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広いリハーサル室には、俺らの音楽と6つの足音がうるさいくらいに響く。
それをしっかり聴いているつもりなのに、さっきから身体はついてこない。
遅れてるな、というのは感じていた。
歌のパートが終わり、間奏に入る。ここではみんなでポジション移動をする、はずなんだけど。
ドン、と誰かにぶつかった。
「うあっごめん!」
それは北斗だった。
「マジでごめん、俺よそ見してた。怪我してない? 大丈夫?」
そう心配してくる北斗だけど、ミスしたのはこっちのほう。
「違う、俺のせいだから」
そんなことない、と大我が入ってくる。
「そうやって自分のせいにするのダメだって言ったでしょ?」
大我にとがめられる。でもこれは本当にメンバーの責任じゃない。俺の出来なさ。
俺には小さい頃から、「発達性協調運動障害」というのがある。不器用で、運動が苦手。でも俺の場合は今こうしてダンスもやっている。だから軽いほうではある。
だけど、それのせいでみんなのパフォーマンスのレベルを下げているんじゃないか、というのは俺の永遠の不安。みんなには絶対言えないけど。
だってそんなこと言ったら、あいつら全員で全否定してくるから。それは嫌なことじゃないけど、申し訳ない。
みんなより出来ないことが、悔しくて申し訳ないんだ。
しかもこれからはライブが始まる。今日はその練習。
今までは何とかこなしてきたけど、いつ何が起こるかはわからない。俺の不器用さでそんなことに5人を巻き込みたくない、というのが一応の最年長としての思い。
「あっ、靴紐ほどけてんじゃん」
樹が言って俺の足もとにしゃがみ込んだ。いつの間にやらほどけていたようだ。
そう、靴紐を結ぶのも俺の苦手分野。だからみんなに頼りっぱなしだ。
「高地、まさかこれでコケかけたんじゃないの?」とジェシーは笑う。
「違うって」と意地を張る。
出来た、と樹が立ち上がる。俺がやったら2、3分はかかる作業を数秒で済ませてしまう。
「そんな悲しそうな顔すんなって」
顔を上げれば、眉をひそめた慎太郎。てっきり苦笑いでもされてるのかと思った。
「別に俺らは高地のサポートすることを苦だと思ってないし。それは結成したときに約束しただろ? どんなことがあっても支えるって」
グループを結成するときに、それまでは言っていなかった俺の特徴のことを告白した。
「そんなやついらない」と言われるかも、と怖かったけど、みんなは今までと同じように笑って俺を輪に入れてくれた。いつもみたいにイジってくれた。不器用さも苦手なことも、楽しい笑いにして。
慎太郎は俺を見たまま続ける。
「俺ら、メンバーだからそんなの当たり前だろ?」
でも、これ以上頼ったらきっと迷惑になる。みんなだって忙しいし、俺にわざわざ構っていたら時間なんてなくなる。
そんな心の内を見透かしたように、北斗が口を開く。
「いつになったら全部託してくれんだよ。いつになったら、もっと気軽に頼ってくれんだよ。俺らは高地を信頼してるの。だからお前も俺らを信頼してほしい」
してるよ、と口を動かしたが声に張りがない。
後ろめたさが心にはあった。
みんなはどうやら諦めたのか、静かになる。
「…ライブ、頑張ろうな」
そう言ったジェシーの声は、少し寂しげだった。
続く