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昼休み。
いつものように、らんといるまは屋上に来ていた。
フェンスの近くに座り、ノートを広げる。
風がゆっくり吹いていた。
「……ここさ。」
らんが空を見ながら言う。
「ん?」
「落ち着くよな。」
いるまは少しだけ空を見上げる。
青い空。
流れる雲。
遠くからグラウンドの声が聞こえる。
「……まあな。」
短く答える。
すると、らんがプリントを差し出してきた。
「はい先生。」
「誰が先生だ。」
「数学の先生。」
「違う。」
いるまはため息をつく。
でもプリントは受け取った。
「どこだ。」
「ここ。」
らんが問題を指さす。
「この式まじで分からん。」
いるまは少し見て、すぐ答える。
「ここ分解。」
「またそれ。」
「基本だろ。」
いるまはペンでノートに書き始めた。
「この数字とこの数字をかけるとここになる。」
「うん。」
「だからこうなる。」
らんは真剣にノートを見ていた。
数秒後。
「……あ。」
「分かったか。」
「ちょっと分かった。」
「ちょっとかよ。」
二人の間に小さな笑いが生まれる。
風がまた吹いた。
そのとき。
らんはふと気づいた。
いるまの手だった。
ノートを押さえている手首。
袖が少しだけずれていた。
そこに——
うすい色のあざが見えた。
らんは一瞬、言葉を止めた。
(……あれ?)
じっと見る。
でも、いるまは気づいていない。
普通にノートを書いている。
らんは少し考えた。
それから、できるだけ普通に聞く。
「いるま。」
「なんだよ。」
「寝てないだろ。」
突然の言葉。
いるまは少し眉をひそめた。
「……またそれか。」
「クマあるし。」
「関係ねぇだろ。」
いるまはそっけなく答える。
らんは少しだけ黙った。
そしてまた手を見る。
(さっきの……)
気になる。
でも、すぐ聞くのも変な気がした。
だから話を変える。
「昨日さ。」
「?」
「みことと電話した。」
「ふーん。」
いるまは興味なさそうに言う。
「お前の話してた。」
その瞬間。
いるまが少し顔をしかめる。
「……なんでだよ。」
「別にいいだろ。」
らんは笑う。
「みこと、お前に会ってみたいって。」
「会わねぇ。」
即答だった。
らんは苦笑する。
「そんな拒否る?」
「めんどくさい。」
いるまはそう言ってノートを閉じた。
「もういいだろ。」
「え、もう終わり?」
「昼休み終わる。」
ちょうどチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン。
らんはノートをしまう。
二人で立ち上がった。
屋上のドアに向かう。
そのとき。
風が吹いた。
いるまの袖がまた少しめくれる。
今度ははっきり見えた。
手首のあざ。
さっきより濃く見える。
らんの足が止まった。
「……いるま。」
呼ぶ。
でも、いるまは気づかず歩いている。
らんは小さくつぶやいた。
「それ……どうした?」
その声に。
いるまの足が止まった。
静かな屋上。
風だけが吹いていた。
屋上に、風が吹いていた。
らんの言葉に、いるまの足が止まる。
「それ……どうした?」
その声は、さっきまでより少しだけ真剣だった。
いるまはゆっくり振り返る。
「……何が。」
「手。」
らんが指さした。
いるまの手首。
そこには、はっきりと残るあざがあった。
さっき袖で隠れていた部分だ。
いるまは一瞬だけ視線を落とす。
そしてすぐに言った。
「……別に。」
そっけない声。
らんは眉をひそめる。
「別にって。」
「転んだだけ。」
すぐ返ってきた答え。
でも——
らんは納得しなかった。
さっき見えたあざは、そんな簡単なものには見えなかった。
形も、色も。
「……ほんとか?」
いるまは少しイラついたように言う。
「なんだよ。」
「別にいいだろ。」
そう言って歩き出そうとする。
でも、らんは動かなかった。
「いるま。」
少し強い声だった。
いるまが振り向く。
「見せろよ。」
空気が少し変わる。
いるまの表情が固まった。
「……は?」
「ちゃんと見せろ。」
「なんで。」
「心配だからだよ。」
その言葉に、いるまの眉が寄る。
「余計なお世話。」
そう言って、袖を引っ張る。
隠そうとした。
でも——
らんは一歩近づいた。
「いるま。」
「……」
「見せろって。」
少し強い声。
いるまは一歩下がる。
「やめろ。」
「なんでだよ。」
「……いいから。」
声が少し低くなる。
いつものツンとした言い方じゃない。
どこか、焦っているようだった。
らんはその違和感に気づく。
そして、さらに近づいた。
「いるま。」
手をつかむ。
その瞬間。
いるまが強く振りほどこうとした。
「触んな!」
珍しく大きい声だった。
屋上に響く。
二人とも一瞬止まる。
風だけが吹いていた。
いるまは少し息を荒くしている。
「……離せ。」
低い声。
でも、らんは手を離さなかった。
ゆっくり袖を見る。
少しずつ上がってしまう。
「……いるま。」
そこには——
さっきより濃いあざがあった。
一つじゃない。
いくつも重なっている。
らんの表情が変わった。
「これ……」
言葉が出ない。
いるまは視線をそらす。
「……転んだ。」
小さく言った。
でも。
らんはその腕を見ていた。
明らかにおかしい。
一つじゃない。
何度もできたようなあざ。
「……嘘だろ。」
小さくつぶやく。
いるまは何も言わない。
らんは少し震える声で言った。
「反対も見せろ。」
「……やめろ。」
「見せろ!」
思わず声が大きくなる。
その勢いで、少しだけ制服がずれた。
その瞬間。
らんの目に入った。
腕。
肩。
そこにも、同じようなあざがあった。
色の違うものもある。
新しいもの。
少し前のもの。
それが、いくつも。
らんの頭が一瞬真っ白になった。
「……おい。」
声が低くなる。
「これ……誰がやった。」
いるまは黙ったまま。
「いるま。」
「……」
「誰がやったんだよ!!」
屋上に怒鳴り声が響いた。
風が強く吹く。
フェンスが揺れた。
でも——
いるまは答えない。
ただ、下を向いている。
「答えろよ!!」
らんの声が震える。
怒りと、驚きと、心配が混ざっていた。
「こんなの……普通じゃねぇだろ!!」
いるまは拳を握る。
でも何も言わない。
沈黙。
長い沈黙。
やっと、いるまが口を開いた。
「……関係ねぇだろ。」
小さな声だった。
らんは目を見開く。
「は?」
「らんには関係ない。」
その言葉に。
らんの胸が強く痛んだ。
「関係あるだろ!!」
思わず言う。
「友だちだろ!!」
いるまは少しだけ顔を上げた。
でも、目は合わせない。
「……違う。」
小さく言う。
「友だちとか……」
そこで言葉を止める。
そして、らんの手を振り払った。
「もういいだろ。」
低い声。
そのままドアの方へ歩く。
らんは動けなかった。
頭が追いつかない。
あのあざ。
あの数。
何が起きているのか。
「……いるま。」
呼ぶ。
でも。
いるまは振り向かなかった。
屋上のドアを開ける。
ガチャ。
そして、そのまま出ていった。
屋上には、らんだけが残った。
風が強く吹く。
らんは拳を握る。
「……なんだよ。」
小さくつぶやく。
怒りで、手が震えていた。
「誰だよ……」
答えはない。
でも、心の奥で思った。
絶対に。
このままにはしない。