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「ひ、人多い……」
アルベドの魔法を駆使しながら、町の中央にある星栞がつるしてあった櫓に着くと、そこには既に人だかりが出来ていて、皆自分の願い事を探しているようだった。
アルベドに聞けば、願い事の内容によって数日後とかにかなうものもあるらしく、皆血眼になって自分の願い事を探しているらしい。
にしても、人が多すぎる。
あまりの人の多さに私は吐き気がこみ上げてき、思わず口元を手で覆ってしまう。そういえば、人混み苦手だったと……人酔いしてしまった私を心配するように、アルベドは優しく肩を抱いた。
彼の温もりを感じ、私はホッとすると同時に何故か顔が熱くなるのを感じた。
あ、あれ? なんか、変だぞ? 私、こんな乙女思考じゃなかったはずなのに……!
アルベドにドキドキしている自分に戸惑っていると、彼はそんな私の様子を見て笑っていた。
「大丈夫か?」
「あ、うん」
アルベドの優しい言葉にキュンとしながら上を向けば、アルベドは先ほどの笑みとは対象に呆れたような表情で私を見下ろしていた。
「何よ」
「何って? まあ、お前が慣れないことして疲れてんのみて面白いなあと思っただけだよ」
「ひ、酷い!」
そう言って、アルベドは不敵に笑いながらも私の頭を撫でてくる。
もう、本当にコイツは……! そう言いつつも、彼に触れられることが嬉しくてついつい許してしまう自分がいる。
いやでも、冷静に考えれば、疲れているのをみて面白いという発想はサイコパスなのではないかと私はふと思ってしまった。そういえば、此奴は暗殺者だった……善人は殺さないけど。それでも、倫理観が描けているところはあるし、作中の中でも危険人物だったわけだし……
「それで? あんなか、探しに行くのか?」
「勿論、そのためにここに来たんだもん」
「無理すんなよ」
『一日中付合わせちまって、体力なんて残ってないだろうに……俺が探してくるなんて、言えねえけど』
と、不意に聞えてきた心の声に私はビクッと肩を上下させた。
(え、今、デレ……た?)
いや、待て。待て待て。と、私の心の声は加速していく。
アルベドがそんな優しいこと思うはずないと、今のは、ただの幻聴かもしれないと。
そもそも、この世界はゲームの世界なのだ。攻略キャラの心情なんてものは、全てプログラムされたものでしかないのだ。
だから、きっとこれもそうに違いない。
そう思う反面、やはり彼の優しさに触れ、嬉しいと感じてしまう自分もいるのも事実だ。
(いや、そういえば……アルベドって確かツンデレ属性だったな)
ふと、そんなことを思い出し私は一旦冷静になった。
暗殺者であり公子であり、いっけん冷徹で、がさつといった相反する正確やら特性やらを持っている彼であったが、ヒロインにデレている場面が多く見られた。ヒロインの天然属性に当てられてゲームでは良く赤面していたものだと今更ながらに思い出して少し笑いもこみ上げてきた。
その笑いが表に出て、私はプッと思わず笑ってしまった。すれば、アルベドは一瞬にして顔をしかめる。
「何笑ってんだよ」
「思い出し笑い」
「ほんと、変な奴だな……」
そう言いながらも、私を見る彼の眼差しはとても優しかった。
そのことに、またドキッとしてしまい、私は慌てて誤魔化すように首を横に振った。しかし、それを見逃さなかった彼は私を怪しげに見つめてくる。
そして、彼は私の頬に手を当てた。
「はわああああ! 何!?」
「やっぱ、熱いじゃねえか。熱、あんじゃねえの?」
と、私を心配する声に、私はハッとした。どうやら、いつの間にかアルベドの手が私の額に当たっていたようだ。
その行動に私はまた声にもならぬ悲鳴を上げた。アルベドは咄嗟に耳を塞ぎ、私の顔から手を離した。
「そーいうの、ダメ!ダメだから!」
「何がダメなんだよ」
「だから、その、顔とかに触るの! 確かに、乙女ゲームだし!? そういう、キャラとかの触れあいとか、それこそが醍醐味だけど、でもでも、現実と二次元は違うのよ!」
そう、口走って肩で息をする私に、ぽかんとした表情で見つめるアルベド。何とも間抜けな顔をしているなあと思ったが、私だって変なこと……変というか、此の世界の人には伝わらないであろうオタク用語だの何だのを並べ暴力のように吐き出してしまった。
いけない、オタクの発作が……
と、私は片手で口を覆った。今更意味がないだろうけど、これ以上何か言わないための防御である。
「まあ、いいや……お前が可笑しいのは今に始まったことじゃねえし。熱でもねえってんなら、早く探そうぜ」
