「風磨さんが『朱里さんとも仲良くしたいんだけど』って言ったら、尊さんに色々文句を言われたみたいだけど、最終的に『食い気で釣れる』って教えてもらったみたい。その点は任されてるから安心して」
「もおお……!」
尊さんに食いしん坊を共有された私は、羞恥でバシバシと太腿を叩く。
春日さんは私の様子を見て笑い転げている。
「可愛い……! ねえ、松阪牛のハンバーグあげるって言ったら友達になってくれる?」
「もー! 弄らないでください! ハンバーグは食べたいですけど、バーグ抜きでも友達にはなりますよ。……ってか、こうやってお茶してる時点で友達じゃないですか」
そう言うと、春日さんはキョトンとした顔をしたあと、ニヤついて横を向いてしまった。
「そ、そんな……、何もしてないのに友達になってもらえるなんて、思ってないんだからね」
「ツンデレか」
私が思わず突っ込むと、エミリさんが手を打ち鳴らして笑う。
「……ていうか春日さん、友達のなりかた、分かってないでしょう」
指摘すると、彼女はサッと赤面して紅茶を飲み、図星なのを誤魔化す。
「友達になるのに条件なんてないですからね。暇があったら声を掛けてくれたら一緒に遊びますし、『今日こんなもの食べた』ってメッセージくれてもいいんです。友達になってほしいからって、何か〝もの〟を差しだすのは駄目ですからね。友達はゼロからスタートしてこそです。お金やものを与えないと友達になってくれないのは違いますから」
(ちょっとお説教臭かったかな?)
そう思いつつ春日さんに微笑みかけると、彼女は私を凝視してから、「…………好き」とボソッと呟いた。
「朱里さん、好き! こんな子、今までいなかったわ。あ~~~、なんていい子なの!? ちょっ……、どうしよう。なんか買ってあげたくなった」
「人の話聞いてました?」
私が突っ込むと、エミリさんは笑いながら言う。
「春日さんはこじらせてるなぁ~。……てか、そんな状態で今まで恋愛のほうはどうだったんですか?」
すると、私を見てソワソワしていた春日さんの動きがピタッと止まる。
そして眉間に名刺でも挟めそうな深い皺を刻んで重たい溜め息をつくと、まるでロダンの『考える人』のようなポーズで固まってしまった。
彼女はしばし黙っていたけれど、顔を上げて私とエミリさんを指でちょいちょいと呼び寄せると、小声で言った。
「……実は、ダメンズホイホイなの」
「オオン……」
聞いた瞬間、私は悲しい鳴き声を上げていた。
「どうしてですか? 三ノ宮グループでバリバリ働いてるし、駄目な人の見分け方はできてそうな、しっかりしたバリキャリなのに……」
エミリさんは気の毒そうな顔で言う。
春日さんはミニパフェを手に取り、スプーンで一口食べてからしばし沈黙する。
「……好きになったら何でも捧げたくなるのよね。というか、私自身が稼いで自立しているから、面倒を見てあげたくなるの。男性が『今度買うつもりだ』って商品名を口にしたら、サプライズで買ってあげちゃう。食事もご馳走するし、ホテル代も出しちゃう」
「ああ……」
スパダリ並みの財力に、私は思わずうめき声を漏らしてしまう。
「そうしたら、付き合い始めた当初は頼れる感じだったのに、気がついたらバブちゃんになってるのよ。なんでも私の言う事を聞いて、私の決定に従っちゃう」
「それ、ダメンズホイホイっていうより、ダメンズメーカーですね」
エミリさんに指摘され、春日さんは芸人さんの「ゲッツ」みたいな手で「That’s right」と頷く。
「恋をした時は『この人なら私をうまく管理してくれるかも』って思うんだけど、付き合い始めてプライベートな仲になると、私が忖度なく意見を言うものだから、相手は萎縮しちゃうみたい。付き合う人は紳士的な人が多いから、大体私の意見に折れてくれるのよ。……そうしたら、自然とバブちゃんが生まれちゃうのよね……」
彼女は次に食べる物を吟味しながら溜め息をつく。
「それで経済的にも優位に立ってしまうなら、おかんとバブですね……」
エミリさんは溜め息をつき、私も春日さんのポンコツな点を知り、親しみを感じるより同情的になってしまう。
春日さんは紅茶を飲み、しみじみと言う。
「あなた達二人は、恋愛するのに需要と供給が一致していていいわね。……私、自分がどんな人を求めているのか、何をしてほしいのか分からなくなってきたわ」
その時、私は思った事をつい尋ねてしまった。
「尊さんみたいに動じないスパダリがいたら、どうなりますか?」
その質問を聞いた春日さんは、想像するように視線を斜め上に向ける。
それから微笑んで、小さく首を横に振った。
コメント
1件
ぉぉん~😅💦 って言ったよ。アタシも読みながら。(笑)ꉂ🤣𐤔