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「きゃあぁぁ!!」
「いやあぁぁぁ!!」
ミオとアミが同時に悲鳴を上げた。何故なら弾ける様に、ユキの右腕が“刀ごと”吹き飛んだのだから。
「ぐっ!」
無くなった右腕ーー右肩を左手で押さえながら、ユキはその地に膝を着いた。
決着の刻。上回られ、敗北を喫したのはユキの方だったのか。
「……見事だったよーーユキ」
振り返りながらノクティスが、その力を讃える。その手に持つ七星皇剣、グランステュリオンの輝きと共にーー
“ーーっ!?”
誰もが目を疑う異変。それはグランステュリオンの刀身に亀裂が走り、砕け散っていく。それのみならず、ノクティスの胸元には半月に切り裂かれた跡が。流血は無い。代わりに輝く様な傷痕が浸食していくーー全身に。
「やはり私の眼に狂いはなかった。受け入れるよーー敗北を」
上回られ、敗北を喫したのはノクティスの方だった。
「私は君に逢う為に生まれ、時を超えて来たのかもしれないね。私の想いを受け止めてくれて……ありがとう」
敗北を受け入れたノクティスは、自身の“全てを満たしてくれた”ユキへ、感謝の礼を述べる。
「先に……逝っているよーー」
そして何もかもが淡く、光に滲んで消えていく。
「ええ、先に逝っててください」
ノクティスが消え逝く間際、弔いの言葉をユキは贈っていた。それは死後に於ける邂逅の意味だったのか。
そしてノクティス消失後、ある異変が起きるーー
「ーーえっ!?」
それはユーリの姿に於ける異変。突如彼女の姿は、先程までの少女の姿ではなく、大人の女性へと変貌を遂げていたのだ。
「ど、どうなってんの?」
その変貌振りを間近で垣間見たミオが、驚愕の声を挙げた。
「ノクティス様が命を落とした事に依る盟約の終わり。止まっていた時が一気に動き出したのですよ」
その疑問に答えたのはハルだ。
「ユーリ、貴女はまだ狂座入りしてから十年程しか経過してませんから……」
つまりは悠久の刻を生き続ける事はなくなったという事。ユーリの身体年齢は十三年程で止まっていた。その為、十年の時が一気に進んだ事になる。
そしてーー
「ハル!?」
ユーリは思わず目を見張った。それはハルの身体が薄く滲み、崩れていく様。
「私はあの御方と、それこそ途方もない時を過ごしてきました。その分の時が進むという事は、老化という次元を超えて、跡形も無く消え去る事を意味します」
「そ、そんな事って……」
その事実にユーリは愕然とした。同じ直属として共に過ごしてきたのだ。思う処は多々ある。
「間もなく、このエルドアーク宮殿も時空の狭間に消える事でしょう。ユーリ、貴女はこの時代で大切な人達と共に生きてくださいーー」
「うん……ありがとう、ハル。そしてーーさようなら」
消え去る事は避けられない。ユーリはハルへ別れを告げ、それと同時に彼は消えていった。
ノクティスが敗れた事により、あらゆる事が一気に終わりを告げる。当然、ミオの悠久の呪縛も解けた事だろう。
これにて一件落着。全て解決したと思われたが、そうはいかない。
「ごほっーー」
忘れていた訳ではない。あまりに情報量が多過ぎたのだ。
「アミ!?」
「姉様!」
突如アミが吐血する。そうーーノクティスと命をシンクロしていた以上、宿主が死んだという事は、そのままアミの命も終わる事を意味する。
ユーリとミオは彼女へと駆け寄り、何とかしようと試みるが、何ともならないーー“失った心臓”は戻らない。
それだけではないーー
“ーーユキ!?”
右腕を失って膝を着くユキ。彼の身体もノクティスやハルと同様、崩れて消え去ろうとしていた。
「ど、どうして……?」
ユーリとミオは怪訝に思うが、目を背けていただけかもしれない。本当は何処か気付いていた。
ユキは“物理法則”を超える為、完全に人の域を超えてしまった。これが何の代償も無い筈がないと。
その通りだった。摂理に反して超えた代償は、この世の摂理から消える事。即ち、この世界から消失する事を意味していた。
アミの死とユキの死ーー消失。それは決して避けられぬ摂理だった。