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(頭……割れそう……)


星栞を探し始めてから、頭痛がしだし、私は頭が割れそうな思いで必死に星栞を探していた。

というのも、先ほどから櫓の周りにいる人達の心の声が脳内に響いてやまず、私は耳を塞いでも入ってくるそれに苦しめられていた。

確か、何処かのボタンを押したら攻略キャラの以外の心の声は聞えなくなるはずだったのだが、そのボタンというか、ウィンドウを開くことが出来ない。


(どうやって、この騒音おさめれば良いのよ!)


そう悩み、頭を抱えていると、ポンと肩が叩かれ、心配そうな顔したアルベドと目が合った。


「おい、顔色真っ青だぞ? 大丈夫か」

「う、うん……まあ、人酔い」

「ほら、矢っ張り」


と、アルベドは呆れたような表情でため息をつくと、私に水の入った瓶のようなものを渡してきた。


「これ、何?」

「酔い冷ましの魔法がかかってる水だ。結構高価なもんだからな……薬って」


そう言いつつも、アルベドは少しこの場からはなれようと提案してきた。確かに、一旦はなれた方が良いと思い、私はコクリと頷きアルベドの提案に乗ることにした。そして、少し離れた所まで着て、私は彼に渡された瓶の蓋を開けると、勢いよく飲もうとするが、中々上手くいかない。

それを見ていたアルベドは、かしてみろと私から瓶を取り上げると簡単に開けてしまった。やや乱暴に取り上げ、開けたが彼なりの優しさに心の奥がグッとわしづかまれるような感覚に陥る。

開けると瓶の中の水は透明からオレンジ色に変わり、途端に爽やかな香りが辺りを包み込み、それだけでも私の頭痛はスッと引いていった。


「凄い、色変わるの……?」

「ああ、開けてから早くのまねえと効力がなくなるんだ。瓶の中に魔法をつめて、開けた瞬間に魔法が発動する仕組みになってるからな。だから、高い」

「お金の話……」


そう言うと、アルベドは苦笑いをした。

まあ、魔法を瓶につめるというのは、難しいみたいだし、ブライトの話を思い出せば、魔法をその場で維持することと凝縮することは難しいのだという。イメージも必要になってくるし、技術も必要になってくる。

水の魔法なんかが良い例で、形は不安定ですぐに弾けてしまう。水の魔法を使い慣れている人でも、魔法で作り出した水を15分も同じ形で維持するのは困難なのだとか。

また、それが凝縮ともなるとかなり難易度が上がるらしい。

だって、火を小さい球体にして持ち運び、例えば相手にぶつける際に大きくする何て技、イメージだけで出来るなら皆出来ているはずだから。

そんなことを思いつつ、私はアルベドにお礼を言うと、彼は照れくさそうにそっぽを向くのであった。


(あ、デレた……)


耳まで赤くなっているのが見え、髪の毛の紅蓮と同化しているなあと思いつつ、私は瓶の縁に唇を当てた。

先ほどと同じように爽やかな匂いが唇につくような感覚になり、そのまま口内へと流し込むと、喉の奥の方からじんわりと温かさが伝わってくる。まるで、風邪を引いたときに飲む飲料水のような味でとても飲みやすかった。少し、オレンジの風味も効いていて、なかなかに飲みやすい。

すると、先程までの頭の痛みが嘘のように消えていき、思わずホッとしたようにため息をつく。頭もスッキリし、視界が明るくなったような気もする。


「どうだ? 少しは良くなっただろ?」

「うん。凄く、これ飲みやすい」

「オレンジの味したろ?」

「え? あ、うん。した……この国って、凄くオレンジ大切にしているんだもんね」


私がそう言うと、アルベドは小さく笑うと、そうだなと言った。

この国は、オレンジを大事にしている。それは、オレンジを乾燥させたものをお菓子作りに使ったり、ジュースやお酒にも使う。また、オレンジを使ったジャムなども有名だったりする。

他にもオレンジ色に染められた服だったり、陶器だったり、そこら中でオレンジに関係するようなものが売ってある。

リースも言っていたけど、オレンジが育ちやすい環境って言うのもあるかららしい。

私の胸元についているピンも、黄金のオレンジの形をしている。


「何か、収穫祭とかもありそう。オレンジの」

「ああ、あったな。オレンジジュースの飲み比べとか、オレンジのスイーツ祭とか」

「スイーツ祭!?」


私は、思わず立ち上がってしまった。

先ほどの頭の痛みは既に何処かへとんでいってしまい、彼のスイーツ祭という単語だけ拾いあげて私は目を輝かせた。私は甘いものが好きなのだ。

私の行動に驚きつつも、アルベドは苦笑いを浮かべながら私を座らせると、彼は呆れたように言う。

そんなことより、お前はもう少し休めと。


「まあ、詳しい詳細はお前のメイドにでも聞け。俺は甘いものより辛いものの方が好きだからな」

「髪の色みたいなこと言うんだね」

「かんけえねえだろ……はあ、それで、まだ探す気か?」


と、アルベドは話題を変え、櫓の方に視線を移した。先ほどよりかも人は減っているような気もするがまだまだ星栞を探す為、人の波をかき分けながら皆血眼になって探していた。

