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昼休みのチャイムが鳴った。
教室の空気が一気にゆるむ。
「昼だー!」
「購買行こうぜ!」
あちこちで声が上がり、椅子を引く音が響いた。
いるまは静かにノートを閉じる。
そのとき、前の席からひょこっと顔が出た。
「いるま!」
らんだった。
「行くぞ。」
「……どこ。」
いるまが聞くと、らんはにっと笑う。
「屋上。」
「なんで。」
「勉強。」
いるまは少し目を細めた。
「ほんとにやるのかよ。」
「やるやる!」
らんは鞄を持って立ち上がる。
「数学マジでやばいんだって。」
その言い方があまりに軽くて、いるまは小さくため息をついた。
「……はぁ。」
でも結局、自分も立ち上がる。
二人は教室を出て階段を上った。
屋上のドアを開ける。
ガチャ。
外の風がふわっと流れ込んできた。
空はきれいに晴れている。
フェンスの近くに座ると、らんが鞄を開けた。
「よし!」
そう言って取り出したのは数学のプリント。
いるまはそれをちらっと見る。
そしてすぐ眉をひそめた。
「……お前これ。」
「ん?」
「ほとんど空白じゃねぇか。」
らんは少し笑った。
「バレた?」
「バレるだろ。」
いるまは呆れた顔になる。
「どこ分かんねぇんだよ。」
らんは少し考える。
そして普通に言った。
「全部。」
「……」
一瞬、沈黙。
風が吹く。
フェンスがカタンと揺れた。
「帰れ。」
いるまが言う。
「ひど!」
らんが笑う。
「ちょっとぐらい教えてくれてもいいじゃん。」
いるまはプリントを手に取った。
軽く目を通す。
そしてペンで問題を指した。
「まずここ。」
「お。」
「この式、分解する。」
「分解?」
「そう。」
いるまはノートに式を書き始めた。
「この数字とこの数字を掛けるとここになるだろ。」
らんはノートをのぞき込む。
「うん。」
「だからこうなる。」
カツ、カツ。
ペンの音だけが少し響く。
数秒後。
「……なるほど。」
らんが言う。
でもすぐ首をかしげた。
「いや待って。」
「なんだよ。」
「最初からもう一回。」
いるまは顔をしかめた。
「早すぎ。」
「お前が理解遅いだけだろ。」
「ひどくない?」
らんは笑っている。
いるまはため息をついた。
でももう一度説明する。
「ここな。」
「うん。」
「この数字を——」
数分後。
らんはノートを見つめていた。
そして言う。
「……分からん。」
「お前さぁ!」
思わず声が出る。
らんは笑った。
「いやでもさ、さっきよりちょっと分かった気がする。」
「気がするだけだろ。」
「それ大事。」
らんはそう言って笑う。
そのとき。
スマホが震えた。
「お。」
らんが画面を見る。
「みことだ。」
その名前に、いるまは少しだけ耳を向けた。
らんは電話に出る。
「もしもし?」
少し話す。
「うん、今屋上。」
そして普通に言った。
「いるまと一緒。」
いるまは小さく眉をひそめる。
(また俺の話か。)
電話の向こうで何か言われたらしい。
らんが笑う。
「それ言う?」
少しして電話が終わった。
スマホをしまう。
すると、いるまが聞く。
「……なんて言ってた。」
らんは少し笑った。
「みことがさ。」
「?」
「その子、優しそうって。」
いるまは少し黙った。
会ったこともないのに。
そんなことを言われる理由が分からない。
「……適当だろ。」
小さくつぶやく。
らんは首を振った。
「みこと、人見るのうまいんだよ。」
それから少しだけ笑う。
「いつか会わせたいな。」
その言葉に、いるまは目を細めた。
「……別にいい。」
そっけなく答える。
でも。
屋上の風の中で。
二人の時間は、少しずつ増えていた。
まだ小さいけど。
確実に。
いるまの閉じていた心の扉が、
少しずつ動き始めていた。