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夜、青野君が誘ってきたピティナ・ピアノコンペティションのサイトを見てみた。
〇〇部門の上級の予選の課題曲はチャイコフスキーの「くるみ割り人形」か………。
一度聞いてみたけど、やっぱり上級の予選曲とあり難しい曲。弾いたことないけど…………これ大丈夫かな?一応大会に出ることは許可をもらったけど。
翌日。
廊下で青野君に会った。
「あ、青野君おはよう。」「望雲か。あれ、昨日のやつ。」「あぁ………一応オッケーだったけど。」「そうか。よかった。ってなったら早速明日から練習か?」「うん。ってか青野君ちは許可もらったの?」「そうだぞ?」「ですよね。あ、じゃあ私の家来て練習しようよ。父さんは夜勤だし、母さんも夜までいないし。」「分かった。」
ということで。
「いらっしゃーい。入って入って。」「おう。おじゃましまーす。」
翌日、青野君は放課後私の家に来た。
まさか蓮二以外の男子を家に入れることになるとはびっくりだったけど。
青野君はヤンチャっぽい性格だけど、おじゃまします言ってるし、靴めちゃくちゃピシって揃ってるし、意外と礼儀正しいところがあった。
「ほい。楽譜印刷してきたから。あ、もちろん連弾用な?」「そりゃそうだ。あ、私プリモ(高音域)やるよ。」「オッケー。じゃ俺セコンド(低音域)やるわ。」
パート分けをして、練習を始めた。
もちろん当たり前のことだけど、青野君はあれだけカラッとしていた感じなのに、いざ練習を始めたらスイッチを切ったみたいに黙々と練習に取り組んでいる。
ちょっと意外な感じ。普通にびっくりしたけど。
「くるみ割り人形」は明るくて少しおしゃれな感じだから、そこをうまく表現する為に頭のなかでめいいっぱい試行錯誤する。
練習しているうちに、普通にソロでも弾いてみたくなるメロディーで、結構楽しい曲だと思えてきた。青野君も伴奏を弾いているうちに自然と口角上がってるし、気分良くなってくるんだろうね。多分。
それから2人で1回演奏を合わせてみた。
意外にもメロディーと伴奏がピッタリ合った。っていうか青野君、私がちょっとつまづいちゃって演奏が行き詰まったら、青野君もそれにスピードを合わせてるし。青野君ノーミスだし。やっぱり勝負に勝った方だから、青野君の方がピアノの実力は上なのかも………………。
「桃野?」「はっ?」「は?」「あ、ごめん、怒ったつもりではないけど…。」「そうか。ならいいが。」「うん。そういえばさ……」「?」「青野君って、いつからピアノ習ってるの?」「は?習ってねーけど。」「えええっ!?」「うちのいとこがピアノ習ってんだけど、6年くらい前かな?家にいとこがピアノの楽譜を見せてれたんだ。そん時にちょっといとこに教わって弾いてみたんだけど、なんかそこで目覚めたんだよな。」「ってことは、あの実力も独学ってこと!?」「まぁ。」「えええええーっ!?!?!?ウソ!!!」「確かに信じ難い事だと思うが。ウソじゃないぞ。」「そんな……。」
青野君を見送ったら、自然に悔しさがにじみ出てきた。
私は幼稚園からピアノを習ってるけど、クラシックとかの曲を完璧に弾けるようになったのは習い始めて5年くらいだった。
青野君は自分でピアノの道を切り開いて、自分で進んできてあのクオリティだったら…………
また私の心のどこかに、ぽっかりと穴があいたような気がした。
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