テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
気づくとまた眠りに落ちて居たようだ。ベッドの真ん中で身体を伸ばして寝て居た怜はふと目を覚まし、傍らで腰掛けスマートフォンを操作している笹岡の姿を見上げる。「あ、ごめん。俺…」
「いや、いいよ。気にしないで」
「…うん」
そう言って怜は起き上がると、足を組んでその場に座り込む。
「俺もちょっと眠い」
笹岡はそう言って怜に向かって笑いかける。
風呂から上がったばかりのようで、まだ少し汗ばんでいるような顔を見て怜はギクリとする。
「寝ても、いーかな」笹岡が怜の方を振り返ったままで言う。
「…」
笹岡は暫し怜の顔を見ていたが、返事を待たずにベッドの上へと上がると、怜が腰掛けていた隣に座り、「やっぱこうする」と言う。
「そういえば、話って」
「ああ。あれなー。どこから話せばいいのかな。結構遡るんだけど、いい?」
自分から言い出した癖に、笹岡はそう言って隣で足を伸ばす。
「何でもいいよ。まあでもあいつ、俺のところに突っかかって来そうな勢いはあったけど、案外何もされてないから、俺に取っては無害ではあるけどね」
「…一応生徒会長だから。
あいつさ、結構人を見てるんだよ。お前に何かしたらそれは面倒な事になるってことくらい、分かってる。
でも…あいつ、昔は吹奏楽やって居たんだよね。中学の時」
「え、そうなの?」
「うん。俺と、同じ中学。
…同じ部活で、学年は違うけどまあまあ仲も良かったんだ」
「ふーん。」
そこまで聞いた後でふと、思い当たる。旅行前にLINEで聞いた話の内容。
「…思い出した?
それで、俺も困っちゃってさ…って、俺、サワグチにはどんな話でしたっけな。」
「笹岡が同性愛だから、相手とは3日で別れたって言う話だろ。」
「あー。そんな内容かあ。あのね、ちょっと違うんだ。実は、まあまあ付き合ってたんだけどね、そのうちバレちゃったんだよね」
確かに、怜から見たときは、笹岡がというよりも向こうのほうが強烈な同性愛な感じに見えていた。
「…なにが」
「えっ。」
笹岡は怜の方をおずおずと見る。
「俺が、…その、中身が空っぽだったっていう事」
「はあ?」
「あはは…いや、実は、脅されても居て。俺が好きな相手、一年の頃から別に居るっていう事に向こうも気付いてたみたいで、何か色々捩れまくった話し合いを何度かされた後で、じゃあ、お前は告白しろっていう事になったの。」
「ん。お前って誰のこと?笹岡が?」
「そう。それでもし、相手にもされてないんだったら、どうなるか分かってるなって…そういう話」
「…」
「分かった?」
「いや、その話にどういう反応すればいいの俺」
「…確かに」
笹岡はそう言ったまま俯いている。
「何、それ。そんな脅すような事になる?」
「まあその辺は、向こうも溜め込んでたって事なんじゃないかな。」
「何を?」
「……」
「それさ、一体どうやったら、あの生徒会長がお前にしつこく食い下がるまでに発展するの。それに…その話、お前が」
怜は笹岡の顔を見つめる。笹岡は、自分の顔をやけに真面目な顔でじっと見ている。
…誰なんだよ、それ。
話を聞きながら怜はそう思っていたが、笹岡の顔を見るなり、やっぱり確信犯的に笑っているように見えている。
こいつ、言わせようとしてる。
俺がその話に食い下がって来るのを見て、俺にどう対応しようかって考えてるんだ。
コイツはこういう手を使って周りの奴らと接して来てるんじゃないか。生徒会長も…それから、大会でトラブルがあったという女も。
生徒会長については、少し前に学校でのイベントがあった時に、集まった生徒の前で滔々と話している姿が記憶にあった。
いや、誤魔化してるのはコイツの方だ。
あいつがあんな目で睨んで来るっていうことは、引き延ばすだけ引き延ばして、最後酷いことをしたんじゃないか。
「…そういえば、まだあるだろ」
「ん?」
「代案って。今日、言ってたでしょ。生徒会長との事で困って、お前の方から代案を言ってみたってこと。それがもしかして…」
「サワグチ」
「は。」
気づくと、笹岡が怜の腕に手を掛けている。
怜が笹岡の顔を見る。真面目な顔で怜を見ていると思うと、至近距離まで近づいた笹岡が怜の口に、自らの唇を重ねて来た。
軽くキスをした後で、お互いの顔を見る。
怜は何とも言えない気持ちだった。
未だに、ここまで説明をされても、一向にいま笹岡が何を考えているのか分からない気がした。
「…誰、それ。」怜が呟く。
「ん。」
「いや、だからさ。お前、説明するにしても、状況しか話してないと思うよ。
別に俺も怒ってるって訳じゃないけど」
「そう?」
「…じゃなくて。それ…」
が、自分から言うのもなんだか違う気がして怜は口籠る。
「分かったよ。
…お前が生徒会長をおちょくって、その気にさせたんだろ。そういう話?それで、あんな所で…」
笹岡は黙っている。怜はそう言いながら、自分の顔が熱くなって来てることに気がつく。
…笹岡の言う代案が何なのかは分からないが、怜も含めて、行き当たりばったりで動いて、やりたい事に手を出して……
めちゃくちゃな事やってるだけじゃないか。
怜と笹岡とで、暫しお互いの顔を見つめたままでいる。
が、怜もふと自分とユウの事を思い出してみる。
ホモだとかそうでないとか。
好きだとか好きじゃないだとか…
相手に引きづられてそうなるって事も、もしかしたらあるんだろうか。
いや、それよりも、思ってた以上に聞いて居た内容が嘘だらけだった事に、意外な程自分でもこの事に対して混乱しているみたいだった。
「俺もう寝るから。…明日もあちこち周るんだろ」
怜はそう言って、笹岡が見てるのにも構わず布団の中へと入る。が、ふと思い立ち、立ち上がると部屋の突き当たりまで歩いて行き、照明のスイッチを切る。
部屋の中の照明が落ちる。ベッド近くの間接照明だけに照らされ、家具とお互いの影が床へと落とされる。
怜は笹岡が座ったままのベッドまで戻ると、そちらを見ないようにして布団をめくり、ベッドの中へと潜り込んだ。
「サワグチ。怒ってるの?」
「ん。なんで」
「さっきの話」
「何で。別に怒る理由なんて無いでしょ。お前は正直に話したんだし…」
それに俺は、二人が何をしてたのかも知らないし。
「…話してないよ」
笹岡は怜の背中でそう呟く。