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「企画書作り直したって?」

「え。別に来ていただかなくても。メールご覧いただくだけでよかったのに……」

輝馬は口をあんぐりと開けながら、日曜日の夕方だというのに、駆けつけてくれた上杉を見上げた。

「作り直したというか、第2案というか。経験のない俺にはわからないので、上杉さんから見て、どっちがいいか選んでいただきたくて。もちろんボツならボツでいいんですけど」

「……お前さあ!」

上杉はトレーナーにジーパンというラフな格好には似合わないビジネスバックを傍らに置くと、その中から小型パソコンを開き、ネットに繋いだ。

「ボツでいいネタなら大慌てで来ないっつの!」

「え……」

輝馬は上杉を見つめた。

「すげえ面白いよ。ストーカー女との攻防。逃げても逃げても追ってくる。それどころかどんどん近づいてくる。追われる側の恐怖がすごいリアルでさ」

プレゼン資料を開きながら、上杉は何度も頷いた。

「それにこのキャラデザのアカリちゃん?もう恐怖しかねえっつうか。どうやったらこんなリアルで怖いキャラ思いつくんだよ、お前は!」

笑いながら、輝馬が落書きパットで描いたストーカー女=アカリのイラストを指さす。

「まさに今までなかったホラーゲーム。ゾンビものも面白かったけどさ。勝負をかけるならこっちだなって思ったよ!」

「課長……」

輝馬は寝不足の目で上杉を見つめた。

「よし!19時までにプレゼン資料まとめるぞ!」

上杉は時計を見上げながら言った。

「そしたら景気づけに一杯行こうぜ!」

「はい!」

思わずそう言ってしまってから、輝馬はホワイトボードを見つめた。

企画会議は明日だ。

昨日と一昨日はほとんど寝ていない。できれば今日は帰って体力を温存したかったのだが……。

「ようし!やるぞ、市川!この企画は、俺が絶対日の目を見せてやる!」

「…………」

輝馬はその無精ひげの生えた汚らしい横顔を見つめ、「はいっ!」と頷いた。


◇◇◇◇


その後、宣言通りに19時前に企画書を終わらせると、上杉行きつけの焼き鳥屋に入った。

次々にジョッキを空にしながら、近代ゲームの可能性だの、世界における日本のゲームシェアの歴史だのを熱弁した上杉は、あろうことかカウンターに突っ伏して寝入ってしまった。

「ええ……。勘弁しろって」

自分も寝不足で思考力が鈍っているのだろうか。上杉が企画部内でも酒が弱くて有名な男なのをすっかり忘れていた。

かえって少し寝た方がすっきりするか放って置いたのがあだになり、本格的に夢の中に入ってしまった。

(今からじゃ終電に間に合わない。ここからなら、実家の方が早いな……)

とりあえずスマートフォンを取り出し、母にメールをする。


『今日、近くで飲んでるんだ。泊りにだけ行ってもいい?』


送るとものの数秒で返信が来た。


『いいわよ。何時?』


『もうすぐ。寝てていいから』


そこまで送ってからスマートフォンをポケットにしまうと、下手したら自分の1.5倍は体重のありそうな上杉を見下ろした。

「ーーどうしよう。コレ」

目を細める輝馬を、焼き鳥屋の店長は笑った。

「助っ人を呼ぶかい?」

「助っ人?」

「こいつの彼女」

(……彼女?)

輝馬は思わず上杉を振り返った。

(……こいつ、こんなナリして彼女なんていたのか?)

