「やめておくわ。人様の彼氏と付き合ったら……なんて、想像するだけでも失礼だもの」
彼女は冗談めかしてではなく、真剣に言う。
だから私はとっさに「冗談ですよ」と言えず、ドキッとして後悔してしまった。
「……すみません、変な事を言いました」
謝ると、春日さんはニパッと笑った。
「いいのいいの! 誰しも自分の側にいる人で『たとえば』を言いたくなるものよ」
「そういえば、今日のディナーはどうする予定なんです?」
エミリさんが話題を変えてくれ、春日さんが明るく答える。
私は美味しいスコーンやペストリーを口にしながら、変な空気にしてしまった気まずさを抱く。
そして大人の対応をしてくれる二人に感謝しながら、少しだけ自己嫌悪に陥った。
アフターヌーンティーが終わったあと、物凄いスイートルームにチェックインし、私たちはエミリさんとキャーキャー言って撮影会をし、尊さんにポポポポンと写真を送っておいた。
すると、すぐに彼からメッセージが返ってきた。
【良かったな。俺は今夜は寂しく一人寝するよ】
【枕に私のTシャツ着せて、アカリンを作っていいですよ】
【自分で作ったら寂しいだろうが。いいから、楽しんで】
スマホを見てニヤニヤしていると、春日さんが咳払いをし、ビクッとする。
「あとから報告ね」
彼女にニヤリと笑われ、私はミコトゥーとアカリンの事をどう話すべきか、冷や汗を垂らしたのだった。
部屋でもう少し話したあと、ディナーは同じホテル内にあるイタリアンに行き、コース料理を食べる他に、春日さんに「いいから食いねぇ」と江戸っ子のノリでキャビアをご馳走してもらった。
食事は事前に彼女が予約していたので、金額の書いたメニューを見る事はなかった。
けれど一か月後ぐらいに思いだしてホテルのサイトを確認した時、キャビアの金額を見て目玉がポロンと落ちてしまいそうになった。
でもご馳走してもらった食事、もらったプレゼントの金額を探るのはマナー違反なので、シュッと記憶からデリートしておいた。
私たちは一度コンビニに行って買い物をし、部屋に戻ったあと、ルームサービスでさらにシャンパンやワイン、ジュースにおつまみ類を持ってきてもらい、本格的に夜の部を開始した。
パジャマパーティーにしようという事で、それぞれメイクを落としてパジャマに着替え、それぞれソファの好きな場所に陣取った。
春日さんはトロリとしたベージュ色のシルクのパジャマ、エミリさんは白地に花柄のパジャマ、私はグレーのトレーナーみたいなのと短パンのセットアップだ。
「朱里さん、脚綺麗~。触っていい?」
春日さんはそう言って、私の返事を聞かずに太腿をサワサワ触ってくる。
「若い女の子の肌は違うわぁ~」
「春日さん、おっさんみたいですよ」
エミリさんが突っ込む。
「いいのよ、こうでもしないと女性の肌を合法的にに触れないんだから」
「『違法なら触れる』みたいな事、言わないでください。ガールズバーにでも行けばいいじゃないですか」
ガクリと項垂れると、春日さんは目をキラキラさせ、両手を胸の前にかざしてワキワキさせた。
「……あ、朱里さんのおっぱい触ってもいい? 大きくて、ずっと気になっていて……」
「おっさんか!」
今度こそ私も大きな声で突っ込んでしまった。
「ねぇ~……、いいでしょ? ちょっとだけ」
春日さんはハァハァ言って、両手を私の胸元ギリギリまで近づける。
「尊さんに怒られます」
「言わなきゃいいじゃない」
「……駄目だこりゃ。春日さん、完全に間男スイッチ入ってる。そのうち『先っちょだけ』とか言い出すわよ」
エミリさんが呆れたように言い、接近している私と春日さんの写真を撮る。
「……ま、松阪牛ハンバーグあげるから……」
「…………」
「朱里さん? 今ちょっと『胸触らせるだけでハンーグGETならいいかな?』って思ったでしょ」
エミリさんに突っ込まれ、私はブンブンと首を横に振る。
そのあと溜め息をつき、春日さんに胸を突き出した。
コメント
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ブハハ(*´艸`)春日姉さん、 先っちょだけ❣️ꉂ🤣𐤔 って ホントに言いそう‼️😅