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夜、目を覚ます。布団の中で目を開けたまま、天井の木目をなんとなく目でなぞっていた。眠れないわけじゃない。疲れていないわけでもない。ただ、目を閉じるとどうでもいい記憶が浮かぶだけだ。こういう時、少しだけ思い出す。暗い廊下。冷たい床。母親の声。兄貴の目。
――お前は熱を持たない闇人形だ。
…違う、オレは操り人形なんかじゃない。
――勝ち目のない敵とは戦うな。
何度も言われてきた言葉。今日の戦いでも、それは出た。考える前に体が動いた。躊躇なんてなかった。
――動くと切る♤
多分あれは本気だった。もしあの時、あの場所でゴンが殺されそうになったとしたら、オレはゴンを守れたのかな。あんな大勢の旅団相手に、立ち向かうことができるのか?オレ一人でもアイツらを振り切れるかどうかすら怪しい。けど、もしあそこで勝手に動き回ったりなんかしたら、その後どうなるかなんておよそ想像がつく。オレが動けば、十中八九対象の矢印がゴンに向かっていた。
――どうだっていい。他人なんて。
ゴンに出会う前までは、そう思っていた。そうやって生きてきた。昔なら普通だったはず。でも今は違う。違うはずなのに。
――逃ゲロ。
昔と同じ。何も変わってない。オレは結局、あの家の人間なんだ。どれだけ外に出ても、どれだけ自由になった気になっても、血は変わらない。指先に残る感触を思い出して、胃の奥が冷たくなる。もうたくさんだ。きっとこいつは知らない。オレの全部を。もし知ったら、どう思う?
今までたくさんの人を殺してきた。毒を盛ったこと。人を殺したこと。平気だったこと。今でも、必要ならできること。
――ゴンに嫌われるかもしれない。 それが怖かった。
近くから、規則的な呼吸音が聞こえる。隣のベッドを見ると、ゴンが寝てる。さっきまであんなに元気だったくせに、布団に入ってから数分で落ちるあたり、本当にこいつは変わらない。オレは小さく息を吐いた。部屋の外から風の音がする。窓の隙間がわずかに鳴った。こんな夜は、余計なことを考える。
――もし、いつかオレがいなくなったら、ゴンはどうするんだろう。
別に、予定があるわけじゃない。でも、そんな未来は現実の延長線上に、当然に存在してる。 オレはゾルディック家の人間で、ゴンはゴンだ。ずっと一緒なんて保証はどこにもない。胸の奥が少しだけ痛くなる。その時、隣から突然声がした。
「キルア?」
薄暗い影を見ると、ゴンが起き上がっていた。タンクトップの肩紐がずり落ちて肩のラインが見えかけている。
「…起きてたのかよ」
「ううん、キルア寝てないなーって思って」
「なんでわかんだよ」
「勘かな」
「はっ、なんだそれ」
小さな声。相変わらずいつもと同じ調子。とは言ったものの、さっきの眠気が薄ら残っていて、ぼんやりしていた。
「眠れない?」
「別に」
嘘だ。それ以上は答えなかった。 でもゴンは追及しなかった。 代わりに、布団が少し動く。次の瞬間、指先に温かいものが触れる。ゴンの手だった。無意識みたいに、軽く。掴むでもなく、ただ触れるだけ。
「なに」
「ん?」
「手」
「あ、ごめん。なんとなく」
逃げようと思えば逃げられる。なのに、その気が起きない。
なんとなく、それだけかよ。
でも手は離れない。オレも離さなかった。多分、離されたら名残惜しいと思う。そんな自分に気づいて少しだけ怖くなる。お互いの指が絡む。今度は、逃げられない形になる。でも別にそれほど嫌じゃない。むしろ安心する。近い。物理的に。でもそれ以上に。距離が近い。ゴンの手が絡んでる。心臓がうるさい。胸の奥が壊れそうだ。嬉しくて。怖くて。離れたくなくて。依存してるのが分かって。でも止められない。――オレ、もう無理だな。こいつなしじゃ。手の温かさと感触が余計に、胸を締めつけた。
「キルアさ」
「ん?」
「なんか怖い夢見た?」
「夢?見てねーけど」
「そっか」
二人の間に、しばらく沈黙が流れた。
「キルア」
「ん」
「今日、助かったよ。ありがとう」
「…別に。何回も言わせんなよ。普通だろ」
「そんなことないよ」
声がやけに素直だった。少しだけ間があった。それからゴンは続けた。
「キルアがいなかったら、オレたぶん危なかった」
その言葉は、軽くなかった。なぜか喉の奥が詰まる。
「でもさ」
ゴンの声が少しだけ低くなる。
「オレ、怖くなかったんだよね」
「は?」
「キルアがいたから」
心臓が止まったみたいだった。こいつは、こういうことを平気で言う。無自覚に。真っ直ぐに。残酷なくらいに。もし、いつか別れる日が来たら? その時、こいつはどうなるんだろう。オレ自身はどうする?分からない。分からないけど、ゴンが淡々と話す度、全部どうでもいいことみたいに思える。
「ゴン」
「ん?」
「…オレも」
言葉が詰まる。でも、少しだけ絞り出す。
「いやその…なんていうかさ…お前がいると安心するっつーか…」
沈黙。やっぱりなんでもない。そう言いかけた次の瞬間。ゴンが少し笑った気配がした。
「知ってる」
「は?」
「なんとなくね」
……また。なんだそれ。満更でもない表情を浮かべていた。ゴンに釣られたみたいに、オレの口元も緩んだ。手の温度がやけに心地いい。ふと、ゴンが窓の夜空を見上げて言った。
「星きれいだね」
「毎日見てるだろ」
「でも、同じ星でも見る人が違うと違って見えるんだって」
「ふーん。お前そういうの信じるタイプ?」
「んーわかんない。でもキルアと見る星は好きなんだ」
ずるい言い方だ。 意味を深く考えさせるくせに、本人は何も考えていない。
「変な奴」
そう言うと、ゴンはまた笑った。少ししてゴンの肩に重さがかかる。 オレが寄りかかったわけじゃない。 ゴンが、自然に距離を詰めてきただけだ。
「ねえ、キルア」
「今度は?」
「ずっと一緒にいられたらいいよね」
――っ。 一瞬、胸の奥が騒つく。
「…当たり前だろ」
否定はしなかった。ゴンは満足そうに頷き、しばらくすると静かに寝息を立て始める。肩に体重がかかるが、どかす気にはなれなかった。そっと柔らかい頬が当たる。
「……ほんとずりぃ」
小さく呟いて目を閉じた。こんな時間がずっと続けばいいのに。
ふーな‐解読者
#東京リベンジャーズ
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