テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
俺は、咲さんとおっくんのいる机に千歳を連れて行った。撤収作業中の二人に千歳を紹介する。
「こちら、私の同居人の金谷千歳です。たまたま来てくれたんで、列整理を途中から頼みまして」
咲さんは「わ! ありがとうございました!」と笑った。
「こんにちは、とっても助かりました!」
咲さんって笑顔の輝きがすごい。千歳もそれが眩しかったみたいで、『こ、こんにちは』とペコンと頭を下げた。
咲さんは愛想よく言った。
「すぐ撤収しますんで、そしたら焼き肉おごりますね!」
『え、焼き肉!?』
千歳の顔がパッと輝いた。
『そんな豪華なのいいのか!?』
「おかげさまで、大盛況をさばけたんで、これくらい」
咲さんはまた素敵な笑顔を見せた。
『わー、ありがとう!』
「いえいえ、遅いお昼になっちゃってすみません」
俺は自分の荷物を拾った。俺の男性服が入っているやつだ。
「すみません、私はちょっと、元の格好に戻ってきます」
「あ、メイク落としどうぞ」
咲さんが拭くメイク落としをくれる。
「どうも、すみません」
俺はコスプレ用更衣室に直行して女装を解いて、メイクも落としてきた。ウィッグ片手に戻ってきたら、撤収作業は完了していた。千歳も手伝ったようだ。
で、みんなで駐車場に行って咲さんの車に乗った。助手席俺、運転席咲さん、後部座席に千歳とおっくん。
『あ、おごりなのにこの格好じゃ食べ過ぎちゃうな』
ボンと音を立てて、子供の格好になる千歳。俺は「ちょ!」と千歳に叫んでしまった。
「ひ、人目のあるところでは、それはちょっと!」
『あっ、ご、ごめん、いつものクセでやっちゃった!』
千歳は慌てた。おっくんは目を丸くしていたが、千歳が怨霊だとわかっているのでそこまでは驚いてなかったようだった。
一番驚いたのは、咲さんだった。
「え!? ……え!?」
ミラーで後部を見ていたらしくて、咲さんは目を剥き、思い切り後部座席に振り向いた。
「な、何今の……え!?」
や、やっちゃった……いや、でも、千歳の七変化は見せる予定だったからな……。
俺はおずおずと言った。
「す、すみません、千歳怨霊なんで、いろんな人の姿に変身できるんです」
「怨霊!?」
「は、はい、こないだ説明した通り」
「な、何かの例えじゃなくて!?」
「なんの例えでもないんです、事実100%の話です」
「え、ええ……!?」
#幽霊
凛道桜嵐 新
193
#日常
がくじゅつてき・あかげ
22,155
わーい
41
485
「あの、狭山誉さんが咲さんに説明してることも、例えは特になくて、事実100%です。千歳は怨霊で、私は子々孫々まで祟られてるんです」
「え、え」
咲さんの目が、俺と千歳とを忙しく動いた。
「ちょ、ちょっと待ってください、兄、自分の四代前が化け狸とか言ってたんですけど!?」
「あ、そういう話は聞きました、こないだ九尾の狐さんから」
「九尾の狐!?」
パニクる咲さんに、おっくんはおろおろしていたが、口を挟んだ。
「いや、あの、千歳さん別に怖くないですよ、ゆっちゃんのことをすごく大事に世話してる人です、あと九尾の狐さんもいい人です、僕助けてもらったことがあるので」
「奥さんも事情知ってるんです!?」
咲さんはひっくり返った声で叫び、そしてうめいた。
「え、四代前が狸ってことは、私も狸……?」
咲さんがアイデンティティの揺らぎに瀕している!
「い、いや、四代前の人の一人が化け狸ってだけで、あとは人間みたいですよ」
「で、でも……」
咲さんはハンドルに突っ伏し、うめいた。
「ちょ、ちょっと待ってください、ちょっと、その、驚きすぎてて、車の運転ができそうにないんですが」
え、どうしよう、俺免許持ってないんだけど!
『お、おどかしてごめん……』
千歳もおろおろしている。千歳も免許あるわけないし、どうしよう……。
おっくんが片手を上げた。
「あの、もし問題なければ、僕運転しますけども……」
「……お願いしてもいいですか?」
咲さんは力ない声で言い、おっくんと席を変わって、車は駅周りの焼肉屋まで向かった。
コメント
1件
「アイデンティティの揺らぎに瀕している!」の一文、思わず笑ってしまいました。千歳の変身が咲さんにバレる瞬間の空気感がすごくリアルで、パニクる咲さんと慌てる千歳、そしておっくんのフォローが絶妙でした。でも千歳の「いつものクセでやっちゃった」が可愛くて、ほっこりします。焼き肉楽しみですね!🍖