自体が有り得ない。それが摂理というもの――絶対的法則。
だが、ハルには分かる。この意味がーー
“マイナス一万度超とは……”
サーモに依る数値が示していたもの。それはノクティスの持つ、物理法則外の力を測る為に開発された装置でもあるのだから。
存在するかもしれない力ーー否、存在しない力を測る為の。
“彼の周りの時間ーー概念すらも止まり、凍っていく。恐らく、この温度域では恒星すらも凍滅するだろう……。宇宙空間で最大出力ともなればーー”
ユキが発顕した絶対零度超の持つ、その底知れぬ法則外の力にハルは震撼するしかない。そして改めて、二人が時空障壁フィールド内に居る事に安堵した。
もし、時空障壁フィールド外で絶対零度超を展開していたとしたらーー
“現在のあの出力だけでーー”
地球は疎か、太陽系全域が凍滅していたであろうーーと。
「やはり、あの二人こそが……」
そういう意味でもブラックホールの中心、事象の地平面ーー特異点が唯一、宇宙の物理法則が当てはまらない様に、本当の意味で特異点で在るのはこの両者のみだという事に、ハルは自身の認識を改めていた。
神の欠陥品で在る人間。神の写し身として、本当の人間で在る四死刀でも自分でもない、神の想定外で在る彼らこそがーー。
*
「展開ーーモードインフィニティ」
ユキの絶対零度超発顕を見て取ったノクティスが、歓喜の表情で自身も第四マックスへと移行する。そして、その右手には発顕された輝く大剣が。
「……私の唯一専用武器、七星皇剣グランステュリオン。これを本気で振るえる時が来るとはね」
それは七色に輝く、この地球に存在しない鉱石で造られたであろう、西洋のバスタードソードを彷彿させる剣。
ユキも応える様に“一度失われた”雪一文字を発顕し、膨大な絶対零度超の冷気が全て刀へと集約していく。
「星霜剣“裏”最終極死霜閃ーー無氷零月ーー“刹那”」
そして刀を鞘に納め、最終奥義の構えを取る。
「流石だねユキ。私達の戦いに於いて、小手先の力も技も一切不要。あるのは極限を超えた一撃のみ」
ノクティスはユキの技の構えを誉め称えた。物理法則を超えた両者の前に必要なのは、摂理を超えた一撃のみだと二人は本能で理解していた。
「さあーーいくよ!」
ノクティスも技の発動の構えを見せた。大剣を高々と天へ掲げる。七色の輝きが、より一層増して広がった。
“七星皇剣『グランステュリオン』最大顕現――極光・七熾星流転”
それは七つに別つ、光り輝く剣の波動。ノクティスの持つ、物理法則外の力ーー“超光速”の最奥。
光速を超えた剣閃は恒星は疎か、クエーサーをも消し飛ばし、時空の壁をも破りかねない。
「……現世で君の子を産めないのは心残りだけど、これも運命という事だね」
「出会う次元が違っていたら、その可能性もあったかも知れませんね」
「ユキ……ありがとう」
激突の間近、言葉を交わす二人の外に在る者。それは彼等以外には決して理解出来ない想い。
そしてーー二人は導かれたかの様に、同時に技を放った。
*********
宇宙と同等の範囲を持つ時空障壁フィールド内にて、二人の言語を絶する力がぶつかり合った瞬間、誰もが言葉を発する事も出来ず、驚愕に立ち竦んだ。全てが理解出来なくとも、内部ではとてつもない事が起きているのは一目瞭然。
“マイナス一兆度超と秒速一兆キロ超の衝突。太陽系処か、一瞬で銀河系全てを覆い尽くす衝撃とは……”
二人の衝突時の衝撃比率をサーモで測定したハルが、そのエネルギー算出量に驚愕、震撼、感服する。それは宇宙最大級恒星の、超新星爆発が放つエネルギーをも軽く凌駕していたのだから。
“このままでは……”
現時点でさえ、宇宙開闢(ビッグバン)に匹敵するエネルギー量。更に危惧するは、二人の力は宇宙全域にまで拡がり、時空の壁をも破りかねないと。
物理法則外の力が衝突し合う等、完全に想定外の事だった。
「なっーー何が起きてるの!?」
ユーリがハルへと尋ねる。両者の空間では、今まさにとてつもない事が起きようとしている。だがそれは想像したくない。想像出来ようもない。
二人の力と技の余波は、宇宙を超えようとしていた。
「宇宙開闢を――超える!」
それは決着の間際、全てが無に帰す間際の事。時空障壁は崩壊していた。
――終わった。誰もが瞳を閉じ、顔を背ける。
「…………っ?」
しかしどうした事だろう。時空障壁崩壊と共に拡大する筈の余波を、感じられないのは。
それとも感じる暇も無く、全てが終わってしまったのか。
アミ、そしてハルは恐る恐る瞼を開き、確認してみる。
「――ユキ!?」
「ノクティス様!?」
――居た。両者は全ての力を放った後の、技硬直で止まっていた。
寸前で決着し、どちらかが上回った。結果、時空障壁崩壊だけに留まり、それ以上は拡散しなかったのだ。
これが時空障壁フィールド外だったら、宇宙そのものが終わっていた事を意味する。
勝敗の結果は――