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Side赤
やっと戻ってきた。
6人が揃った楽屋、それぞれの楽しそうな笑い声で溢れる場所。
少し静養のために入院したけど、すぐに退院できた北斗。良かった、の一言に尽きる。
今日は復帰後初の番組収録だ。
きちんと世間に公表もして、北斗自身は落ち着いて目のことを受け入れられているようだ。
でもそれに付いていけないのが、俺ら。
北斗の視界がどうなっているのか想像することしかできないし、何をしてやればいいかもわからない。
それでも「いつも通りでいいんだよ」と北斗は笑った。
ただ、いつもと違うことと言えば。
「なあ、今日の衣装って何色?」
こう北斗が訊くようになったこと。それもそうだ、色が見えないから。
「北斗のはねえ、上着とズボンが黒で、シャツが白だよ」
高地が答える。
「じゃあ見たまんまだね。良かった」
きっとそれはスタイリストさんの計らいだ。黒と白なら、モノクロでも変わらない。
「カッコいいよ」
慎太郎がニコリと満面の笑みを見せる。
でも俺らって今までも黒衣装が多かったから、全然不自然じゃない。それはツイてるな、なんて。
それからもう一つは、ケータリングの時間。
「これって…何?」
俺から見たら色とりどりのサラダなんだけど、北斗にはわからないみたい。
「サラダだよ。レタスとか、赤とか黄色のパプリカとかトマトが入ってる」
「丸いのはやめとくか…」
それはトマトだろう。そっか、と笑って取っていく。
席に着いても、北斗は怪訝そうな顔をしてなかなか箸をつけない。
「どうした、やっぱり食べづらい?」
樹が心配して声を掛ける。
「いや…まあ、大丈夫」
そう曖昧に言って、ゆっくり箸を伸ばす。慎重に口に入れてから、やっとサラダの味がしたようで頬を緩める。
「案外困るのはこういうときなのか…」
大我が真剣な顔をしている。
「ふふ、大丈夫だって。味でわかるから」
と笑う。
最近、彼の口から「大丈夫」を聞くことが多い。本人は安心させようとしているんだろうけど、俺らとしては安心できない。
だって、その笑い方がちょっぴりぎこちないから。
どうしたら前みたいに笑ってくれるかな。
俺のギャグが必要かも。
いや、やっぱりみんなで歌うことかな。
そんなことを色々と考えてみても、正解なんて見つからなかった。
ずっとそばにいた人なのに、こんな大事なときに大切なことがわからないなんて。自分がすごく無能に思えた。
続く