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管野アリオ
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待ち時間を経て、ようやく席に案内された二人。
「お待たせしました。こちらのお席へどうぞ」
「やっとですね!」
朝陽は目に見えて嬉しそうに声を弾ませていて、その反応に亜佑美はくすりと笑いながら、案内された窓際の席へ向かった。
木目調の落ち着いた店内は甘い香りで満たされていて、周囲の客たちも楽しそうに写真を撮ったり会話をしたりしている。
メニューを開いた朝陽は真剣な顔で眺めていた。
「うわ……全部美味しそうで迷いますね」
「本当だね」
「これとか凄くないですか? 生クリームの量が」
「でもこれが一番人気らしいよ」
「一番人気って言われると、気になるやつですね!」
「ふふ、そうだね」
暫く悩んだ末、二人は一番人気のスペシャルパンケーキと、評判だというスフレチーズケーキを注文した。
そして待つこと数十分。
店員がテーブルへパンケーキとスフレチーズケーキを運んできた瞬間、朝陽の顔がぱっと明るくなる。
「わ……! 凄い!」
ふわふわに重なったパンケーキに、たっぷりのクリームとフルーツと、真っ白なスフレチーズケーキは皿の上でふわりと揺れるほど柔らかそうで見るからにどちらも美味しそう。
「美味い!」
食べた瞬間、「美味い」と瞳を輝かせるその姿があまりにも子供っぽくて亜佑美は思わず微笑んでしまう。
(なんか、可愛い)
そんな風に思いながら一口、また一口とパンケーキを食べている亜佑美へ朝陽がじっと視線を向け、
「……今、俺のこと子供っぽいって思いましたよね?」
「え?」
少しだけ拗ねたような恥ずかしそうな表情を浮かべながら尋ねると、図星を突かれた亜佑美は思わず視線を逸らした。
「いや、その……子供っぽい……っていうか」
「っていうか?」
「……可愛いな……とは、思ったかも……」
言った瞬間、自分で何を口走ってるんだろうと恥ずかしくなる。
けれど朝陽は一瞬目を丸くした後、少しだけむっとした顔になった。
「……子供っぽいも可愛いも、あんまり嬉しくないです」
「あ、ご、ごめん」
「けど……」
朝陽は照れたように目を逸らして小さく笑った。
「木葉さんに言われるなら、許します」
「……っ」
(その言い方、ずるい……)
まるで特別扱いされているみたいで、亜佑美の胸は一気に騒がしくなった。
すると、どう返せばいいか分からず固まっている亜佑美に朝陽の腕が伸びていき、
「木葉さん」
「え?」
次の瞬間、すっと伸びてきた朝陽の指が、亜佑美の口元へ触れた。
「クリーム付いてますよ」
「っ!?」
そして口の端についていたクリームを朝陽が指で掬い取るその動作はあまりにも自然で、亜佑美の顔はみるみる熱を帯びて赤くなる。
「あ、藍島くん……!」
「木葉さんの方が子供っぽいじゃないですか」
「そ、そう……かも……」
仕返しとばかりに返された言葉に上手く返せず、まともに目も合わせられない亜佑美。
朝陽は何気なくやっているだけなのだろうけれど、その一つ一つが妙に近くて、それでいて新鮮で、亜佑美は意識してしまう。
(何これ。なんていうか藍島くんと居ると、ずっとドキドキしっぱなしで、こんなんじゃ身が持たないよ……)
年下で、しかも恋愛慣れなんてしていなさそうな男の子に、こんなにも振り回されるなんて思わなかった亜佑美は冷めかけた紅茶を一口飲みながら、向かいに座る朝陽をちらりと盗み見る。
朝陽はそんな亜佑美の視線に気づく様子もなく、パンケーキを、「本当に美味しいですね」と素直に笑って食べていた。
その無邪気さが、余計にたちが悪い。
(絶対、何も考えてないよね……)
クリームを取ったのだって、きっと自然にやっただけ。
だからこそ厄介だった。
そういうことに慣れている男なら警戒も出来るが、朝陽は違う。
ただ純粋に真っ直ぐ距離を縮めてくるからこそ、亜佑美ばかりが意識してしまって勝手に胸が騒ぐ。
「木葉さん?」
「っ、な、何?」
「さっきから顔赤いですけど……暑いですか?」
「ち、違う! その、何でもないから!」
亜佑美が慌てて否定すると朝陽は不思議そうに瞬きをした後、「そうですか、それならいいですけど」と素直に引き下がった。
その反応にまた胸がざわつく。
(……もう、これって)
この胸の高鳴りは、ただドキドキしているだけじゃない。
一緒にいるだけで嬉しくて目が合うだけで落ち着かなくて、もっと話したいと思ってしまう。
(私、藍島くんに……)
そこまで考えてしまった瞬間、亜佑美は誤魔化すように慌ててパンケーキを口へ運んでいった。
コメント
1件
ああ、もう……この焦れったくて甘い感じ、最高ですよ。「子供っぽい」と言ってしまってから「可愛いな」と訂正する亜佑美さんの慌て方とか、口元のクリームを取る朝陽くんの無自覚すぎる仕草とか、一つ一つの動作に心臓が持っていかれました。無邪気だからこそタチが悪い、っていう亜佑美さんの視点、すごく共感します。年下男子のストレートな距離感、反則ですよね。この二人の空気感、これからもずっと見ていたいです。