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眠狂四郎
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こはる
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その魔法薬がここにあるという事は、やはりアサとヒルは兄弟。おそらくヨルもだろう。
「アサ様とヒル様って……」
ランナが言いかけた時にソファの後ろに控えていた執事が動いた。その手には銀色の懐中時計を持っていて、アサの横に移動すると小声で囁く。
「アサ様。もうすぐお時間です」
「……もうそんな時間ですか。残念ですが、僕はこれで失礼します」
何やら時間を気にしている様子なので、ランナが横を向いて壁掛け時計を見ると昼の12時直前であった。
国王ともなればスケジュールも詰まっているのだろう。単純にアサは忙しいのだと思った。
しかしアサは立ち上がろうともせずに隣のモニカと目を合わせる。モニカは察しているようで無言で頷く。
「それではモニカさん、また明日。後は頼みましたよ」
「承知いたしましたわ、アサ様」
壁に掛かっている振り子時計が鐘を鳴らす。ボーンボーンと腹の底にまで響くのは空腹のせいだろう。昼の12時だから当然だ。
ランナが呆然と振り子時計を見つめていると、隣のポーラが肩を揺すってきた。
「ランナ、見て、アサ様の髪が……!」
「え?」
視線を横の壁から正面に戻すと、アサの顔ではなく髪に目がいく。銀色のアサの髪が太陽の光でも浴びたかのように光り輝きながら金色に色付いていく。
驚く間もなく一瞬にしてアサの髪は金髪に変わっていた。その不可思議な現象よりも、改めてアサの姿を見た時にランナは別の驚きに声を上げる。
「……ヒル、様……?」
金髪に赤い瞳。その姿は紛れもなく、ヒル・ヴァクト。ランナが昼に出会った彼であった。目の前で髪の色が変わっただけではない。アサがヒルに変わったのだ。
紳士的な態度のアサから一変して、ヒルは揃えていた足を豪快に広げる。さらランナに向かって両腕を前に出して広げる。
「やっとオレの時間がきたぁ! あぁ、愛しのランナちゃん、会いたかったよ!」
その弾けるような眩しい笑顔も態度も口調も、穏やかで紳士なアサとは全く別人。完全に陽気なヒルになっている。
ヒルはランナしか眼中にない様子でいるが、この状況は疑問だらけでランナは口すら動かせない。代わりにヒルの隣のモニカが静かに口を開く。
「見ての通り、ヴァクト様は朝と昼と夜、一日に人格が三回変わるのですわ」
ますます状況が分からなくなったランナは、正面のモニカではなく横のポーラに顔を合わせる。
「えっと……それって、どういう事なの? 姉さん、分かる?」
「三重人格って事みたいね……」
ポーラも信じられない様子でいるが、自身の漆黒の指輪を見て確信した。ヨルは夜人格のヴァクトであると。
そんな姉妹の戸惑いを無視して、ヒルは立ち上がるとテーブルを越えてランナの横へと立つ。さらにランナの片腕を強引に掴み上げた。
「ランナ、行くぞ!」
「は、え……? どこへ!?」
「決まってんだろ、オレの部屋だ!」
これは、どう見ても『お誘い』だ。しかしランナはヒルよりも正面のモニカの方を見て困惑する。妻の目の前で他の女性を誘う行為は大胆すぎる。
しかし予想に反してモニカは全く動じないどころか冷えた目線でヒルを見ている。怒りという意味の冷たさではない。全く関心がない冷めた目だ。
12時になったと同時にモニカも人格が変わってしまったのだろうかと、ランナの中で次々と疑問が増えていく。
「あの、モニカ様、いいのですか……?」
「ええ。先ほど申し上げました通り、私は『朝の妻』ですわ」
その淡々とした口調で語られる衝撃の言葉から、状況は見えなくてもモニカの心は伝わる。
モニカは『朝のヴァクト』のみを愛している。文字通り『アサの妻』なのだと。さらにモニカの淑女らしい笑顔に乗せて衝撃の発言は続く。
「ランナさんは、ヒル様がお選びになった『昼の妻』。ポーラさんは、ヨル様がお選びになった『夜の妻』なのですわ」
ヴァクト陛下の三つの人格は、髪の色だけでなく性格も好みも全く違う。それは女性に対しても同じ。
昼に出会ったヒル・ヴァクトに金の指輪を贈られたランナ。
夜に出会ったヨル・ヴァクトに黒の指輪を贈られたポーラ。
二人はすでに王妃として王城に迎えられていた。
コメント
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わあ……第8話、めちゃくちゃ衝撃的でした!目の前でアサ様からヒル様に切り替わる瞬間、髪が銀から金に変わっていく描写が鮮やかで、まるで映画のワンシーンを見ているようでした。そしてモニカ様の「朝の妻」宣言……あの冷静な口調に込められた想いを思うと、胸がぎゅっとなりました。それぞれの人格が違う妻を選ぶなんて、この先どうなるんだろう……続きが気になりすぎます!