テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#BL
さんちゃん
1,794
かんな
1,352
2,548
大学のゼミ生で行われた、ささやかな親睦会。居酒屋の喧騒の中、涼宮 凛(すずみや りん)はいつも通りの涼しい顔で、お茶のグラスを傾けていた。サラサラとした黒髪に、シワ一つない清潔なシャツ。物静かで、誰に対しても丁寧だが一線を画すその佇まいは、ヤンキー風とは対極にある、育ちの良さと知性を感じさせる。
「涼宮って本当に崩れないよな。お酒も飲まないし、いつも完璧」
周囲のそんな声を、神崎(かんざき)は少し離れた席からじっと見つめていた。ゼミの成績を競い合うライバルであり、同時に同じアパートの隣人。普段なら神崎もエリートとしての完璧な仮面を被っているはずだった。
しかし、今日の間はどこかおかしかった。
「……っ、ふ、……」
凛が小さく吐息を漏らし、自らの胸元をぎゅっと押さえる。お酒は一滴も飲んでいないはずなのに、その白い肌はほんのりと赤みを帯び、瞳は潤んでトロンと熱を帯びていた。
(……まさか、ヒートか?)
オメガバースの世界において、彼がΩであることを隠しているのは、神崎だけが気づいていた秘密だった。いつもなら完璧にコントロールしているはずの抑制剤が、何らかの理由で効いていないのだ。
凛が限界を察したように、ふらりと席を立った。神崎もまた、周囲に「あいつ、体調悪そうだから見てくる」とだけ告げ、すぐに後を追った。
居酒屋の裏口。夜風に当たりながら、凛は壁に背を預けて荒い息を繰り返していた。
「涼宮、大丈夫か」
「かん、ざき、くん……」
見上げる凛の瞳は、強烈な熱に浮かされていた。その身体から、普段は徹底的に遮断されている、甘く熟したような極上のフェロモンが微かに漏れ出している。
神崎の身体の奥で、αとしての本能がドクンと跳ねた。強烈な性欲と独占欲が鎌首をもたげる。だが、神崎は必死に理性を繋ぎ止めた。ここで手を出したら、プライドの高い彼を傷つける。大事にしなければならない。
「俺の部屋に戻るぞ。外じゃすぐに他のαに気づかれる」
神崎は凛の華奢な肩を抱き寄せ、タクシーに押し込んでアパートへと連れ帰った。
自分の部屋のベッドへ凛を横たえると、甘い香りはさらに部屋中に充満していく。神崎の頭の芯が痺れていくようだった。
「一刻も早く、冷たい水と、予備の抑制剤を……」
そう思って神崎がベッドから離れようとした、その時だった。
震える指先が、神崎のシャツの袖を強く、必死に掴んだ。
「待って……行かないでくれ……」
「涼宮? 水を持ってくるだけだ。すぐ戻るから」
「いいから……お願いだ、神崎くん……寂しい、熱いんだ……っ」
普段の理知的な面影はどこへやら、凛は涙を浮かべた瞳で神崎を真っ直ぐに見つめていた。
なりふり構わず、おねだりするようにすり寄ってくるその姿。完璧だった優等生が、自分だけに弱みを見せ、身体を開くようにして縋り付いてきている。
「……お前がそんな顔で誘うのが悪いんだからな」
プチリ、と神崎の中で張り詰めていた理性の糸が切れた。
「大切にしたい」という自制心は、凛の無自覚な甘えによって一瞬で消し飛んだ。神崎の眼差しが、静かな紳士から、獲物を狙う肉食獣のそれへと豹変する。
「あ、……っ、神崎、く……」
驚きに目を見開く凛をベッドに押し倒し、神崎はその唇を強引に塞いだ。
一度決壊したエリートの独占欲は、もう誰にも、本人にすら止められなかった。
コメント
1件
わあ、第1話からすごくドキドキしました……! 普段クールで完璧な涼宮くんが、ヒートで弱って縋りつくギャップがもう、たまらなかったです。「行かないでくれ」ってあの口調で言われるの、神崎くんじゃなくても理性飛びますよね。神崎くんが「卵を大事に扱うように」って自制しようとしてたのに、最後は豹変してしまう展開、二人の関係性がこれからどう転んでいくのか続きが気になりすぎます。抑制剤、ちゃんと効くのかな……?