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月詠 涼
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#大人恋愛
坂野真夢
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臣桜
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R社の中でも大きなイベントが終了して、二週間。
リュウジのコンペティションがついに明日に迫っていた。
火曜日の就業時。殆どのイベントや企画が落ち着いていた部署内は、5時過ぎにはもぬけの殻だった。水曜日の大きなコンペに出るリュウジだけが、忙しそうに机にかじりついていて、サンゴも彼の発表の最終チェックに付き合ってあげていた。
サンゴは、リュウジのために小さな会議室を借りて、プレゼン形式の練習を見ることにしていた。
「何もこんな前日に……」
「ごめん、遅くなって」
「やっても意味ないんじゃ……」
「意味あるよ!大丈夫。発表してみて」
リュウジはプレゼン用のパワーポイントに合わせて、資料を読み上げていた。その様子を、サンゴは一つ一つ、丁寧にチェックした。プレゼンやコンペでの要点をまとめたチェック表通りに、気になる点を洗っていった。
「ここの部分、もっと抑揚のある声でできないの?」
「はい!」
「こっちも、発音見直した方がわかりやすいかも!」
「確かに」
資料に全ての注意ポイントをメモをして二回目の際にしっかり訂正しながら、シミュレーションをした。
「もっと前々からやっておけばよかったですね……」
「とりあえず、今できることしよう!!」
「はい」
「今のとこね、100%リサイクルを100%の商品で叶えていくって、意味違うのに言葉一緒だから、ちょっと工夫必要だよね……」
「確かに……」
言い方や、言葉遣いだけで変わる部分について、しっかりと二人で対策ができて、最終的に、サンゴは納得がいく仕上がりになったと、胸を張って言えるまでになっていた。
「いいよ!すごく!明日、このまま最後の感じで行こう!」
本気で嬉しい気分でいたサンゴに対して、リュウジは不安そうな顔をしていた。
「今気づいたこと多すぎて……ちょっと頭混乱してます」
「大丈夫だよ!このスピーチ原稿にしっかりメモしたでしょ?」
「うーん……」
リュウジが思いのほか、青ざめている様子を見て、サンゴは彼の気持ちをほぐしてあげたくて、明るく声をかけまくった。
「本当にすごくよかったよ!!絶対大丈夫だよ!」
「うーーーん……」
不安そうに俯いている細い目や、白い頬が可愛らしくて、サンゴは思わず手を伸ばしてしまう。ふと、指の甲でヨシヨシ、となだめるようにリュウジの頬を撫でていた。
「全然心配ないよ」
すると、ふと、彼は自分の頬を撫でているサンゴの手を握りしめた。
「先輩、俺に触りすぎ」
「ご、ごめんね……また」
(やっちゃってた!!!)
とサンゴが手を引こうとしても、リュウジはその手を強く掴んでいた。リュウジがこちらを見て首をかしげている。
「一応、ちゃんと聞いておきますけど、サン先輩って、俺に触るの気持ち悪くないんですか?」
「気持ち悪いわけないでしょ。可愛いんだから。もしかして、リュウきゅんが私に触られるの気持ち悪かった?……ほんとごめ……」
「気持ち悪いわけない」
座っていたはずの彼は手を強く握ったまま、こちらに近づいてきた。その表情が、キリッとしていて、瞳も鋭くてドギマギしてしまう。
「ど、どしたの……?」
「先輩。俺、それでもやっぱりまだ、明日のこと心配なんですよ……」
切れ味のある表情なのに、彼の声はまた気弱そうなか細い音に変わっていた。
「そ、そう……だよね」
「だから、先輩が勇気ください」
リュウジの言葉が可愛すぎて、サンゴは思わず目を輝かせて、彼の方を見上げてしまう。
「ええ!?もちろん!任せて!私にできるとならなんでも!」
サンゴの明るい声に、彼の鷹のような目が迫ってくる。
その瞬間ーー
ちゅっ
「!!!???」
リュウジの唇が自分の唇に触れて、サンゴは目を開いたまま身体が固まった。
急に胸が早鐘を打ち始める。
温かくて、柔らかい唇は、ふわふわですべらかだった。
身体中の血液が、つま先から頭のてっぺんまで駆け上がっていくように騒ぎ出していた。
彼の唇は、そのままそっとゆっくり離れた。
少し触れていただけなのに、衝撃的すぎて、サンゴはパニックのまま硬直していた。
「ありがとうございます。これで明日、頑張れます」
リュウジは満面の笑みで、サンゴを見つめていた。その時には、すでに愛らしくて可愛いいつものリュウくんに戻っていた。
(何!?なになに!?)
リュウジはサンゴの肩を掴んでゆっくりと立ち上がらせて、会議室の鍵や資料を手に持った。そして、サンゴの背中を優しく押して、廊下へ出て会議室の扉を閉めた。
「帰りましょ〜」
「え?……ああ、うん」
驚いたまま戸惑っているサンゴは、まだ放心状態だった。リュウジはぼんやりしたサンゴの身体を運び、彼女へ上着を差し出し、カバンも持たせて、自分でも帰る身支度をさっとすませた。
1階の裏口へ出て、管理室に鍵を返した彼は、そのままサンゴの隣へ来て歩き出した。
「明日、14時からY町駅ですね」
「そだね」
(あれ……?さっき……私、キスされたよね?)
「なぜか同期とか、ハチミツ先輩とか、部長とかも来てくれるらしくて……さっきメッセージ来てて驚きました」
「ハチミツ先輩って……?」
「八村先輩と峰津先輩のコンビ名ですよ……」
「ああ、そーなん……だ。って……コンビ名って……」
(なんでだろう?リュウくん、いつも通りすぎる……)
「俺の同期たちだけじゃなくて、他の先輩たちからも呼ばれてますよ?どう見てもコンビなんで」
「ははは」
(さっきのキスって、私の勘違いだった?なんか?どういうこと?)
いつもの帰り道。サンゴは混乱したままで、狐に摘まれたような気分でぼんやりと歩いていた。そのまま、気づかないうちに、リュウジはだいぶ前の方へ遠ざかっていった。彼はふと足を止めて、サンゴの方を振り返った。
「サン先輩!大丈夫?」
「え?」
「そのままだと置いてっちゃうよ」
「ああ」
頭の中がモヤモヤする。
(さっきのこと、聞いてみたらカッコ悪いかな?なんだろう、ああいうことって普通に大人の男女には、よくあることなの?私が考えすぎ?)
頭が追いつかないまま、駅までついてしまった。そして、結局、何も聞き出せないまま。その日は、何食わぬ顔の彼を見つめたまま、電車に揺られて家まで帰ったのだった。
コメント
1件
泉屋乃苺さん、第7話読ませていただきました! コンペ前のピリッとした空気の中で、リュウくんがああいう形で勇気をもらうシーン、すごく胸にきました…!サンゴがパニックになりつつも、リュウくんはいつも通りなのがもう、なんだか切なくて可愛くて。触った後の彼の真剣な目と、その後のケロッとした態度のギャップにやられました。大人の関係って難しいですね…。続きが気になります!