声を かけつつ脱衣所のドアを開けると、そこにいたのはびしょ濡れで一糸まとわぬ姿の若井。
手にしたバスタオルで、湿った髪の毛を拭いてやると、少し擽ったそうにしたものの笑いはしなかった。
流れで気づかれないよう頬に触れると、お風呂上がりとは思えない程ひんやりとしていた。
それと同時に、良からぬ妄想が陽炎のように脳裏に立ち込める。
「ねえ、元貴、」
「俺ね、今日、夢を見たんだ。」
「どんな夢?」
「元貴と、結婚する夢」
ねえ、それって無自覚、なんだよね?
随分とまあ可愛いことを言ってくれるけど、若井の期待には添わないよ。
結婚なんかしなくても、そばにいてあげる。
たとえ若井が嫌になったとて、離れない。
でも今は、言わない。
「…そっか、良い夢、だね」
このバスタオルは、花嫁のベールなんていう陳腐なアイテムなんかじゃない。
もっとその先、遥か遠くの未来を見せてくれるものだ。
打ち覆い。
って言っても、伝わるかは分かんないけど。
棺桶に咲き乱れた色とりどりの鮮花の中で、ひときわ目立つ白。
若井が息絶えたその時、外の穢れから君のキレイな顔を守るための、レースの布。
俺が視ている未来は、それ。
若井のこと、看取ってあげる。
誰よりも慈しんで、弔ってあげる。
君の死を悲しんで、偲んで、苦しんであげる。
悲しみの中誂えた質のいい布で、他の奴らには見せたくもない俺だけの若井を堪能する。
生気を失った瞳で、見つめ合えたらどんなに幸せだろうか。
状態のいい死体は、氷のように冷たい。
だから、俺が精一杯抱きしめて体温で腐らせる。
腐敗しても愛おしい、俺の若井。
若井を愛せるのは俺以外いない。
若井を愛す人間も、俺以外必要ない。
死ぬまでも、死んでからも片時も俺は若井の傍を離れない。
何回輪廻転生を繰り返しても離れられない運命を、きっとこの布切れは導いてくれるから。
漠然とした希望を、信じてる。
生まれ変わっても必ず見つけ出して、
例え拒絶されたとて、
何度だって。
恋が叶わないなら殺せばいい。
殺したあとは、葬式を挙げよう。
「来世では恋人になろうね」って、
約束してから、一緒に業火で焼かれるから。
どんな痛みも、苦じゃないよ。
鏡に映る、自らの姿をジッと見つめる。
偽善者の微笑みを浮かべて、裏に聳える腹黒さが隠しきれてなかった。
俺は、本当に頭がおかしくなってしまったみたいだ。
全てを通り越して、死のことばっか考えてる。
手に入らないなら、殺してしまおう、とまで。
まるで悪魔みたいだ。
いや、もうすでに、内側の邪悪が姿を見せ俺は支配されている。
「壊したい」衝動を目に宿らせて、今か今かと待ち構えている。
だから、俺は鏡の中の「悪魔」に笑いかけた。
「まだ、だよ」
END…?
いや、自分で書いておいてアレなんですけど……
大森さん、怖すぎません……?
この作品も、夜に一人でビビりながら仕上げました。
たくさん読んでくださいね。
ちなみに、後日談もあるので。
もう少しお付き合いください。
コメント
26件
「生気を失った瞳で、見つめ合えたらどんなに幸せだろうか。」この文怖すぎて泣きました😭😭もっさんは岩がどんな姿であろうと愛し続けるんだろうな、、🫶🏻🫶🏻🫶🏻たとえ亡骸になっても、、🫶🏻 後日談楽しみにしています!!✨
最高すぎ、、、 言葉の選び方や、書き方が文学的でとってもお洒落で最高に好みです。 大森さんの歪んで重い愛を、若井さん受け止められるのか、、 大森さんも若井滉斗という男に狂わされてて最高、、後日談も楽しみにしてます☺️
ええええええ、、そ、そういうこと、? バスタオルくんまじかよう、、君そんなこともできんの、、 なんかニューマルの"抱きしめすぎる前に僕はいつか気づけますか" の歌詞が頭に浮かんで鳥肌やばかった、、 愛されてることに若井さん気づいてほしいなあ、、