テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「選べだなんて言わないで!」の本編からはみ出した小ネタを置いていきます。
(英日・雨の一幕)
窓を打つ雨の音に、今日は遅くなります、という今朝のイギリスさんの言葉が頭をよぎる。
立ち上がり、玄関の傘立てを覗く。
見事なフラグ回収。しっかりと彼の傘が存在を主張していた。
「雨…降られないといいけど。」
これもまたフラグか、なんて。
一人暮らしでは起こらないことに、小さく笑みを漏らした。
***
「…日本さん。」
軽く体を揺らされ、目を覚ます。
どうやら寝落ちしてしまっていたらしい。
「こんなところで寝ていては、風邪を引きますよ。」
「……イギリスさん、おかえりなさい。」
寝起きで少し喉がカサついている。
寝ぼけ眼をこすり、上を向いて絶句した。
「何してんですかあなた!?」
ギョッとしたようにイギリスさんが体を反らす。
珍しく感情を露わにした彼に、一瞬鼓動が高まった。
「何を、とは……?」
すぐにいつも通りの笑顔を浮かべ、イギリスさんは僕にそう問う。
その完璧な姿が妙に様になっていて……とか、言わせてほしかった。
「びしょびしょじゃないですか、お洋服!」
「?今日は雨でしたので。」
再び『何を?』と言いたげな顔をする彼。
「………脱いでください。」
「……はい?」
「服脱ぐ!特にジャケットすぐ脱いで!天然物の方がシャツに色移りしやすいんですよ!」
「とりあえずさっき畳んどいたシャツあるので着替えてください!」
「帽子ハンガーラックにかけない!木製でしょうこれ!?腐りますよ!?」
「靴もずぶ濡れ!昨日の分の新聞どこですか!詰めます!!」
ぱちくりと豆鉄砲を食ったような顔をする彼を置き、そう捲し立てながら身ぐるみを剥いでいく。
「新聞どこですか!?」
除湿器のパワーを全開にし、とりあえず剥ぎ取った靴を干す。
「私の書斎です…?」
「わかりました、体拭いててください!!」
***
帰宅して眠っていた彼を起こすと、いきなり彼らしからぬ大声を出したかと思えば、あっという間に見ぐるみを剥がされてしまった。
疾風の如く去っていった彼が、勢いよく舞い戻ってきた。
フランスが昔随分と熱を上げていた日本の漫画の……何と言ったか……髪が異様に刺々した、野菜味のある名前のキャラクターのような素早さで、日本は新聞紙をちぎり、靴の中に詰めた。
「……よし。」
日本は満足そうにそう言うと、いつもの顔で振り返った。
「僕、あったかい紅茶でも淹れてきますね。」
鼻歌でも歌い出しそうな笑顔だ。
中国の『甘えたなくせに世話焼き』という彼への評価を思い出し、口元が緩んだ。
これでひとつ、彼のことを知れた。
脳内のメモの『世話焼き』に線を引く。
「………二人暮らしも、悪くないですね。」
明日の彼は、どんな顔を見せてくれるのだろう。
雨はいつしか、柔らかに街を包んでいた。