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ヒカリに連れられてやってきたのは、ルクスとルフレの部屋だ。部屋の前では執事が待機しており、私達がやってくると扉を開けてくれた。
部屋の中は相変わらず豪華絢爛といった感じで、聖女殿よりもキラキラとしていてザ・金持ちといった感じだった。だが、その部屋の中に居る主達はとても感じの悪い子供だった。
「え~なんで聖女さまいるの?」
「聖女さまいるの?」
と、わざとらしく子供ぶった喋り方で、まるで私が悪い魔女とでも言うかのように互いに手を合わせて震えていた。
彼ら、ルクスとルフレの足下にはキラキラと輝く宝石やら魔道書やらが広がって、どう見ても勉強をしていたという雰囲気ではない。まあ、こいつらが勉強しているとは思わないのだが。
そんな二人の様子を見るのは今回が初めてではないため、扉を閉めてもらった私は、もういいから。と彼らに声をかける。
「もう良いって何が?」
「何が?」
「だーかーらー! その喋り方よ。アンタ達そんな純粋無垢な子供じゃないでしょ」
そう怒鳴ってやれば、また怖ーいとわざとらしく身体を震わせる。
この双子は会うたびこれだ。
面白がってやっているのか、本気でか弱い子供を演じているのかは分からないが、一度彼らが賢いませガキだと分かってしまった以上、彼らのそれは演技にしか見えないのだ。演技をする理由はないはずなのだが。
(ああ、矢っ張りこうなる。こうなるって分かってたけど!)
会いに行こうかなと思った過去の自分を呪いたいぐらいだった。元々子供が好きではないのに、攻略キャラだからという安直な理由で彼らに会いに来た。結果またからかわれているというか、面倒くさい奴らだなあと再認識させられた。
「聖女さまが虐める~」
「虐める~」
「ああ、もう!」
私はその場で地団駄を踏んだ。すると、彼らは可笑しいというように先ほどのわざとらしい声色と仕草ではなく、腹を抱えて笑い出した。彼らが激しく笑うので床に散らばっていた宝石はあちこちに飛んでいく。高そうな宝石だというのに、勿体ない。
「あー聖女さま、久しぶりだね」
「久しぶりだね。何できたの?」
と、二人はようやく本性、素に戻ってひとしきり笑った後にその空色と宵色の瞳を私に向けた。
彼らは、腹黒く、Sッ気のあるショタというのがゲーム内での設定だった。
ああやって、子供っぽく振る舞う一方で、人を見下しているのだ。そうして、どんなイタズラをしようか考えている悪い目をしている。
ルクスは久しぶりといったが、会ったのは三日前だったと思う。だから、日にちは経っていないはずなのだが。
(私は三日眠っていたから、実質一日ぶりみたいな感じなのだけど)
そんなこと、彼らが知っているか知らないか分からないけれど、とりあえず適当に返事をした。
私と双子がそんなやりとりをしていると、気を利かせてくれたヒカリがお茶とお菓子を持ってきますねと部屋を出ていく。残されたのは私、双子、グランツ、アルバだ。私の護衛二人は、双子の様子をじっと見ていたが、感情のでやすいアルバは今にも双子を絞め殺しそうなオーラを放っていた。それでも、相手が子供だから、伯爵家の人間だからと抑えているのだろう。
「何でって、殿下の付き添いよ」
「殿下の?」
「皇太子殿下の?」
「それ以外誰のよ」
と、返せば、二人は顔を合わせて目をぱちくりさせた。
まあ、付き添いといいながらここにいる時点で可笑しいと言うことは彼らも気づいているだろうし、これ以上深く聞かれたら何も返せなかった。
「お父様との交渉、協力をって来たんだよね」
「お父様が名指しで殿下を呼んでいたから」
「え?」
思わず聞き返した。