「それがさ、いるんだよ」

店長は輝馬の内心を読んだかのようにニヤリと笑った。

「超べっぴんの彼女さんが」

そういいながらカウンターの内側に置いてあった電話の子機を操作している。

驚きつつも輝馬はこれでなんとか帰れそうだと、安堵のため息をついた。


「あれ?市川君?」

「え、栗原係長……?」

30分後、現れたのはYMDホールディングス総務課のマドンナ、栗原菜摘(くりはら なつみ)だった。


年は上杉と同じくらいだろうか。

社内きっての美人で、浮いた噂の一つもなく、それでいて男の誘いは乗らないため、一部の僻んだ女子からは、同性愛者じゃないかとまで囁かれている女性だ。

「ちょっと大将~?会社の人と一緒なら行かないって言ったでしょう!」

「だって新人君、困ってたみたいだから」

店長が苦笑いをする。

「……ま、いいや」

栗原はそう言うと、慣れた様子で上杉のポケットから財布を取り出し、会計を済ませた。

「あ、すみません。ご馳走様です」

思わず言うと、

「それは明日本人に」

栗原は社内では見せたことのないような屈託のない笑顔を浮かべた。

「バレちゃあしょうがない。市川君、手伝って?」

彼女は「よいしょ」と言いながら重そうな腕を上げ、そこに体を滑り込ませた。


◆◆◆◆


タクシーに上杉を押し込み、なんとなく流れで後部座席に乗り込むと、車は栗原が案内するまま上杉のマンションに到着した。

「ほら!ちょっとは足を動かしなさい!」

右側から栗原、左川から輝馬に支えられた上杉は、なんとか足を動かし、やっとのことで部屋までたどり着いた。

「ベッドにとか無理……!!」

汗だくになった栗原は、リビングの照明をつけ、上杉をカーペットの上に転がすと、ハアハアと肩で息をした。

その上に投げつけるように毛布を被せると、呼吸を落ちつけながら輝馬に苦笑いをして見せた。


「ごめんねー?コイツ、ここまで酔っぱらうってなかなかないんだけど。よっぽど君とのお酒が美味しかったらしい」

そう言いながらキッチンに回ると、使い慣れた様子で食器棚を開け、コップを取り出して冷蔵庫から出したミネラルウォーターを注いでくれた。

「……付き合ってからだいぶ長いんですか?」

輝馬は素直に水を受け取りながら、リビングで鼾をかきだした上杉を見下ろした。

「うーん、まあね。7年になるかな」

栗原は自分の分も水を注ぐとそれを一気に飲み干していった。

「7年……」

「……そのころ市川君は高校生?」

他意はなかったのだが、栗原は自嘲的に笑った。


「若いよね。いいな、市川君は。これからなんだってできる」

「…………」

なんと返していいのかわからず、輝馬は当たりさわりのない話題を探した。

「……結婚とか、しないんですか?」

「…………」

栗原は空になったコップに唇をつけたまま、そのガラス越しに上杉を見下ろした。

「……私、子供が好きなんだよね」

「?」

どこかちぐはぐな会話に、薄く眉間に皺を寄せながら、その悲しそうな横顔を見つめた。


「こんな話、後輩のあなたにするのもどうかと思うけど」

栗原は笑いながら言った。

「EDなんだ、こいつ」

「ああ……」

輝馬はいよいよなんと言っていいかわからず、ただ頷いた。


EDは生まれてこの方幸いなことに縁がないから詳しくはないが、その原因は多岐にわたり一度重症化してしまうと治療も難しいと聞く。

筋肉粒々で、眉毛も体毛も濃く、見るからに男性ホルモンの塊という感じのする上杉でもそういうことがあり得るのか。

輝馬はあお向けて鼾をかいて眠っている上杉に同情の視線を送ってから、栗原に戻した。

「…………」

V字に開いたピンクのニットセーターの胸元は形よく盛り上がっている。

意外と大きい。

細いのにムチムチとジーンズに食い込んでいる太股も色っぽい。

(いい感じに脂の乗ったこの体を、上杉は抱いてないのか)