また、あの中に入ったら頭が痛くなりそうだ。考えただけでも頭痛がしてきて、私はまた気が滅入りそうになった。

でも、確認したいという気持ちは強い。


「探す……」

「なんでそこまで必死になるんだよ」

「だって、気になるし……」


いや、見なくてもきっと私の願いは叶ったと言うことなのだろうが、これが隠しクエストであり、そのクリア報酬というものがその星栞に書いた願いが叶うというものなら、納得してもいいし、もう素直にするべきだと思う。

言われれば、アルベドの言うとおりで、探す理由ももうないのかも知れない。

システムだのクエストだのを信用出来ない私が邪魔しているから、今こうなっているのだ。


「……分かった、帰る」

「まっ、それが一番いい。んで? 一人で帰るつもりなのかよ」


自然と立ち上がって、ふらふら聖女殿の方に歩き始めた私を呼び止めてアルベドは黄金の瞳で私を射貫いた。

その目から、一人では帰らせないという意思が伝わってくる。


「だって、もうで、ででででで、デート的なやつ終わったし、ここでばいばい……するもんじゃないの?」

「はあ……お前分かってねえなあ」


そう言って立ち上がるアルベドは、矢っ張り私なんかよりも何十㎝も高い。

首が痛くなるから立ち上がらないでくれと思いつつ、アルベドは私の方にグッと顔を近づけた。その行動に私は顔を赤面させる。


「な、何。何が分かってないって……!?」

「だーッ! んな、こんな夜道女一人で帰らせられるわけないだろ普通。それに、デート終わりは送ってやるってのが紳士だろ」

「自分で言う?」

「まあ、お前が、男とデートしてないって事が分かっただけでも収穫か。まあ、デートしたことがあったとしても、家に送ってやらねえ男だったら、そいつおわってんなあって思うけど?」


アルベドは全男性を敵に回すようなことを言いつつ、鼻で笑うと私を持ち上げてニッと笑った。


「ほぎゃあああ! な、な、なななな!」

「だから、ちったー女らしい声出せよ。何だ、その鳥みたいな声」

「だ、だ、何でお姫様だっこ!?」

「コレの方が効率良いからな」


と、アルベドはさも当たり前であるかのように言うと私を見下ろした。私はアルベドの腕の中で見下ろされながら、眉も口元もピくつかせている。

すっぽりとは待ってしまったここから抜け出すことはまず困難だろう。


(はあ……此奴、私のこと小動物とか思ってるんじゃないでしょうね……ちょっと、デカいからって……)


確か、アルベドって一番攻略キャラの中で背が高かったような……いや、リースとどっこいどっこいか……リース以外の情報をあまり覚えていないが為にこんな風に曖昧に表現することしか出来ないのだが。


「んじゃ、帰るぞ。しっかり捕まってろよ」

「え、なんでしっかり捕まって……ってきゃあああ!」


アルベドがそう言った瞬間、彼は地面を蹴り、天高く舞い上がった。フワッと身体が一瞬にして浮き、私とアルベドは満月が浮かぶ夜空へと飛び立った。

まるで空を飛んでいるかのような浮遊感に、私は思わず悲鳴を上げる。そんな私の反応を見てアルベドはクツクツと笑い声を漏らす。

彼の言っていた「効率が良い」という言葉の意味を理解した。

こんなに高く空に舞い上がれるのも、浮くのも彼の風魔法のおかげだろう。確かに、何度も彼にお姫様抱っこされて、そのたび彼は風魔法でショートカットしていた気がする。そりゃ、歩くより楽だろうと。

私は、彼の中でため息をつきつつも、アルベドの見ろよ。という無邪気な子供のような声で顔を上げる。


「満月。近いだろ?」

「ほんとだ……」


先ほどまでは、遠くに見えていた満月もとても近くさらに大きく見え、もう少しで手が届きそうな所まで着ていた。いや、届くはずはないのだが、それでも届くと思うほどに近かった。


「アルベドの瞳みたい……」


私は目を輝かせて、黄金の月を見る。それが、アルベドの瞳のようで綺麗だと、私は思わず口に出してしまった。



乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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