確かに、皇太子であるリースが直々に協力を要請、交渉をと出向くのは可笑しいと思っていたが、まさか彼らの父親、伯爵が名指しをしていたとは。だが、位からしたらどう考えても皇族の方が上で名指しできるような立場ではないはずだ。となると、何かしら伯爵家と皇族の間であるのだろうかと、少し頭が痛くなるような気がした。
理由は色々あるのだろうが、そこは別に突っ込まなくてもいい気がした。
「僕達もあんまり理由は分からないけど、お父様は皇太子殿下にすごーく期待しているというか一目会いたいって思っていたというか」
「未来の皇帝への投資みたいな。よくわかんないけどね」
ねーと二人は顔を合わせる。
それから、双子が私の顔を覗き込んできた。ルクスの空色とルフレの宵色がきらりと光る。
「それで、聖女様は交渉の邪魔だって追い出されちゃったんだ」
「付き添いって良いながら邪魔扱いされていたんだ」
「はあ!?」
思わず、素で怒ってしまった私をアルバは必死で止めた。アルバの方が怖い顔をしていたが、私が二人に怪我をさせたらこの交渉は要請は取り消される可能性があったからだ。
だが、あまりにも言い方が酷すぎる。
双子は怒った私を見て愉快そうに笑っていた。
(ほんと、やな子供)
怒っている私とは対照的に、ピコンと音を立てて双子の好感度は上昇していた。彼らは、私への嫌がらせが成功するたびに好感度が上がるのだろうか。だったら、彼らの好感度が50%を越えるまで、いや、100%になるまで私ハイ彼らの嫌がらせというかからかいを受けないといけないのだろうか。
まあ、そこまで上げるつもりはないのだけれど。
私は、やっとの思いで怒りを抑え咳払いをした。それが、体調が悪そうな人間に見えたのか彼らは少しだけ、ほんの少しだけ心配するような顔で私の顔を覗く。
「な、何?」
「ううん、本当は知ってたんだけど、からかいたくて」
「聖女さまが、殿下を救ったって。それで三日眠り続けていたって」
と、彼らは言う。まるで、自分たちが悪いとでも言うようなかおをしていたため、私は何故彼らがそんなかおをするのか分からず混乱した。
というか、彼らは私がどんな状態だったか知っていたのかとそっちも驚きである。
「体調は大丈夫なの?」
「大丈夫なの?」
珍しく、本当に心配しているかのような声だった。
普段、あんなことを言っているというのに、こういうときばかり本当に小さな子供なんて卑怯だと思った。だからといって、別に彼らに優しくされたいわけではないのだけれども。
私は素直じゃない性格のため、ついツンとした態度を取ってしまう。まあ、先ほど彼らがした嫌がらせの仕返しも込めてだが。
「順番が逆なのよ。まだ完全には復活してないし、魔力も戻ってきていない。でも、自分に出来ることは無いかなって殿下についてきて、それでアンタらの顔を見てやろうと思ったの」
だから、別に貴方たちに心配される筋合いはないのよと言えば、彼らはまた私をじっと見つめてきた。
その視線はなんだか嫌なものを感じさせてくるもので、居心地が悪くなる。少し言い過ぎた感はあるが。
「そっかまあ、生きてたんだし良いんじゃない?」
「そうそう、殿下も無事で聖女さまも無事なら」
「無事って、もうちょっと体調のこと気遣ってくれても良いんじゃない?」
「なんで?」
「なんで?」
と、首を傾げる双子にため息をつく。
彼らにとってはきっと私の身を案じるという感覚がないのだろう。むしろ、死んでくれた方が都合が良いと思っているのかもしれない。いや、さすがにそこまではないかと思いつつもからかいが度を過ぎて死んじゃってたかもね。なんて言われそうでハラハラしてしまう。
私が怒るのではなく、アルバが怒りそうで。
ちらりと後ろを見れば、ニコニコとしながら殺気立てているアルバがいて私は肩をふるわした。そんな私を気遣うように、グランツが大丈夫ですか? と声をかけてきたが、彼の声色からも、表情からも何を考えているのかさっぱり分からなかった。
