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北校舎の廊下を駆け抜ける。
汗が額を流れ、呼吸が荒くなる。
それでも僕は、ひたすら教室を探し続けた。
ようやく辿り着いたのは、調理準備室だった。
扉をそっと開けると、そこには――小野さんの姿があった。
「小野さん!」
思わず声が出る。そしてもう一人、誰かが床に倒れている。
「……羽田?」
驚きに足が止まる。制服の袖が真っ赤に染まり、左腕を抑えている彼に駆け寄った。
その顔は青白く、痛みにゆがんでいる。
「どうしたんだ、その傷――」
僕の問いに、羽田は歯を食いしばりながら震える声で言った。
「太一……逃げろ。この学校には……ゾンビなんてレベルじゃねぇ、化け物がいる。……そいつは透明になって……気づいたときには、左腕を噛まれてた……何とか、ここまで逃げたけど……もし隣の調理室に入ったら……最期だぞ……誰か……そいつを……倒してくれ……」
言葉が途切れがちで、呼吸も浅い。
その姿に、小野さんが冷静な声で言った。
「無理して話さないでください。まだ出血が止まっていません。……太一さん、ハンカチを持っていますか?」
僕は慌ててポケットからハンカチを取り出し、小野さんに手渡した。
彼女はすぐさま傷口を押さえ、圧迫止血を始める。まるで医者のような手際だった。
やがて羽田の容態が少し落ち着いたところで、僕たちは彼を安全な場所へと運ぶことにした。
選んだのは、校内で比較的守りやすい放送室だった。
彼を横たえたそのとき、ポケットの通信機が震えた。
「太一、小野さんは見つかったか?」
井上の声だ。
僕が見つけたことを告げると、彼は明るい声で続けた。
「やっぱり太ちゃんは格が違うな。……あ、光世も避難してたのか。今は怪我してるから休んでるんだな? それよりさっき、制御室のシャッターモードを解除したんだ。これで3階にも行けるぞ!」
その声に少しだけ安堵しながら、小野さんが言った。
「羽田さんが目を覚ましたら、私も探索に加わります。……太一さん、くれぐれも油断なさらないでくださいね」
頷いた僕の胸中には、不安が渦巻いていた。
――透明になる? 噛む? 化け物?
人間だけじゃない。生き物までもが、狂っていくのか?
そんな疑問に答えは出ない。けれど、立ち止まってもいられない。
僕たちはもう、命を懸けて戦っているんだ。
化け物だろうが、敵なら倒すしかない。
気づけば、手にはハンドガン。
調理室へと続くドアの前に立っていた。
「行くしかない――!」
扉を開けた。しかし、そこには誰もいない。
「……いない?」
拍子抜けしたその瞬間だった。
背後に気配を感じて振り返る――
そこに立っていたのは、まさに“化け物”だった。
即座に銃を構え、引き金を引いた。
乾いた音とともに、化け物の姿がかき消える。
羽田の言っていた通りだ。
しかし次の瞬間、背後から襲い掛かる気配。
「――ッ!」
とっさに飛び退き、なんとかかわした。もし反応が一瞬でも遅れていたら、僕は――もう、ここにはいなかった。
「おい、化け物!」
怒りが爆発する。
「よくも、僕たちの街を……学校を、地獄にしやがって! 絶対に許さねぇ!」
叫びながら、再び銃を構える。
必死で撃ち続ける。粘る、粘る、粘り続ける。
だが――弾が切れた。
「くそっ……!」
その瞬間、「ドン!」と何かが勢いよく開く音が響いた。
振り返ると、そこには――
「羽田……!?」
立っていたのは、ついさっきまで動けなかったはずの羽田だった。
その顔は決意に満ちている。
「逃げろ、太一。……この化け物は、俺が倒す」
「なに言って……!」
「俺は、もうすぐ死ぬかもしれない。……だからお前は、生きろ。生きて、生きて……生きまくれ!」
羽田の声は焦っていたが、確かな覚悟があった。
僕は拳を握りしめ、怒鳴った。
「――当然だろ!」
調理室の出口の扉を開け、放送室へと走った。
そして――僕が辿り着いた瞬間。
校舎全体を揺るがすような爆発音が、響き渡った。
立ち止まる。
すべてを理解した瞬間――
僕の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
To be continued