そう思ったらカッと体の中心が熱くなってきた。


「…………」

その視線を感じたのか、栗原が輝馬を見上げる。

「……っと、俺、帰りますね!明日もありますし。あ!これ、ご馳走様でした」

そう言いながらコップを流しに置く。


その手首を、白く頼りない手で掴まれた。


「…………」


振り返る。


栗原の潤んだ瞳が輝馬を見上げる。


「……内緒にしてくれる?」


彼女はピンク色の化粧っ気のない唇でそう囁いた。


ーーごくん。


自分の唾液を飲み込む音が静かなキッチンに響く。


「そ……それはもちろん!上杉さんにはお世話になってますし、デリケートな問題なので……」


「そうじゃなくて」


栗原はそう言うと、軽く手を引っ張り背伸びをしながら唇を合わせてきた。



そこからはもう止まらなかった。


夢中で唇を吸い、細い体を抱きしめながら、舌を挿入した。


彼女を閉じ込めるようにシンクに両手をつき、白い首筋に唇を這わせ、鎖骨を舌でなぞった。


「――あッ」


太ももをジーンズの上から撫でその中心に親指を押し付けてぐりぐりと押し込むと、栗原から甘い吐息が漏れた。


「ん……」


縊れたウエストをなぞりながらニットセーターをブラジャーごとたくし上げ、桜色の乳首に吸い付く。


「……はぁ」


ジーンズのチャックを下ろし、すでに濡れしきったパンツの中に手を挿し込むと、彼女の両手が輝馬の顔をつかみ、自分の唇に導いた。



完全同意。


彼女も同罪。


もはや共犯。


むしろ彼女が主犯。


そんな言い訳が輝馬の理性を吹き飛ばしていく。



煌々と明るいリビング。


その光がかろうじて漏れるキッチンで、


輝馬は上司の女を抱いた。



「ああンッ……!」


熟れ始めた肉体は甘く刺激的で、



「いやッ……あァッ……」


寝不足な上に酒に酔った輝馬の思考を溶かした。



「イクッ……!イク……イクッ……!」


疲れはてた体に鞭を打つように腰を振った。




上杉の鼾が聞こえなくなったことには、


気づかなかった。


◇◇◇◇


「……う、んッ……はあッ、はあ、はあ……」


白い腹に射精した途端、何かで殴られたかのようにグワンと頭が痛くなった。

輝馬は前髪をかきあげながら、まくり上げたブラジャーのせいで苦しそうにつぶれた乳房を見下ろした。


(……俺は、何をやってるんだ?)


リビングで寝ている上司。

バッグの中には数時間前まで彼と作成していた企画書。


目の前には今犯したばかりの、

7年付き合っている上司の女。


その事実に呆然となる。


(これはさすがに、無いだろ……!)


一気に頭の中が冷静になる。


リビングからは、まるで子供アニメの大魔神のような鼾が聞こえてくる。

それでも輝馬にとっては自分の心臓の鼓動の方が煩かった。


バレたらどうする。

バラされたらどうなる。


この女がもし万一、上杉に口を滑らせたら、


(……俺は、終わりだ)



ーー手が、栗原の首に触れる。


ーー指が、その頸動脈を押さえる。



『う……ぐっ!!』


あの声が脳裏に蘇る。



『やめて……ください……ッ!』


あの感触を指が思い出す。



『言わないから……私……誰にも言わないから!』



「市川君……?」


目の前にはシンクの上に座りながら、まだだらしなく両足を開いたままの栗原が見上げていた。


「……俺、帰らなきゃ」


輝馬は慌ててものをボクサーパンツの中に押し込むと、ろくにワイシャツも整えずにスラックスを履き直してチャックを上げた。


「車で送ってこうか?」


栗原の声が追いかけてくる。


しかし輝馬は玄関に置いてあったバッグを胸に抱えると、飛び出すように上杉の部屋を出た。




大通りに出てすぐにタクシーを捕まえ、飛び乗るようにそのシートに身を沈めた。


住所を伝え、車が動き出す。


輝馬はバッグからハンカチを取り出すと、額の汗を丁寧に拭き取った。


無線機の下にあるデジタル時計に、0:30と表示されている。


きっと家族は寝ているだろう。

その予想に輝馬は安堵した。



座り直して目を閉じ、下半身にわずかに残る倦怠感にうんざりしながら、大きくため息をついた。



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