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「……ねえ、健斗。見て、今日の売上も最高よ」
豪華なタワーマンションの一室。
窓の外には宝石を撒き散らしたような夜景が広がっている。
派遣切りを宣告されていたあの頃の私はもうどこにもいない。
SNSで「幸運を呼ぶカリスマ」として崇められ、手元には使い切れないほどの富が転がり込んできた。
部屋の中央には、かつての人形とは比べ物にならないほど巨大化した「肉の塊」が鎮座している。
その顔は、あの日壁に吸い込まれた健斗そのものだ。
「……ミ……ヅ、キ……」
人形の口から、湿った声が漏れる。
それは健斗の声そのものだったが、感情は一切こもっていない。
ただの再生機のように、私の名前を繰り返す。
(……大丈夫。私は、何も失っていない)
私は自分に言い聞かせた。
でも、最近異変が起きている。
どれだけ高級な美容液を塗っても
私の肌が、少しずつ「陶器」のように白く
硬くなってきているのだ。
指先を動かすたびに、ギチギチと、関節が軋む嫌な音がする。
「……あ」
手鏡を覗き込んだ私は、悲鳴を上げそうになった。
私の右目の白目が、人形と同じように真っ赤に充染し、細い血管がドクドクと波打っている。
その時、スマホが震えた。
あのSNSのアカウントから、最後の一通。
『おめでとうございます。配当の最終段階です。』
『身代わりは、使い果たしました。』
『……次は、あなたが誰かの“身代わり”になる番です。』
「……え?」
その瞬間、部屋のドアが激しく叩かれた。
入ってきたのは、血眼になった見知らぬ女だった。
その手には、私があのアカウントから譲り受けたのと全く同じ「市松人形」が握られている。
「……見つけた。あんたが、私の『身代わり』ね?」
女が狂ったように笑いながら、自分の喉元にナイフを突き立てた。
「死にたくない! 誰か、代わりになってよ!」
女が自分を深く切り裂いた瞬間。
私の体に、逃げ場のない衝撃が走った。
「がはっ……!」
私の喉から、ドロリとした鮮血が溢れ出す。
女は無傷のまま、驚喜の声を上げて立ち去っていく。
私は崩れ落ち、這いつくばって健斗の顔をした人形に縋り付いた。
「助けて……健斗、助けて……っ!」
人形は、ゆっくりと私の顔を覗き込んだ。
そして、あの日、私が彼に見せたのと全く同じ、冷酷で歪んだ笑みを浮かべていた。
私の意識が遠のいていく。
最後に視界に入ったのは、私の体が
ゆっくりと小さな「人形」のサイズへと縮んでいく光景だった。
次に誰かがこの部屋のチャイムを鳴らす時。
私は、新しい「幸運のモニター」のバッグの中で、真っ赤な目を光らせていることだろう。
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えれめんたる