「え、あ……そう、星栞をね」
「他に何探すんだよ?」
不思議そうに聞き返され、私は言葉を詰まらせた。
まあ、それもそうだね。と返し私は再び人の波に目を向けた。皆が皆必死になって自分の星栞を確認している。勿論大半は、見つからないだの、何処のつるしたか忘れただので、少数の人が、見つけたが書いてあったと嘆いていた。
そんな人々を見て、何だか凄く申し訳なくなってきた。
だって、叶ったのは私なんだから……
そう思いつつ、もし、違ったら? という不安も出てきたため、私は固唾をのんでいざ人混みへと足を一歩前に踏み出した。一歩踏み出したところで、ぐいっとアルベドに腕をひかれる。
「何よ、今覚悟決めたところなのに!」
「いや、お前あんなか入って生きて戻ってこれるのかよ」
「失礼な……! そりゃ、疲れるだろうし、潰されて押されて流されちゃうかもだけど、どうしても確認したいの」
アルベドにそう、真剣に伝えればアルベドは私をじっと見た後、黄金の瞳を人混みの方へ向けた。それから、はあ……とあからさまに大きな溜息を漏らした後、ポンと私の肩を叩いた。
「俺が行ってくる」
「え……? いや、でも」
「俺が行っちゃダメな理由でもあんのかよ」
「ダメ……じゃ、ないと思うこともないと思うけど……」
と、結局結論はどっちなのか分からない言葉を返してから、私は少し黙って考えた。
私を気遣って探してきてくれるというアルベドの優しさは勿論伝わったし、ありがたいって思っている。だけど、一つだけデメリットがあることに私は気づいてしまった。
私が考えている間に二三歩前に進んでいたアルベドの服を私は引っ張った。
「今度は、何だよ」
「やっぱ、待って。私が行く」
「だから、お前じゃ……」
「じゃ、じゃあ、二人で……探せば良いのではないでしょうか」
「なんで、敬語なんだよ」
そう言いつつアルベドは足を止めてくれて、私の方を向いた。
私は、一つ見落としていたことがあったのだ。
(もし、私の願いが叶っていたとしてそれが、此奴にバレたら? いや、言わなければいい話だけど、アルベド一人でいかせるって言うことは、私の願いを聞かせるって事にもなるし、探して貰うにはちゃんと情報を伝えなきゃだし、そしたら確実にバレる!)
心が読めるなんて、気持ちが悪いとか、バレるから嫌だとか言って距離を取られそうだったからだ。
何故、私がアルベドに距離を取られることを気にしているのか、自分でもよく分からなかったし、そもそもそんなこと思ってないし。ただ、何となく距離が離れるのは寂しいと思っただけだ。うん、きっとそうだ。そうに違いない。
と、自己完結したところで私はアルベドに向き直り言った。
彼には悪いけど、一緒に探すことにしよう。
「二人か……まあ、効率は良いが、お前は良いのか? 人混み苦手なんだろ?」
「でも、そんなこと言ってられないし。早くしないと門限が」
「門限とかあったのか?」
「リュシオルが心配するのよ!」
と、私は叫んでやると、アルベドは「ああ、あのメイドか」と呟いて、プッと笑った。
きっとそれは、門限とか言った私を馬鹿にしているものだと思ったし、必死になる私がまた面白い女とか思っているんだろうと私は察した。
もういい、慣れた慣れた。
そう言いきかせて私はアルベドに早く探しに行くと、彼の手を引っ張った。すれば、彼の黄金の瞳は丸くなる。
「何? 早くしてよ」
「いや、お前………ああ、まあいっか。んじゃまあ、探しに行くか。で? お前が書いた願い事は何だよ」
「教えない」
「はあ? それがわかんなきゃ探せるわけねえだろう」
「白色……だったと思う、星栞の色」
「んなもん、星の数ほどあんだろ。もっと、具体的に」
「じゃあ、いい! 一人で探すから」
私は、これだけはバレたくないという一心で、彼の手を振りほどき人混みの中へ走って行った。勿論、その際押しつぶされたりと苦しかったが何とか櫓の所までたどり着けた。
(後は、探すだけ……目印は、リースの黄色の星栞……!)
私は、高い櫓を見上げて気合いを入れるため頬を叩いた。すると、後ろから追いかけてきたアルベドが私の名前を呼んだ。
「エトワール」
「アルベド……」
「俺も探す。お前が情報くれなくても、俺はお前の願い知りたいし探してやる」
そう、アルベドは言うと私に乾いた笑みをみせた。それは、挑発的な笑みにも見え、私はゴクリと固唾をのむ。
(ありたいけど、バレたくない! これは、宝探しみたいなものね!)
そう、私はアルベドを見て変にやる気が入るのであった。