そうこうしているうちに部屋の扉が開き、お茶とお菓子を持ってきたヒカリが帰ってきた。
「お待たせしました、お坊ちゃま聖女様方……うわっ」
慌てた様子で入ってきたヒカリは何もないところで躓き彼女が持っていたトレーは見事に宙を舞う。私は咄嗟にグランツに肩を抱かれて当たる範囲から抜けることができたが、飛んでいったお茶とお菓子は双子の方へ向かっていく。
「ルフレ下がって」
「るく……」
ルフレがルクスの名前を呼ぶよりも早く、ルクスの服に紅茶が直撃した。その後パラパラとお菓子は床に落ちる。
「おおおお、お坊ちゃま!」
ヒカリは顔を青ざめさせ慌てて駆け寄った。ルクスは、かなり顔を怒りで赤くしていたがルフレがそれを納めるように水の魔法を発動させていた。
幸い、ルクスが痛がっている様子はなくルフレの応急処置が早かったのだと、火傷せずに済んだのだと思った。だが、服の方は紅茶で茶色く染みている。
「ももも、申し訳ございません、お坊ちゃま!」
「……ヒカリ」
「は、ははは、はい」
頭を九十度以上下げたまま顔が上げられないヒカリにルクスは上から冷たい声で彼女の名を呼ぶ。
これは、まずいと。でも自分にはどうしようも出来そうに無いと、ヒカリと双子の行く末を見守るしかなかった。もしルフレがいなければルクスは火傷を負っていたかも知れないし、破片で怪我をしていたかも知れない。
よくて解雇か、首を切られるか……
最悪なことを考えていた私だったが、そんな私の考えとは反対に、彼はヒカリを睨むわけでも怒ることもなく、ただ静かに言った。
それは、まるで諭すような口調だったのだ。
ヒカリは、恐る恐ると顔を上げれば、ルクスは早くしろと命令するように顎をクイッと向ける。
「身体が冷える、お風呂、後新しい服、今すぐ準備しろ」
「は、は、はい、かしこまりました」
と、ヒカリは部屋を出ていくルクスを追って小走りで走って行く。
もっと、怒るだろうと思っていたが意外にも冷静な対応だったことに驚きつつ、私は安堵した。
「何、聖女様」
「ううん、もっと怒るかと思ってた」
「ルクスはヒカリに甘いところあるから」
そう、残されたルフレはため息をついた。そんな風には見えないけれどと思いつつ、私はルフレの行動を褒めることにした。
「でも、凄いね。魔法……臨機応変に動けて」
「当たり前じゃん、馬鹿にしてんの?」
「ううん、褒めてるの」
そういえば、ルフレは何それ。と顔をふいっと逸らしてしまう。でも彼の耳は赤くなっていた。照れているのだろう。
それから、ルクスが戻ってくるまでルフレと三日前に起ったことを話して、災厄が迫っているから伯爵と……と色々と話した。彼にここまで話していいのだろうかと思ったが、攻略キャラ。彼も何かしら手伝って貰えたらと思った。ただ、子供だしこういうのに巻き込むのは、とも思う。
そうしている内に、リースと伯爵の話が終わったのか、リースが部屋の外から私の名前を呼んだ。
「あれ、もう終わったの?」
「ああ、少し世間話もしたが、協力してくれるんだそうだ」
「そうなんだ。よかった」
と、私が言えば、リースはそうだな。と微笑んだ。
そうして、帰ろうかと私の手を引いたが、ルクスが戻って来ていないことを彼に伝える。
「時間がかかっているのだろう。お前が心配することではない」
「で、でも、いくら何でも遅いような……何だか、嫌な予感が」
そう私が言ったときだった。
大変ですと、廊下から叫ぶようなメイドの声が聞え、こちらに向かってヒカリではない別のメイドが走ってきた。
何事かと、私とリースが顔を向ければ、もっと深刻そうにルフレが顔を出した。メイドは息を切らしながら、顔を真っ青にして震える口を開いた。
「る、ルクス様が、攫われました」