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管野アリオ
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「ごちそうさまでした」
食べ終え、そろそろ出ようかという話になったので亜佑美が伝票に手を伸ばした、その時だった。
「あ……」
先に朝陽に取られてしまう。
「藍島くん?」
「行きましょう」
当然のように歩き出す背中を亜佑美は慌てて追いかけた。
そしてレジへ着くと亜佑美は急いで財布を取り出す。
「今日は私が――」
「これでお願いします」
「えっ」
亜佑美が言い終えるより先に朝陽は店員へお金を差し出していた。
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて止める亜佑美に朝陽はきょとんとした顔を向ける。
「駄目だよ、今日はそもそもお礼する為に来たのに」
「木葉さんはそのつもりだったのかもしれないですけど、俺はそのつもり無かったですよ」
「でも……」
「それに、言ったと思いますけど、この前のことなら気にしないでください。俺が勝手に看病しに行っただけですから」
「そんな……」
申し訳なさと嬉しさと、色んな感情が混ざって上手く言葉が出てこない。
すると朝陽は小さく笑い、
「さ、行きましょう」
亜佑美の手を軽く引いた。
「……っ!」
ちょうど後ろには他の客が並び始めていたこともあり、亜佑美は抗議する暇もないまま店の外へ連れ出される。
外へ出ると、空はすっかり薄暗くなっていた。
「……だったら、せめて割り勘にしよう」
隣を歩きながら亜佑美がそう提案すると、朝陽は少し困ったように笑った。
「今日は凄く楽しかったから、俺に出させてください!」
「でも……」
「それで、その……もしまたこういう機会があった、その時は……割り勘にしましょう! ね?」
どこか照れくさそうに言われて亜佑美は思わず目を瞬かせる。
“またこういう機会”ということは、つまり、また会いたいと思ってくれているということだ。
その事実に胸がじんわり熱くなった亜佑美は小さく頷いた。
「……うん、分かった。ご馳走様」
「どういたしまして」
時刻は午後四時を少し回った頃、車に乗った亜佑美はこのまま帰るのだろうと思っていた、その時だった。
「あの」
朝陽がどこか遠慮がちに口を開く。
「もし良かったら、この辺りで綺麗な夜景が見えるスポットがあるみたいなので、どうですか?」
「え……?」
その言葉に亜佑美は驚いて隣に座る朝陽を見上げた。
夜景を見に行こうなんて、まるで最初から予定していたみたいな流れだけれど、今日ここへ来ることは会ってから決めたばかり。
「……どうしてそんな場所知ってるの?」
そんな疑問を朝陽に投げかける亜佑美。
「え?」
「だって、今日ここに来るって決めたの、会ってからだよね?」
「あ……」
そこで朝陽は少し気まずそうに視線を逸らした。
「その……食べ終わったら帰るだけっていうのは寂しいかなって思って……待ち時間に、行ける所が無いか少し調べたんです。そうしたら夜景が綺麗なスポットがあるって載ってて……」
最後の方は少し恥ずかしそうに声が小さくなる。
その姿を見て、亜佑美の胸がじんわりと熱くなった。
「……そっか」
(もっと一緒に居たいと思ったのは、私だけじゃなかったんだ)
そう思った瞬間胸の奥が満たされた気がして、嬉しさから自然と頬が緩んでしまう亜佑美。
「行きたい!」
「……!」
亜佑美の言葉に朝陽は一瞬驚いたように目を見開き、それからぱっと嬉しそうに笑った。
「それじゃあ行きましょう!」
その笑顔につられるように亜佑美も笑って、二人は県境を越えて県外へ。
目的地までは車で三十分程とあって、夕暮れから夜へ変わっていく街並みを眺めながら、亜佑美はどこか夢みたいだと思っていた。
そして、こんな風に誰かとの時間を名残惜しいと思ったことが今まであっただろうか、朝陽が相手だからそう思うのか、そんなことを考えながら車に揺られていた。
辿り着いたのは、小高い山の中腹に作られた展望スポットで、広めの駐車場から少し歩いた先に展望デッキがあり、そこからは街を一望できるようになっている。
眼下には無数の灯りが広がり、遠くには川沿いの橋やビル群の明かりまで見えて、まるで地上に星空が広がっているみたいに見える。
“恋人たちの定番スポット”として有名なのか、辺りには寄り添って景色を眺めるカップルの姿も多かった。
「……わぁ」
車を降りて夜景が見える位置までやって来た瞬間、亜佑美は思わず声を漏らした。
「すごい……」
「本当だ……」
隣の朝陽も感動したように目を見開いている。
二人の目の前に広がる光景は息を呑むほど綺麗で、暫く言葉も出なかった。
その中で、亜佑美はそっと隣を見る。
夜景の光を映した横顔はどこか大人びて見えて、胸がまたきゅっと締め付けられた。
(……格好良い……な)
そう思ってしまった瞬間、亜佑美は誤魔化すように再び夜景へ視線を戻した。
亜佑美の理想は、とにかくハイスペックな男の人。
大人で余裕があって、恋愛にも慣れているような人だったはずだ。
そもそも年下なんて恋愛対象として意識したこともなかったし、ましてやこんな風に振り回されるなんて思ってもみなかった。
それなのに、隣に立つ朝陽からどうしても目が離せない。
不器用なくせに真っ直ぐで、慣れていないのに一生懸命で、そのくせ時々無自覚に距離を縮めてくる。
そんな一つ一つの行動に心を揺さぶられてしまう。
(……ほんと、理想と全然違うのに)
それでも気になって仕方がないのだから、もうどうしようもなかった。
コメント
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うわあ……今回のエピソード、すごく良かったです……! 朝陽くんの「食べ終わったら帰るだけは寂しい」ってこっそり夜景スポットを調べてたエピソード、もう完全にグッと来ました。理想とは違うのに目が離せないっていう亜佑美の心情がじわじわ沁みます。年下で不器用だけど一生懸命な朝陽くんの魅力が、夜景のシーンで一気に花開いた感じがして、読んでて胸がきゅんきゅんしました。次が待ち遠しいです!