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#大人恋愛
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早朝の準備段階からついていく予定が、発表者以外は、開場後に観客席にしか入れないという決まりになっていた。リハーサルやお手伝いにもついていけなそうで、心配でしょうがなかった。
けれど、サンゴは蘭と連絡をとって、一度会社で合流してから八村と三人でY町駅のホールへ向かうことにした。
「二人とも、急ぎのお仕事とかなかった?大丈夫?」
サンゴが八村と蘭の方を見ると、二人はにっこり笑顔で返してくれた。
「しばらく落ち着いてるし、色々協賛企業とも交流できるし、ありがたいよ」
「俺も名刺大量に持ってきたし」
頼もしい二人の声に、サンゴはホッとしていた。
「あかりも見たがってたよー」
「だよね。ふふふ」
ふわっとゆるんだ表情を見て、蘭は眉を上げて、サンゴの腕を掴んだ。
「っていうかさ、サンゴも一緒に発表するんだとばかり思ってたよ?」
「そう?」
八村も、興味津々といった表情でこちらを見ていた。
「あのリサイクルの話って、有村がよく言ってたことの延長みたいな話じゃん?」
「そう、ずっと、サンゴがやりたいって言ってたことそのまんまな気がして……」
二人は何かを心配しているようだった。
「そう!私がやりたかったことなんだけどね。ずっと、経済的にも、時間的にも、方法も無理だろうなって諦めてたの。そしたら、リュウきゅんの企画書は、さらに上回る形のリサイクルな上に、なんと実現できそうな予算計画や実行計画まで明確にしてくれたすごい企画なの!!!」
「ええ?そうだったの?」
「本当に嬉しくて!実現したいと思って、部長と話してコンペに出てもらうことにして……」
「まあ、サンゴが良かったならいいけど……」
「もちろん!!」
そんな話をしながら、コンペティション会場へ足を踏み入れた。八村がいう通り、本当に多くの商品メーカーの人たちがいて、名刺交換や意見交換などがされていた。発表は、それぞれたった10分以内で、25社が企画発表をすることになっていた。
午前から午後にかけての発表が終わると同時に、全ての審査が終了し、夕方には賞が発表されるという仕組みになっていて、観客もそれぞれが投票できるシステムになっていた。
会場にはすでに多くの人が集まっていて、後輩たちも三人ほど集まっていた。
午前の部が終わり、午後三つ目の時間に。
「次、リュウきゅんだね!」
舞台が暗転すると、リュウジが壇上に現れた。
大きな拍手の中、リュウジはゆっくりと客席を見渡し、深々と頭を下げた。顔を上げたときには、もう迷いの色はどこにもなかった。
「皆様こんにちわ。R社の伊藤です」
いつもの少し高めで可愛らしい声ではなかった。
会場の隅々まで響き渡るような、どこまでも澄んでいて、落ち着いた美しい声。 その響きに、サンゴは思わず息を呑み、はっと顔を上げた。
リュウジの瞳は、こちらを捉えたような気がした。彼はサンゴを見て僅かに頷くと、今度は上を見上げた。その瞳も、表情もライトでキラキラと輝いて見えた。
「まずはじめに。弊社では、全ての容器の100%のリサイクルを目指していることをここに宣言致します」
一瞬、会場が静まり返る。
その直後、
「わあ!!」
「おお……!」
一気に、熱を帯びた歓声が湧き上がる。
昨日まで、言葉に詰まったり、「心配です」と怯えていたのは、本当にこの人だったのだろうか。 リュウジはその反応を真正面から受け止めるように、壇上でまっすぐ背筋を伸ばしていた。
「そのために、現状の弊社の環境問題への取り組みと、大企業でなされている現在の取り組み、さらに、より実現可能で具体的なアプローチについてを、今日ここでお話ししたいと思います」
リュウジは手元の資料に一度だけ目を落とすと、すぐに顔を上げた。客席の一人ひとりに言葉を届けるように、ゆっくりと視線を巡らせる。その目には、いつものふわふわした笑顔からは想像もつかない強さがあった。
派手さのある内容だけではなく、綿密に作り上げられた計画も拍手を受けていたが、それを説明する彼にはとんでもない求心力があった。いつもの可愛いギャル感とは違うけれど、リュウジの愛らしい笑顔やイケボが、思っていた以上に会場の空気を掻っ攫っていた。
「リュウきゅん、プレゼン慣れしてる……!!活き活きした表情も、キラキラ感もいつも以上ね」
「あいつのいつものかわいさが、すごいいい意味で華になってる……やばいな」
八村と蘭は嬉しそうに資料をめくりながら話を聞いていた。その逞しい様子や慣れたような身振り、手振りを見ていると、サンゴは不思議な気分になってきた。
(凄い、どうしよう、かっこよすぎる。……あんなに心配してたのに。真っ青になってた昨日までのリュウくんは一体どこへ……?)
まるで別人のような彼の姿を見ていると、説明の流れが大丈夫かどうかとか、あのアクセントしっかり、みたいな心配はすっかりどこかへ飛んでいってしまった。
サンゴが感動しながら聴き入っていると、終わりの方に彼はとんでもない話をし始めた。それは、今までの発表や、資料には全く書いていない話だった。
「この容器リサイクルの原案は、弊社の有村サンゴ先輩によるものです。100%のリサイクルが、彼女の長年の熱意と理想であり、ずっとイベントでも議題として取り上げられてきました。弊社のホームページ上には、その有村サンゴ先輩がまとめあげた、エコにまつわる取り組みについての分かりやすいページがあるので、ぜひ皆様も参考にされてみてください」
そういうと、彼は大きなお辞儀をして、スピーチを終えた。
会場は大きな拍手や歓声に包まれた。
隣で、蘭や八村も、拍手をしながら笑顔でこちらを見つめてくれていた。
サンゴは、何だか恥ずかしいような気持ちや、私のことなんかで時間をとってしまって良かったのかと思いつつも……やっぱり嬉しかった。
(私の活動を、リュウくんは見てきてくれたんだな)
そう思うだけでも、本当に胸が熱く震えるような気持ちや、色々な思いで、涙まで溢れてきそうだった。
(本当にすごい人だ……)
コメント
1件
お疲れさまです、読ませていただきました! リュウジくんの本番のプレゼン、本当にすごかったですね……!いつもの可愛い声とは違う凛とした響きに、サンゴさんと同じで私も息を呑みました。あれだけ心配してた人が舞台で別人みたいに輝く瞬間、すごく胸が熱くなりました。最後にサンゴさんの活動をきちんと原案として紹介したのも、ちゃんとリュウくんが見てきてくれたんだなって伝わってきて、ぐっときました🌷