TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

夜、アパートのチャイムが鳴った。 この時間に訪れる者が誰なのか、悠翔は考えるまでもなかった。

ドアを開けた瞬間、風のように蒼翔が踏み込んできた。口には笑みを貼りつけたまま、手にはコンビニの袋。中身は酒と、乾いたスナック菓子と、ビニール袋の中で揺れる金属の何かだった。


「なあ、たまには兄弟で、さ。語らおうぜ」


その言葉の軽さと、踏み出す足音の重さが釣り合わない。


悠翔は一言も発せず、ただ玄関を閉めた。だが鍵をかける音が、自分の逃げ場を閉ざす音にも聞こえた。


蒼翔は床に腰を下ろし、酒をあけた。


「……陽翔も蓮翔も、最近ストレスたまってんだよ。俺がこうやって抜いてやってんの。感謝してほしいよな、おまえも」


酒の匂いとともに、怒りと暴力が滲み出す。蒼翔は悠翔の腕をつかみ、引きずるように床の上に倒した。


「動くな。声出すな。──弟の義務だろ?」


床に顔が押しつけられる。呼吸がうまくできない。背中にのしかかる重さと、鳴り響くベルトの金具の音。


鋲のついたバックルが、悠翔の背をなぞった。それは意図的に、ゆっくりと。


「やっぱり、おまえの身体って、なんか“使いやすい”んだよな」


笑い声が頭のすぐそばで炸裂した。


痛みと羞恥と、過去の記憶が曖昧に混ざりあって、意識の輪郭がにじむ。抵抗すれば、何かが壊れると知っていた。 だが、黙っていることもまた、何かを確実に蝕む。


「次、陽翔な。──それまで、跡は消すなよ?」


最後にそう囁き、蒼翔は空になった缶をテーブルに転がしながら出ていった。


ドアが閉まる。


静寂。


悠翔は、自分の胸に落ちた影の形を見つめたまま、動けなかった。


空白の肖像 悠翔 大学編

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